152 赤竜の試練(偽)
蓄音機の日なので初投稿です
振り向けば俺を踏みつぶさんとする脚が目前にまで迫っていた。
「『反射』!」
甲高い金属音と共に、脚が再び跳ね上がる。その隙に足元から飛びのく。
「ご主人様、ご無事ですか!」
「あぁ、なんともない」
子供は親の元に行ったようだ。聞いた話ではここからは観光客は下がって俺達冒険者がコイツの相手をするらしい。
「お客さん!大丈夫ですか?」
「お前は観光客に説明してたスタッフ」
赤竜の試練を受ける際、観光客に説明をしていたスタッフが近寄ってきて話しかけてきた。他の冒険者が俺達の左右から赤竜に向かって走って行く。全員が進んでいき俺達の周りに人居なくなってからスタッフがそっと耳打ちをする。
「兄さんも無茶しますね。弟がぺちゃんこにするんじゃないかヒヤヒヤしましたよ」
「『反射』には自信があるんだ……って、弟?」
お前もしかして。
「アンフィスやで」
どう見ても人の顔と身体だ、昨日の疑竜人の姿とは似ても似つかない。
「擬態や擬態。金稼がないと町の温泉に入れないからな。擬態がうまい連中と一緒にこうやって仕事してんねん」
「という事は他のスタッフも?」
「勿論、疑竜人やで。人間じゃここで仕事するには熱すぎるやろ」
確かに小屋があるけど、こんな地面からも熱が立ち込める場所では逆に熱がこもってしまうかと思ったが、擬態を解いて休憩するための場所なのかも。
「それで、急に話しかけてきてどうしたんだ」
「ワイも世間話で花咲かせんだが、弟がどうもパニクってるようでな」
「パニック、ですか?」
「せや、弟はホントは戦うのが苦手なヤツやねん。だから戦うときも出来るだけ攻撃が当たらない様に適当な所を攻撃するし、すぐにやられたフリをするんや」
「心優しい方なんですね」
「よくできた弟やで。ただ子供を踏みかけた事で焦って混乱してるみたいなんや」
幸いにも子供は踏んでないのだが、その事を弟ことバイネインは気付いていないらしい。
「このままじゃあ暴れて冒険者達も踏んじまうかもしれへん。どうにかして大人しくしてくれないか?」
「しかしどうやって」
「頭を冷やせばアイツも落ち着くやろ。水でもぶっかけてくれないか」
「わかった」
アリスと共に戦いの場に向かう。赤竜、バイネインが今まで手加減してたことは他の冒険者は知らない。いつも通りに戦ったらあっさり踏みつぶされて死んでしまうかもしれない。冒険者相手にもケガさせない様にしていた奴が人を殺したなんてなったらどうなるか分からない。
「うわぁー―――!!!」
そうこうしているうちに俺の様に踏みつぶされそうになっている冒険者がいた。
「『土石槍』!」
足裏に向かって石槍を生やす、少しでも足止めになればいいのだが。石槍がつっかえ棒になったのか一瞬だけ止まる、その隙に下に居た冒険者は逃げることが出来たようだ。
「全員聞け!スタッフから赤竜の様子がおかしいと伝言があった!何時もの調子で戦うと今の冒険者みたいに踏みつぶされるぞ!死にたくないなら俺の指示に従え!」
俺とアリスを除いたら10人もいない冒険者達に注意を促す。本来ならここのボス的な人物が言う事だろうが今それを探して言うようにお願いしている暇はない。
「余所者が何言ってやがる!」
「どこの誰だか知らねえが偉そうに命令してんじゃねえ!」
まあ、そうだろうな。
「俺はブリタニア王国の冒険者パーティ『迅雷』のユートだ!」
サウス領の港町で行われる海神祭、迷宮『海帝都市』の一件で上級クラスまで上がった俺達の名前は、王国中に知れ渡ったと聞いた。吟遊詩人によって歌にもなっているらしい。有名になるのは正直勘弁願いたいが、今回は有効活用させてもらおう。
「『迅雷』ってあの……?」
「もしそうならあの二人は上級クラスの冒険者だぞ」
「そうだとしてもなんだってこんなところに?」
「俺達よりもこの場を取り仕切れるものが居ないのならこの場は任せてほしい!」
出自が良くない事が多い冒険者にとってクラスというのは貴族の爵位や現代社会における役職と似たような意味を持つ。複数のパーティで旅団を組めば、その中で一番冒険者クラスの高いパーティが取り仕切ったりする。そういうのを嫌ってか旅団を組む場合は同クラスの冒険者同士で行うのが通例だ。
俺の発言に何か言いたそうな顔をする冒険者達だが、赤竜の様子がおかしな事、実際に踏みつぶされかけた冒険者が居る事を考えてか拒絶する声は聞こえなかった。
「それじゃあ全員で脚を攻撃するぞ!タイミングは片足上げた時、上げた脚とは反対の足を狙うんだ!」
俺の指示に従い、全員が足に狙いを定めて攻撃をする。
「アリス、俺が飛んだら俺に向かって『風槌』を出せるか?」
「畏まりました」
赤竜の上げた脚に向かって『土石槍』で自分自身を打ち上げる。
「いきます、『風槌』!」
「ぐぅ……!」
道具箱からシルフィードの小剣を取り出したアリスが空中の俺に向かって『風槌』を撃つ。俺はそれを『反射』する事無く盾で受け止め爆発的な速度で脚に向かう。
「上手くいってくれよ『風槌』の改造魔術、『破城風槌』!」
人一人がぶつかったとは思えないような轟音が溶岩湖に響き渡った。
サマー始動