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153 水掛け論

鼻の日なので初投稿です

風槌(エアハンマー)』に通常の10倍の魔力(オド)を込め、サイズをそのままにすることによって極限にまで攻撃力を上げたのがこの『破城風槌(バタリングエアラム)』だ。実験段階では厚さ1mを越える『土石槍(アースグレイブ)』の壁を粉砕する事に成功している。

 魔術の衝撃で脚を自身の関節以上に上げられたことにより、胴体が傾きだした赤竜ことバイネイン。その間に地面に接している方の足に冒険者達が攻撃を加えているおかげで膝がガクついてきている。


「全員退避!倒れるぞ!」


 俺の号令に冒険者達は一気に赤竜から離れる。観光案内で稼いでいる冒険者だが、どうやら戦闘のスキルはまともらしい。支えていた脚は崩れ落ち、背中から地面に倒れたバイネインは手足をバタつかせながらなんとか起き上がろうともがいている。


「やったぞ!」

「チャンスだ!」


 倒れたバイネインの顔面に群がる冒険者、噛みつかれても知らないぞ。とは言え、彼は未だ混乱の最中にあるらしい。このまま顔を攻撃されたらさらに暴れるかもしれない。


「ご主人様、如何なさいますか?」

「しょうがない、水でもぶっかけるか」


 魔術で水を生成する。頭をすっぽり覆うほど程度の水量だが、バイネインが大きいので25mプールが一杯になりそうなほどの水量を用意する事になった。


「これで、目を覚ましな!」


 大量の水をバイネインの顔面にぶつける。何人か冒険者も巻き込まれたがまあ攻撃じゃないし大丈夫だろ。


「赤竜様!」


 水を顔面に受けて混乱がキャパオーバーになったのか硬直するバイネイン。その隙に試練の管理を行っているスタッフ、擬人化した疑竜人(リザードマン)達が寄って行って話しかけている。冒険者が居る前でバイネインと名前を言っているので恐らく疑竜人(リザードマン)にしか分からない言葉で喋っているのだろう。その後、アンフィスが冒険者や観光客を集めて説明を始めた。説明を聞いた人々は大体は納得していたが何人かはごねているようだ。


「おい、『迅雷』も何か言ってくれや!」

「俺がか?」

「今回のリーダーはお前らなんだから当然だろ!」


 指揮を無理やりまとめる為に言った手前、こういう面倒な事もリーダーの仕事だ。ここで下手な交渉をすると次回以降の旅団(レイド)を組む時に呼ばれなくなったりするので大変だ。


「そうは言ってもバイ……赤竜様は魔物(モンスター)なんだから交渉なんて出来るのか?」

「そこは神官と話し合いで決めてくれ」


 神官、スタッフの事か。赤竜とコミュニケーションが出来るからそういう事にしてあるのか。交渉の席に着くと相手はアンフィスだった。


「という訳なんだが、何とかならないか?」

「そうは言うてもなあ……。とりあえずクリア報酬の鱗を全員に配る程度しか出来へんで」


 アンフィスが懐から取り出した手のひら大の鱗を取り出す、まあそんなもんだよな。大人しくしているバイネインを見る。全身を見るとトカゲだが、立派な角など普通のトカゲには無い要素は沢山ある。


「なあ、あの角って生え変ったりしないのか?」

「ツノぉ?生え変りはするけどこの前抜けたのは確か20年くらい前かなあ」

「残してたりしないのか?」

「まさか、残してても邪魔なだけだし火口に捨ててるわ」


 火山の火口をごみ処理場にするんじゃない。


『この角は君達にとって貴重な物になるのかい』


 溶岩湖の方から重低音の音が聞こえる。振り向けば冒険者や観光客がバイネインを見ている。彼が喋ったのだろうか。


「バイネイン、聞いとったんか」

『今回は僕が原因だからね。それでどうだい、冒険者さん』

「確かにその角なら文句を言う奴は居ないだろう」


 それを聞いて自分自身の角に手を伸ばして力を込める。ミシミシと音を立てて角が曲がる。


『ぐうぅ……』

「かなり痛そうだが、大丈夫なのか?」

「バイネインのアホ!そんな無理すんな!痛いに決まっとるやろ!」

『でも、僕にはこれぐらいしかできないから……』


 生え変ると言っている以上、角が抜ける構造にはなっているだろうが、時期ではない時に抜くのは無理があるようだ。というか折ろうとしているのだからなおさらか。


「仕方ない、アリス」

「どうぞ、ご主人様」


 アリスに言ってシルフィードの小剣を手にする。


「何する気や?」

「ちょっとした手伝いさ」


土石槍(アースグレイブ)』と『風槌(エアハンマー)』を使って大ジャンプをしてバイネインの角に近寄る。剣を上段に構えて『風刃(エアブレイド)』を発動させる。


「少し痛いが我慢しろよ、『大切断(オーバースラッシュ)』!」


 剣を構えたままさらに跳躍、縦方向に一回転しながら角に一太刀浴びせた。

 俺達が持っている中で一番の切れ味を誇る小剣は、風魔術が使えるようになるだけではなく魔術の性能を強化する性質も持ち合わせている。小剣の性能で強化された『風刃(エアブレイド)』は鉄程度なら豆腐の様に切ることが出来る。

 嫌な音をたてながら折り曲げようとしていた角は、あっさりと切れて、バイネインの手元に残った。アンフィスと俺は冒険者を集めて経緯を話した。


「さて、赤竜様がこうして詫びとして角を提供してくれた訳だが、まだ文句ある奴はいるか?」


 俺の言葉に全員が首を振る。全員満足してくれてよかった。何故か青い顔をしているヤツもいるが。


「おい、これどうするんだよ」

「赤竜様の怒りを買わないか?」

「そうは言っても赤竜様が直々に寄こしたのをおめえも見ただろ」


 まあ文句がないならそれでいいか。


「えーと、俺の所合わせて6パーティか。じゃあこの角6等分すればいいか」


 再び俺が剣を構えると冒険者達が一斉に俺を止めに来た。


フェスの新情報はワクワクする

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