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156 満月の夜

バイオリンの日なので初投稿です

 別の意味でゆでだこになりそうな風呂からあがり、部屋に集まる。


「みんな集まったな」

「集まったも何も夕食終わったら部屋に帰って来るじゃない」

「ボク達酒場で飲む趣味もないしね」


 それもそうだ、俺もイースガルドに戻れば飲み仲間がいるが一人で飲むにはこの世界の酒は少々美味しくない。


「それは置いといて、明後日の予定なんだけど」

「明後日?……あぁ」

迷宮(ダンジョン)の攻略日だね、君は毎日潜っていたけど何か成果はあったのかい?」

「まあね、階層主(エリアボス)だと思われる魔物(モンスター)には遭遇した。俺とアリスだけでは倒すのは難しいと思って撤退したのがさっき話した事だ。だが全員で挑めば倒すのは容易いと考えている」


 巨大になったとはいえ元は溶岩人形(ラヴァゴーレム)だ、なら対処方法も同じなはずだ。


「明日はどうするんだい?また迷宮(ダンジョン)に向かうのかい?」

迷宮(ダンジョン)攻略に向けて休憩しようと思ってる」


 こちらに来てから迷宮(ダンジョン)に潜るか温泉に浸かるしかやってないしな。


「なら、あたしが案内してあげるわ。どうせ迷宮(ダンジョン)に行き過ぎててこの町の事何にも知らないでしょ」

「いいのかクレア?」

「あたしが誘ってるのよ。まさか断るつもり?」

「まさか」


 俺と違って町を見て回っていたことは話に聞いている、是非とも美味しいお店とかと教わろう。


「じゃあ、明日に備えて寝ましょ」

「もうか?」


 寝るには少し、というか大分早い。酒場に行って最初の一杯を飲んだぐらいの時間だ。


「起きててもやる事無いじゃない」

「ないか?」

「そうですね。無い訳ではないですが、今やらなくてはいけない訳でもありません」

「ボクも同じかな」


 そういう事なら寝るか。敷かれた布団に潜り明かりを消す。早すぎて寝れるか不安だったがすぐに眠気が来たので身を任せることにした。


「……んう」


 寝ていたら尿意に起こされた。そういえば寝る前にトイレに行くのを忘れた。


「ここのトイレ外だっけ……」


 廊下に出てみると、もう夜も遅いのか他の部屋から漏れ出る光も無い。


「真っ暗だな……『照明(ライト)』」


 ランタン代わりに魔術で明かりを用意する。暗い迷宮(ダンジョン)で使う魔術だがランタンなんかより明るいので日常生活でも活用している。蝋燭やランタンしかないので、燃料や蝋燭の消費を抑える為に早く寝るのが一般家庭では普通らしい。光る魔石なんかもあるらしいがそこそこ高価だしそんなに明るくない。酒場や夜のお店なんかは使っているらしいが。


「だったら自前で作っちゃうのが一番安上がりなんだよなあ」


 大体天井の中央に平たく円形に伸ばした球体を置いて蛍光灯の様にしている。工夫して柔らかい光を出せるようにするのは中々に苦労したがおかげでかなり完成度の高い照明(ライト)が出来たと思っている。


「……!」

「……ん?」


 後ろから物音がするので振り返るが誰もいない。他の客か?


「気のせいか……おっと、トイレトイレ」


 外に出てトイレに入る。そろそろ秋になろうという時期で、山中の町なのにそこまで寒くない。町の中央を流れる温泉混じりの川や火山の迷宮(ダンジョン)がそうさせるのだろうか。

 トイレから戻り皆が起きない様に魔術の光を極力抑えてから部屋に入ると、窓際に置かれた椅子に座り本を読むソフィーが居た。旅館の部屋にあるあの窓際のスペースってなんだろうな。


「こんな夜中にどこに行ってたんだい?」

「トイレにね、寝ないのか?」

「今日はお昼に寝すぎちゃってね」


 対面の椅子に座る。ソフィーの膝には小型犬サイズまで小さくなったクー助が寝転がっている。


「クー助も起きているのか」

「この子はそもそも寝ないんだ」

「そうなの?」

「あぁ、竜種(ドラゴン)の特性なのか、クーちゃんの特性か分からないけど。ボク達が寝ている時はクーちゃんは一人ぼっちなんだ」


 声が聞こえたのか顔を上げるクー助。みんなが寝ているの理解しているのか何時もの元気な鳴き声は上げずにローテーブルを渡って俺の方に来る。膝の上に来たクー助の身体を撫でながらソフィーを見る。読んでいたであろう本を置いてこっちを見ている。


「こうして、二人っきりで話すのは久しぶりだね」

「あぁ、まえはいつだったか」


 俺の傍には大体アリスが居るからな。


「二人きりで喋ったのは学園以来かな」

「そんなに前か」

「まあ、ボクはクレアみたいに饒舌ではないからね。誰かを喋って楽しませるのも得意ではないし」

「そうか?俺はソフィーと喋ってて楽しいぞ」


 俺の知らない知識や考えもつかない手段を提示してくれるし、それが依頼(クエスト)の役に立った事は一度や二度ではない。


「ふふっ、君は相変わらず女性の喜ばせ方を分かっている」

「そんなことないよ、前のせ……生活してた場所じゃあ女性との接点なんて家族位なもんさ」

「そうなのかい、女性が少なかったのかい?」

「いや、居たんだけど、あんまり関わらなかったんだ」


 高校も大学もオタク友達としかつるんでなかった代償だ。


「じゃあ、君が知っているのはボク達の喜ばせ方なんだね」

「そうだなソフィーやアリス、クレアを喜ばせたいとはいつも思ってるよ」


 俺みたいな変な奴に付いて来てくれる人なんてそうそういなしな。少しでも恩返しはしたい。


「ふうん……じゃあボクが喜ぶ事も知ってるよね?」


 ソフィーが身を乗り出してこちらに近付いてくる。先ほどのクー助と同じようにローテーブルを渡り、膝の上に乗る。クー助はいつの間にかいなくなっていた。ソフィーはそれだけに止まらずに俺に顔を近づける。これキスする流れだけど口臭大丈夫か。ふと、俺の肩を掴むソフィーの手が震えている事に気が付いた。


「逃げないんだね」

「好きな女の子が迫ってきてるのに逃げる程意気地なしではないよ」

「君らしいね……ん」


 震える手と頬に手を添えてこちらからキスをした。


突然無から生えた2歳年上の幼なじみ

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