167 火口の底
いい風呂の日なので初投稿です
迷宮の入口を潜るといつもとは段違いの熱気が襲い掛かってきた。
「あっつ!『氷嵐』!」
「この熱さ、火口側の迷宮と同じくらいの熱さだね」
「コレ他の冒険者は大丈夫なの?」
「皆様、入口でぐったりしておりました」
今までの装備では火口の熱には耐えきれなかったのだろう。となれば地元の冒険者は誰も入ってこれないと考えた方がよさそうだ。
「とにかく奥に進もう」
「ワイは溶岩湖に向かうわ。弟はデカいからあそこから動けないねん」
「それじゃあ俺達は先に赤竜の方に向かう。後で落ち合おう」
アンフィスが溶岩湖の方に走って行くのを見送りつつ火口に繋がる隠し通路に足を向ける。
道中に現れた疑竜人は石柱を握っていたが、今までとは段違いの動きを見せていた。
「この動き……火口側の疑竜人と同じくらいか?」
「お気を付けください、他の魔物も動きが良くなっています」
火鼠も火精も強くなっている。特に溶岩人形はサイズが倍以上になっている。
「そういえば火口側で溶岩人形は見なかったな」
「ボクが思うに階層主に飲み込まれていたんじゃないかな」
「どういうこと?」
「人形系の魔物は核心となる精霊が操る物質を手に入れて初めて生まれる魔物だ、そして同じ所の精霊系は融合しやすい性質を持つ」
「それがなんで火口側で溶岩人形が居ない事に……あぁ!迷宮の形か」
広場の様な所では溶岩はいたるところに点在している。生まれた溶岩人形は溶岩から離れて徘徊を始める。そのおかげで溶岩人形同士が融合する事無く冒険者に討伐された。
「そう、すり鉢状の火口では溶岩は底に集中する。同じく生まれた溶岩人形も底に集まり融合を繰り返して階層主に成るまでに至った」
それなら火口に溶岩人形が居ないのもうなずける。だがこの前倒したばかりだから階層主を倒す必要はないだろう。火口にたどり着くと更に温度が上昇した。『氷嵐』に魔力を注ぐ、そろそろ消費量が無視できなくなってきた。急いだほうがいいだろう。
「そう思っていたんだが……」
「囲まれてしまいました」
火口側は狭い通路がメインだ。無視した脇道から付いてきた連中が前を塞がれたタイミングで追いついたようだ。
「全員相手をするのは少し骨が折れるな」
「いかがいたしますか?」
とりあえず進行方向の連中を倒して進むしかないか。俺が後ろからの魔物を足止めしてアリスに前の切り払いしてもらうか。
「まったく、ゴールは見えているのにこれじゃあたどり着けないじゃない!」
「目の前……その手があった!」
わざわざ道をたどる必要もない。真っすぐ行けるなら真っすぐ突き進めばいいんだ。
「クー助!クレアとソフィーを担いで来い!」
「きゅ!」
「アリス飛ぶぞ!」
「畏まりました」
「え、ちょっと……ウソでしょ!?」
「クレアが言ったんだぜ、ゴールは目の前にあるってな!」
「言ったけどそういう意味じゃ……きゃあああああああああああああああああああ!!!!」
崖の様に切り立った火口へ飛び込む、疑竜人達は俺達の様に飛び込んでは来ない。広場のアホ面の疑竜人ならともかく、こちらの賢そうな連中はそうはしないようだ。
ほぼ垂直に近い下り坂を滑り落ちていく。靴底がすり減って無くなりそうだ。
「びっくりして死んじゃうかと思ったじゃない!」
クレアがクー助の背中に乗りながら文句を言っている。俺の近くに居ないと『氷嵐』の範囲から離れてしまうため、羽根は広げて跳ねるように崖を下っている。
「クー助には乗りなれてるだろ」
「この角度物凄い怖いのよ!」
クー助の首に抱き着いているクレアは頭が下に向くような態勢で下っている。ソフィーは跨って上体を起こしている。
「確かにその姿勢は怖いだろうな。下に降りるまで我慢してくれ」
下を見れば火口の底に溶岩は貯まっておらずに未来的な出入口が見えている。流れ落ちてきた溶岩は整備された側溝に落ちている。側溝を飛び越えて火口の底に着地する。上を見るとアリスが落ちてきたのでキャッチする。お姫様抱っこだ。
「あ、ありがとうございます」
「大丈夫かい、お姫様?」
「ヒュ……」
顔が一瞬で赤くなる、言っておいて俺も恥ずかしくなった。アリスを下している間にクー助も到着していた。
「よし、急ぐぞ」
「クー助、少し大きくなって」
「何してんの?」
「ちゃんとキャッチしなさいよ……えい!」
俺の背より大きくなったクー助の背中から飛び降りるクレア、慌てて抱き留める。
「あっぶな、急になに」
「ほら、セリフ。女の子が落ちてきたのよ」
「……あー、お転婆が過ぎますよお姫様」
満足したのか離れて歩き出すクレア。上を見るとソフィーが見ている。流れは理解した。
「どうぞお姫様、俺を信じて」
「信じているさ、僕の王子様」
飛び降りたソフィーをキャッチして下すとクー助が小さくなりながらこっちを見てくる。みなまで言うな。
アイマス最高