164 対赤竜戦
りんごの日なので初投稿です
「受けよ!我が拳!」
戦闘が始まると赤竜はその丸太、もとい大木の様な剛腕を俺達に向かって振り下ろす。
いきなりだが拳自体は遅い。クレアを抱え、ソフィーも……クー助に咥えられていたのでいいだろう、拳から逃げる。
「クレアとソフィーは後方で援護を、アリスは俺と前に出るぞ」
「畏まりました」
赤竜の拳が地面にぶつかる。すると殴った周囲が赤熱し、次の瞬間爆発した。
「……は?」
拳に火薬でも仕込んでいるのか?だがあの拳をまともに受けたら骨も残らなさそうだ。
「アリス、いつものようにギリギリの回避だとあの爆風でやられるぞ」
「はい」
「わはは!我が拳、いつまでよけきれるかな!」
赤竜の見た目はゴリラの竜種だ。大きさはシルフィードと同じくらいだが、特徴的な太く長い腕を誇示するかのように見せつけている。そのポーズはフロントダブルバイセップスか?
「ぐぐ……ゴアっ!」
そのまま口から炎を吐いてきた。
「拳じゃないんかい!」
だが炎なら多少ずれても『反射』出来る。盾で炎を弾き返し赤竜の顔面を焼く。
「むお!」
自分の炎で焼けるとは思えないが目くらましにはなるだろう。その隙にアリスが接近する。
「せいっやぁ!」
アリスの双剣が赤竜の足首を捉える。
「ぬう!やるではないか!」
「そういうのはダメージ受けてから言ってくれない?」
アリスが斬りつけた所に傷は見当たらない。よほど硬いらしい。
「ならこれはどうだい?『水流針』」
後ろからソフィーの魔術が飛んでくる。赤竜はそれを拳で打ち払った。
「よいぞ!もっと打ってこい!」
「もしかしてこの竜変態なの?」
きっとプロレスにおける受けの美学とかそういうのだと思うんだけど、はたから見ればそう思われても仕方ない。
「まあ、本人……本竜?がそう言ってるんだし、アンフィスが来るまで攻撃を仕掛けよう」
「こないのか?ならば今度はこちらからいくぞ!」
赤竜は拳を地面に叩きつけると爆風を利用して跳躍してきた。とんだ方向と角度からして……狙いはソフィー達か!
「クー助、二人を連れて回避!」
「きゅう!」
指示を受けたクー助が二人を自身の背中に放り投げて乗せると、一気に走り出す。
「む!お主もしや……!」
「背中ががら空きだ!」
赤竜の足に向かって今度は俺とアリスの2人で攻撃する。
「『水刃』!」
「せいっやぁ!」
先ほどのキュクロプスでは『氷嵐』を使用していたせいで魔術が使えなかったがここは使って耐熱を上げる必要が無い。付加を掛けた剣で斬る。アリスもシルフィードの小剣に持ち替えて斬りつけた。
『水刃』によって生成された水の刃は表面に僅かな傷をつけた瞬間に蒸発し、剣本体が僅かな傷に食い込み表面の鱗を切り裂く。さらにその切り裂いた傷に向かって小剣が突き刺さり、赤竜の身体から血が噴き出る。
「どうだ!」
「ぬおう、良いぞ、良いぞ!良いぞ!良いぞ!我が肉体に傷が出来るのは何百年ぶりだ!」
足首から血を垂れ流しながら大喜びする赤竜。どうしよう……もしかして本物なのかもしれない。
「これぞまさに死闘!我が本能に宿る闘争が歓喜しておる!滾る……燃え滾るぞおおおおおおおおお!!!」
雄たけびと共に赤竜の身体が燃え上がる。魔力視をしていなくても奴の魔力が膨れ上がるのを感じる。もしかしてヤバいスイッチ押したかも。
「三度食らえ、我が拳を!ぜあぁ!!!」
空手の様な構えを取り、拳を突き出す。いくら巨体とは言えその位置からでは届かない。しかし突き出した拳から炎で出来た拳が飛び出してきた。
「遠距離攻撃できるのかよ!」
ただでさえ拳の爆発で範囲が広い上に炎の拳で遠距離も攻撃できるとなると、攻撃の手を止めれば消し炭になる攻撃が飛んでくる。幸い攻撃を仕掛ければ受けてくれるので。常に攻撃を仕掛け続ければ赤竜が攻撃をしてくることは無い。
「完璧な作戦だな。不可能という点を除けば」
「どうなさいますか」
「ヤツはこちらが攻撃している間は受けに回ってくれる。ひたすらに攻撃し続けて相手に攻撃させるな」
「畏まりました」
「ソフィーも攻撃魔術を仕掛け続けてくれ!」
「そうなると、こっちの方がよさそうだ」
『水流針』が止まり、代わりに赤竜の周りに魔術陣が浮き出る。
「『雷雨』」
「ぐおおおおおおお!!!」
雷の雨が赤竜に降り注ぐ。確かにコレならその気になれば魔力が切れるまで発動し続けることが出来る。しかしそれは大量の魔力が必要になる。『親愛の絆』で強化しているならともかく、素の状態では無理だ。
「無茶をするな!」
「大丈夫、あと7秒は稼げる」
「ご主人様」
「……『雷雨』が終わると同時に俺が攻撃する。アリスは合わせて攻撃してくれ」
「畏まりました」
「足りぬ……」
雷の雨を受けていた赤竜がその身から噴き出す炎で身体を包む。炎の卵の様になると『雷雨』が弾かれ始める。
「足りぬぞおおおお!!!」
炎の卵が爆発する。卵じゃなくて爆弾だったか。
「アリスこっちに!『土石槍』!『水流壁』!」
作り出した岩陰に隠れてさらに水の壁を三方に立てる。ソフィー達は魔法盾を展開している。ソフィーは限界まで『雷雨』を撃ち出していたので『水流壁』を出せないのかもしれない。
「三人が危ない……!」
「ですが今出てはご主人様にも危険が……!」
魔法盾にヒビが入り、今にも割れそうな時、ジリリという警告音と共に天井から水と煙の様な何かが噴き出した。
≪間に合うたか?≫
同時に天井からややくぐもったアンフィスの声が聞こえた。
馬