176 名付け
誕生日なので初投稿です
「それで、連れ帰ってきたの?」
「概ねそんな感じだ」
スライム娘がくっ付いて離れないのでそのまま迷宮を脱出しソフィーと『親愛の絆』を発動させて今に至る。
最近はチートスキルを発動させる相手によってパラメーターにばらつきがある事を見つけた。
アリスなら身体能力や剣技のスキル、クレアなら状態異常耐性や回復能力、ソフィーは魔術関連全てだ。中でもソフィーと発動することによって発現するスキル『庭師の日常』の恩恵は凄まじい。特に体内の魔力の自然回復量は桁違いに上がる。にもかかわらず体内の魔力の回復が進まない。
「食べ盛りなのですね」
「ふにゅ~おとうさま~」
スライム娘は相変わらず俺にくっ付いている。魔物にとって魔素は空気に近い。通常、迷宮の外に出たら魔素が足りなくなって息絶えるはずだが、コイツは俺の魔力を吸う事で迷宮の外でも活動できている。というか今までの吸った量を考えると六竜とまではいかなくてもかなりの魔力をため込んでいるはずだ。
「そんな訳でいったん離れてくれないか?」
そろそろ『親愛の絆』の効果が切れる頃だ。手を握っただけで半身の魔力を全て持っていかれたのだ、胴体にがっちり抱き着かれている今は一瞬で全身の魔力を奪われて死ぬだろう。
「……」
今生の別れを宣告されたような顔をしないで欲しい。むしろ離れてくれないと一生離れ離れになるというのに。そんなに目に涙を溜めないで。
「しょうがないな、あとちょっとだけだよ」
「しょうがなくない!」
クレアがスライム娘を羽交い絞めにして引きはがす。魔力吸われるのによく出来るな。
「あんたスキルが無かったらとっくに死んでるの自覚しなさいよ!」
「やー!」
そうは言われてもあんな顔をされたら俺の中に存在する父性が発現するのだ。
「というか大丈夫か?魔力吸われない?」
「別に吸われてないわよ」
「おねえちゃんのおいしくない」
聖女の魔力は魔物と相性が悪いのだろうか?もしくは本当に味があるとか。
「それはそれでムカつくわね……」
じたばたと暴れていたが暫くして大人しくなった。衰弱しているのかと観察するが弱っている様子もない。単純に暴れ疲れたのだろう。
「クレアでも抑えられる程度の力しか無いのか」
「魔術系統に特化したスライムなのかもしれないね」
「ソフィー、どこに行っていたんだ?」
「迷宮研究所に魔物関連の研究資料を覗きに」
「それって王都にある研究所じゃなかったか?」
「クーちゃんが居れば王都なんてご近所さ」
なるほど。竜種をタクシー代わりに使うな。
「あそこって王立でしょ?よく入れるわね」
「雷魔術の一件で色んな所からオファーが来ててね。情報交換しているのさ」
朝から居ない日があったがそういう事だったのか。
「この子は一体どんな魔物はなんだ?」
「研究所の資料で一番近いのはマジックスライムだろうね。ただ人型になる個体は研究所の資料には載ってなかったよ」
「そもそもスライムに限らず魔物の中でここまで人に寄るモノはいるのか?」
狗人や豚人なんかは頭の形状こそ動物だが二足歩行をする生物だ。一番人の形状に近いのは小鬼や鬼人だろうか。後者には会った事は無いが。
「彼女の様な完全な人の姿になれるのはボク達が知っている中では竜種くらいだろうね」
「そのレベルかあ」
変異種過ぎるだろう。
「ところでこのスライムちゃんの名前は決まっているのかい?」
「いや、別に決めてはいないけど」
「いつまでも愛娘の名前が無いようでは不便だろう」
「娘ではないが」
「というかなんでお父様なのよ、一体どのスライムに仕込んだのよ」
俺が知りたいし仕込んだ覚えも無い。覚えは無いがいつまでもスライム娘というのも不便だし決めるか。
「スライムだし、スイとかどうかな?」
「すい……?」
「そう、君の名前。俺の国で水という意味だ。髪の毛や瞳が綺麗な水色だし丁度いいと思うんだけど」
「安直すぎない?」
「すい……すい……あたしすい!」
スイが自分をスイと認識した瞬間、彼女の魔素が急激に膨れ上がるのを感じた。魔力視で見れば先ほどまで吸い込んでいた俺の魔力が全て彼女の魔素として変換されていた。
「何が起きたんだ?」
「ふむ、やはり個体名に進化したか」
「なにそれ」
「迷宮で稀に生まれる迷宮主や階層主と同等の力を持つ魔物が居る。それをギルドが冒険者に広く知らしめる為に名前を付けるんだ」
「それがなんで進化に繋がるんだ」
「名前が付く前後でその魔物の強さが変わるという報告が上がっていてね。冒険者ギルドは個体名が周りの魔物を倒して強くなっているだろうと言っているけどボクはもっと別の理由があると考えていたんだ」
なるほど、それが個体名を付けるという行為だと。このタイミングで試すな。
殺したかっただけで死んで欲しくはなかった