168 サラマンディア戦
破傷風血清療法の日なので初投稿です
ウルガンの部屋への廊下を走る。前回この施設に入れば空調が効いており『氷嵐』を解除しても大丈夫だったが、今は涼しくなるどころか迷宮に入ってからどんどん熱くなるばかりだ。
「継承の儀を済ませてから様子がおかしくなったと言っていたが」
「シルフィード様の時はそのような事は起きませんでしたが」
「緑竜との相違点と言えば、やはり眷属だろうか」
眷属を作る時に補助的な俺達でも大量の魔力を持っていかれた。ならば儀式を行った本人であるサラマンディアはもっと持っていかれたはずだ。その後に竜種の能力を全て継承する儀式により、不安定になっているのかもしれない。
「ならばどうやって安定させる?」
「バランスを取るのが一番だろうね」
「どういう事よ?」
「眷属の儀式で減った所に当代の赤竜、今は先代か……まあその魔力が入ってきて体調を崩しているんじゃないかな」
「つまり……取りすぎた先代の魔力を排出させようってか?」
多いなら減らそうって事か、手段はともかく間違ってはいないな。
「それは出来ないんとちゃうか」
「うぉ?!アンフィスいつの間に」
「取り込んだ能力はウルガン様の全部や。外に出したら二度と手に入らんで」
「じゃあどうするのよ」
「出すんじゃなくて馴染ませるんや」
「馴染ませる?」
「せや、ウルガン様は竜種の赤、火を司る存在、そして戦いの神でもあるんや」
戦いの……神?そんなの初めて聞いたな。
「確かに六竜の伝承にはそういった記述もあるね」
「そうなのか?」
「豊穣の神としての青、癒しの神としての白、赤竜は戦神として有名だね」
神話では六竜は自身を作り出した神と共に混沌の世界を正したとある。その中でも赤竜はとても勇猛で、敵が現れるといの一番に戦ったとある。それもあってか武勲でのし上がった者は家紋に赤竜の意匠を入れる事が多々ある。特に冒険爵が多いらしい。
「つまりや、じっと静かに待つよりも戦って身体動かした方が速く良くなるんや」
そんな脳筋理論で行けるのか。まあ俺達よりアンフィスの方が赤竜事情は詳しいのだから合わせた方がいいだろう。
「分かった、それじゃあ治すためにサラマンディアと戦うか」
「ホンマか!いやあやっぱ兄さんたちは頼りになるなあ!」
「その代わり、追加で報酬貰うからな」
「そりゃあ勿論、報酬弾みまっせ」
前回ウルガンと戦った部屋の前に着く。扉が開くと今までとは比べ物にならない熱波が襲い掛かってきた。目や皮膚や焼けそうだ。
「くっ……『氷嵐』!」
更に『氷嵐』に魔力を入れて強化する。今回俺は魔術が使えそうにないな。
「ウグググ……」
部屋の中央にはサラマンディアが蹲っている。しかしその姿は竜人の時よりも更に全身を鱗が覆い、背中には立派な羽根が生えている。この迷宮の異常な熱の原因は彼女なのだろうか、座り込んでいる床は赤熱して溶けかけている。
「アレと戦うのか……」
「ワイもなんか手伝えるか?」
「部屋の冷却を頼む、あとウルガンと戦った時の消火剤も散布してくれ」
じゃないと俺の魔力が切れそうだ。俺の指示を聞いて制御室に走って行くアンフィス。
「俺とアリスで前に出る、クレアとソフィーはクー助と共に後ろから援護を頼む」
「かしこまりました」
「つまりいつも通りって事ね」
「ふむ、じゃああいさつ代わりに『水流針』」
ソフィーが水の槍を撃ち出す。しかし目標に近付くにつれて水が沸騰していき、当たる直前に蒸発して消えてしまった。どんな熱量だよ。
「ふむ、どうしたものか」
「あきらめずに攻撃を続けてくれ!俺達もいくぞ」
「はい、ご主人様」
前に進むと先ほどの『水流針』でこちらの存在に気付いたのかゆっくりとこちらを見る。正気の目では無いな。
「カアアア――」
口を開くと光が収束していく、アレはヤバい!
「アリス!後ろに!」
「はい」
俺の後ろに下がったのを視界の端に捉えながら盾を構える。光が一際強く輝くとレーザービームが発射された。
「『反射』!」
甲高い金属音の様な音が鳴り響き、口から撃ち出されたレーザーを上方向に逸らした。反動で吹き飛ばされそうになったが何とか踏ん張った。
「威力はタコ野郎以上だな」
顔が複数無くて良かった。こんなレーザーが2本も3本も飛んで来たら堪ったものじゃない。
攻撃を逸らした事を確認したアリスが俺の後ろから飛び出す、その手に握るのはシルフィードの小剣だ。
「せいっやあ!」
小剣を両手で握り、唐竹割りをするアリス。小剣は防ぐために掲げた腕を見事に切断してみせた。
「ガアアア!!!」
斬られた腕から炎が噴き出す。ウルガンより柔らかそうだ。攻撃に成功したアリスは反撃を想定してか追撃せずに距離を取る。
サラマンディアは炎が噴き出す腕をアリスに向けると、炎が意思を持ったかのように伸びていく。
「問題ありません」
アリスと声を出す前に心配ないと言われた。伸びる炎を華麗に躱して更に斬りかかる。だが流石に炎は斬れないようだ。
その間に俺も近付きもう片方の腕を剣で斬り落とした。
「よし、この調子で倒すぞ」
「倒しちゃダメですよ」
そうだった。
おのれe〇ぇ…