155 溶岩巨人
献血の日なので初投稿です
溶岩の蹴りによって吹き飛ばされる。
「ご主人様!」
とっさに後ろに飛んで多少なりとも威力を殺したが意識が吹き飛びそうな威力を貰ってしまった。
「ぐっ……!」
壁に直撃する前に『風槌』を連続で出して減速、体勢を変えて壁に着地する。
「……っぶねえ、元の世界だったら挽肉になってたな」
トラックに轢かれるとこんな感じなのだろうか。轢かれた主人公たちはこの衝撃を食らってよく平静でいられるな。重力に従って落ちていく身体を壁を走るように駆け下りる。壁が垂直ではなく少し斜めになっていて走りやすい。まあ真下は火口の溶岩があるので立てそうな地面に向かって走っているのだが。
「アリス!その溶岩巨人から目を離すな!何してくるか分からないぞ!」
実際後ろを取ったと思ったら目玉が後ろに回ってきて正面になったのであの巨人に前後という概念は無さそうだ。
「……っ!畏まりました!」
俺の元に駆け寄ろうとしたアリスに声を掛けて巨人に目を向けさせる。今一番近いのはアリスだ。俺に注目して巨人の攻撃を受けたら大変だ。実際に巨人は腕を振り上げている。
「せいっやあ!」
巨人の拳を躱して手首を斬りつけるアリス。直撃し、大きな傷が生まれるが溶岩が傷口から盛り上がってすぐに元通りになってしまった。
「物理攻撃は効かないか」
「手ごたえはありましたが……無念です」
ボディは溶岩人形なのだからその特性が残っているのだろう。そうなれば冷やして固める外ない。
「いかがいたしましょうか」
「ふむ……」
物理は無理、魔術は『氷嵐』で手一杯。圧倒的に火力不足だ。ならば。
「撤退するぞ!」
「畏まりました」
今の俺達に倒す術は無い。無いなら無理に挑む必要もない。幸いなことに動き自体はそこまで俊敏ではない。さっさと帰る事にしよう。問題は主部屋に入った事により出入口が塞がれている可能性であるが、見た所結界が貼られているようには見えない。
「急いで出るぞ」
「はい」
今度は足を上げで踏みつけを行う巨人。踏みつけを再び左右によけて回避、そのまま出口に向かった。
◇◇◇
「それで?」
「いや、主部屋から出たは良いけど、その巨人が火口の溶岩に飛び込んだと思ったらさらに巨大化してな、上に登っても昇っても巨人の目玉が追って来るもんでヤバかったよ」
「最後間に合ってなかったら溶岩で焦がされていましたね」
ギリギリの所で火口から脱出出来た俺達はそのまま迷宮を抜けて宿屋に戻ってきていた。
「どおりで焦げ臭い訳だ。後ろ髪少し焦げていないかい?」
「マジ?ちょっと後ろどうなってる?」
「毛先が少し焼けていますね整えますので少々動かないでください」
「いや、ここでやらないで何処か外でやりなさいよ」
それもそうだ、ここでやったら掃除が面倒だ。
「それでしたらちょうどいい場所がありますのでそこでしましょう」
そうアリスが言うので付いて行くことにした。
「風呂場じゃん」
辿り着いたのは宿の露天風呂だった。
「ここでしたら直ぐにお掃除できますので」
「服を脱いだ意味は?」
「迷宮でお召し物も焦げ臭くなっていましたし、汗も掻いていましたので丁度良いかと」
「それはそうだが……」
浴場の椅子に座り髪を切られている。腰にタオルは巻いているが四捨五入すれば全裸だ。そしてそれはアリスも同様だ。見ない様に目をつぶっているが、髪を切る音や頭に添えられる手から推測すると後方に居る。
「服は着てても良かったんじゃないかな?」
「焦げ臭さは放置すれば服にしみ込んでしまいます。早く洗濯しないと取れなくなってしまいますので」
なら、仕方ないな。髪を切る位置が後ろから側頭部に移動する。それに伴ってアリスの気配も真横に来る。
「折角ですから、このまま全体的に髪の毛を整えていきますね」
「そうだな、簡単に手早く頼む」
この世界に来て半年以上経つ、来たばかりの頃は整った髪だったが、それだけ経てば髪も伸びる。床屋に行けば良いのだが、その床屋が厄介だった。この世界の床屋は簡易的な医療行為を行う外科医も兼ねている。この簡易的な医療行為というのが瀉血、膿の摘出、そして抜歯だ。しかも現代と違って衛生観念というものは存在しない。消毒する事無く同じ剃刀で他人を斬るので、初めて行って以降、髪の毛はアリスに任せている。
「迷宮は熱いですし、全体的に少し短くしておきましょうか」
「そうだな、それで頼む」
「畏まり……あ」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません。髪の毛斬りますね」
チョキチョキとハサミが動く音がする。目を瞑っている時に耳元でハサミの音を聞くとちょっとぞわぞわする。しばらくして終わったのかハサミの音が止まった。
「次は髪の毛を洗いますので頭を下げてもらってもいいでしょうか」
「こうか?」
「ありがとうございます。それではお湯、お掛けします」
後頭部にシャワーのお湯が掛かる。髪の毛を濡らすと洗剤を髪に掛けられて頭を洗われる。ここに来てから毎日アリスに身体を洗われている気がするな。人は贅沢な生き物で、最初はドキドキしていたが今は慣れたというか、受け入れたからか、この時間がとても落ち着くようになった。
「本当に贅沢な時間だな」
「なんでしょうか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか、次はお身体洗いますね」
ヌルリと何かが身体に触れる、いつもアリスが自分の身体で洗おうとするがタオルを巻いているのでもこもこなのだが、今日はつるつるぷにぷにしている。
「なんかいつもと違くない?」
「はい、今タオルが取れてしまったので少し感触が違うかもしれません」
「それは少しどころではないな?!」
どおりで何処かで感じた事のある感触だと思ったよ!
金槌を集めろ