179 精鋭集結
脱出の日なので初投稿です
迷宮転換の一報はイースガルドの冒険者ギルドから各地に散らばり国中どころか隣国にまで知れ渡った。迷宮の内容は第一発見者の報告によれば、魔物が魔術を使用してきたことから最低でも中級以上への転換が確定している事も同時に報告された。
その結果、一ヵ月もしない内に実力のある冒険者達が集まっていた。
「バーン王国の≪湯を愛する者達≫に連合国の≪行商組合≫、帝国の≪熊狩≫も来ている。お、これは教国の守護騎士見習いの一団だね、訓練にでも来たのかな?」
エリちゃんが楽しそうに書類を見ている。新たな迷宮はそれだけで金の生る木だ。内部のゴタゴタで金欠気味の冒険者ギルドとしてもうれしい悲鳴のようだ。
「周辺のギルドから人員も助っ人が来たし、後はこいつらをどうやってここに留めておくかだね」
「そんなに人手不足なのか?」
「最低でも文字の読み書きと簡単な算術が出来ないとギルドの仕事は出来ないからね」
「出来ないのが多いのか?」
俺もこの世界に来て先生のおかげで読み書きはある程度出来るようになった。アリスは大森林の村出身で狩人やっていたらしいので義務教育くらいはあるのだろうと思っていたが違うのだろうか。
「子供に教育をしているのなんて貴族と商人、後は一部の市民だけだね」
「学園は無いのか?」
「高くて誰しも入れるわけじゃないよ」
孤児院でも勉学の時間はあったはずだが。
「アレはお姉ちゃんが自主的にやっている事よ。どこの教会でもやっている事じゃないわ」
とクレアが補足する。もしかしてだけどこの世界教育レベル低いのか?
「そんなこんなで学がある住人は将来の仕事が決まっている連中が殆どなんだよね」
「だから補充員を捕まえる必要があるのか」
「王都の冒険者ギルドには冒険者やギルド員の養成所もあるって聞くし、やっぱりお金のある所は違うなあ」
「今回の迷宮で大分金が潤うんじゃないのか?」
「そんなの殆ど税金と負債で持っていかれるよ」
「ただの迷宮ならそうかもだけど竜種の迷宮だぜ?」
「じゃあうちの管轄内に緑竜の迷宮があるのに何で懐が寂しいのかな?」
「……もしかして、竜種だけじゃ金にならないのか?」
「一応あそこが一番収益は良いけど他の竜種とでは雲泥の差だよ。理由としては竜種に会えないというのがある」
「竜種に会える?」
世界中にある迷宮の中でも竜種の迷宮は別格に難しいという分けではないのか?
「竜種の迷宮は今の所4つ、緑竜の『風切りの洞穴』、赤竜の『赤竜火山』、青竜の『海上神殿』そして黄竜の『砂場の城』だ、その中で竜種に会えないのは緑竜だけだ」
思ったより会える、むしろシルフィードが少数派だった。
「他の竜種は会えるし何なら鱗程度なら簡単な試練で分け与えてくれるんだ」
確かに赤竜の時も体験ツアーみたいな試練で鱗を貰っていた(正確には眷属の竜人だが)な、もしかして青と黄も似たような感じなのか。
「青竜は魔物が凄い強いけど倒せないわけじゃない。それに最深部に行けば青竜が無償で鱗を分け与えてくれるらしい。黄に関しても最深部に到達すれば鱗をくれると聞いたことがある」
竜種の素材はそれだけで希少だ。武器や防具にすればそこらの魔鉄では太刀打ちできない性能になるし売れば金になる。
「そう考えると竜種に会えない緑竜の迷宮は旨味が少ないのか」
「そういう事、今回の黒竜だって収益としては最終的にシルフィの迷宮と同じくらいになるだろうね。それでも一番稼ぎのある迷宮がもう一つできるのには分かりないから多少はマシになるとは思っているよ」
「あらあらリーザったら、そんな事考えていたのね」
「その声は……シルフィ?!」
後ろを向けば『風切りの洞穴』の主、緑竜のシルフィードが立っていた。
「ごめんなさいねリーザ、今度からは貴女の為に私、身体を売るわ」
「ち、違うんだよシルフィ!決して君にそういう事をしてほしい訳じゃないんだ!」
「でも稼ぎが他の竜種より悪いって……」
「それとこれとじゃ……」
なんか痴話喧嘩始まったし、さっさと迷宮に向かおう。今日は集まった精鋭の冒険者達で大規模攻略が行われる日だ。一週間程長期で探索して迷宮の情報を集めるのが目的だ。1層目はあまり変わっていないので今回は2層目の地図化と次の階層への階段探しになる。
今回の主催も《鋼の肉体》の面々が執り行うらしい。上級ランクの冒険者同士だからなのか前回の様なゴタゴタも無くすんなりと迷宮に潜っていった。
「今回のトップバッターを務める『迅雷』だ。先ほど話した通り1層は殆ど転換前から変わっていないので一気に階層主まで向かう、付いて来てくれ」
俺達の宣言と同時に大規模攻略が始まった。
ロジャーの母性がやばい