166 異変
こどもの日なので初投稿です
「まさか本当にあるとは……」
「兄ちゃんなんやコレ?エライ輝いとるけどなんぞ高いモンか?」
「最高級品って言っても過言ではないな」
俺達の目の前には倉庫から取り出した魔金剛が鎮座していた。鉱物にしては綺麗な直方体をしているソレを持ってみる。ぼんやりと光る様を見ていると、そういうインテリアに見えてくる。
「本当にコレが魔金剛なのか?アリスのと比べて随分と違うが」
『正確には魔金剛の原材料です』
唐突に倉庫のアナウンスが話しかけてくる。
「原材料?これがか?」
『天素から生成された天鉱に現地の鉱石を混合させた物は魔鉱と呼ばれ、その中でも最も導魔率が高い魔鉱を魔金剛と命名しました』
「その言い方だとコレは天鉱なのか?」
『はい、その通りです』
魔金剛では無かったが、コレと鉱石を混ぜれば魔金剛になるのだろう。
「原材料という事は加工する部屋はあるのか?」
『加工場はフロア№252ですが、現在稼働しておりません』
場所も分からんし稼働もしていないようなら持って行っても仕方ないか。元に戻しておこう。
火属性の魔鉄を道具箱に入れ、魔金剛もとい天鉱を倉庫に戻した。
「持って行かへんのか?」
「今の俺達には手に余るシロモノみたいだし、必要になったら取りに来るよ」
武具を作るのには必要な材料は集まった、趣味とは言えがっつり迷宮探索して疲れた。残りの休暇はしっかりまったりと休むか。
翌日、資料館にいくと受付に座っている女性を見つけた。角も鱗もないしっかりとした人間だが顔に見覚えがあった。
「いらっしゃいまま……あら」
「本当にいた。卵はどうしました?」
「昨日はありがとうございました。おかげさまで元気ですよ」
「それは良かった」
「今日はどのようなご用件で?」
「そろそろ拠点にしている街に戻るのでご挨拶に」
「そうですか、お気をつけて。貴方に旅の追い風を」
街にある温泉施設巡りをする事数日、休暇の最終日になり帰るための買い物をしていると町の雰囲気が違う事に気付いた。宿屋に戻り全員に話を聞くとどうやら間違いではなかったようだ。
「なんでも迷宮の魔物が急に強くなったとかで観光客が何人も怪我をしたらしいわ」
「風切りの洞穴の件もあって、魔物氾濫の兆候なんじゃないかと言う事で観光客は立ち入り禁止、魔物討伐の為の冒険者を募集中と冒険者ギルドには掲げられていたよ」
「なるほど……」
魔物の活性化、緑竜の時を考えたら赤竜の一件での可能性は高そうだ。
「お客さん、人が来てるよ」
「人?」
「アンフィスの兄さんだよ」
「アイツか、通してくれるか」
宿の主人がアンフィスを連れてくる。
「兄ちゃん達、急で済まないが助けてくれないか」
「魔物氾濫の件か」
「なんや、もう知ってるんか。前にサラマンディア様の眷属を手伝ってくれたやろ?その後、継承の儀を行ってサラマンディア様が正式に受け継いだんや。そないしたらサラマンディア様まだ力をうまく制御できないようでな、火口の魔物が手前の広場にまで出てきてしまったんや」
「なるほど、それが魔物氾濫と勘違いされているのか」
「せや、このままじゃあ観光業が無くなって商売あがったりや」
「強い魔物が出る迷宮の方が町が潤うと思うが」
「え、ホンマか?」
強い魔物が出るならその分いい素材も出る、ソレを求めて冒険者や商人が集まってくるだろう。人が集まれば金も集まる。金が集まれば町も大きくなる。
「町が大きくなれば温泉施設も増えると思わないか?」
「確かにまだ町の周りには湧いているだけでなんもしてない温泉は沢山あるが……」
「開拓すればそこにも温泉旅館が出来て新しい温泉に浸かれるぞ」
「しかしワイらにも商売があるしなあ……」
「アンフィス君、聞きたいんだが魔物の強さって赤竜が決めているのかい?」
「ん?あぁ、ある程度はな、あの広場ももともとは火口と同じくらいやったんやが、ワイらが商売したくてウルガン様に頼み込んだんや」
「なら、広場の強さはそのままにして、火口の方を冒険者に開放してはどうだい?」
「な、なるほど……広場で今までの商売をしつつ、素材を求めてきた冒険者も集めることが出来る……新しい客層を大幅ゲットちゅう訳やな!」
というか、なんで今まで火口への通路を封印していたんだろうか。
「そりゃあ強い魔物を外の広場に出さない為で……」
「それだと魔物の棲み分け出来なくないか?」
「ホンマや?!」
がっくりと膝を付いてとうなだれるアンフィス。とは言えサラマンディアが制御出来るまでは観光業は全て止まるんだし、その事はあとにしよう。
「とにかく、制御出来ない原因を探そう。赤竜の所に向かおうぜ」
「うう、せやな……」
アンフィスをなだめ、俺達は再び火口の最深部へ向かう事にした。
ミライに行くドン