150 赤竜火山:火口
納豆の日なので初投稿です
火山の火口そのものが迷宮となっているのか、すり鉢状の大穴の縁に立っていた。
「この火山の中央にウルガン様がおるんや」
「なるほど、そこに向かえばいいんだな?」
「せやで、ほなワイはこれにて」
「あれ、案内してくれるんじゃないのか?」
「ウルガン様の指示でな、ワイの案内はここまでや。こっからはあんさん達だけで向かってや」
そう言って踵を返すアンフィス。温泉が好きとか言ってたし、再び入りに行ったのかもしれない。
「この規模を探索するならそうだな……2、3年ってとこか」
「そこまで待たせてしまって大丈夫でしょうか?」
「まあ来るように言ってきたウルガンも俺達を試す気なんだろうし、大丈夫だろ」
それにシルヴェストルの話しを聞いていた感じだと、人間とは比べ物にならない程長生きのようだし2年程度なら遅刻にもならないだろう。
「今回は周辺を軽く探索して帰ろう。本格的に潜るのは次回からだ」
「畏まりました」
人が全くいないはずなのに綺麗に均された道を歩いて行くと疑竜人が3体現れた。
「ご主人様、お気を付けください」
「あぁ、魔物も火口に居るのが本当の姿なんだろうな」
疑竜人が手に持っているのは石のこん棒ではなく、明らかに誰かの手によって作られた武器だった。槍が2体に剣が1体、剣持ちは盾も装備している。『氷嵐』を展開しても呆けることなく、むしろ敵対行為と捉えたらしく武器を構えてきた。
「盾持ちは俺が相手する。槍のどちらかを頼む」
「畏まりました」
剣を抜いて前に出ると相手の盾持ちも前に出てきた、やはりアイツが前衛か。盾が攻撃を防いでいる間に、後ろから槍持ちが攻撃してくるのだろう。盾持ちに向かって剣を振り上げるとそれに合わせて盾を上に向ける。
「そりゃ!」
それに合わせて俺は盾を蹴り上げた。予期せぬ方向からだったのか簡単に盾が真上まで上がり、疑竜人の身が現れ、その体に見合わない細すぎる腕を剣で切り落とす。片腕を切り落とされた疑竜人は盾に押しつぶされる。
「次!」
「せいっやあ!」
潰れた盾持ちを乗り越えて槍持ち2体と対峙するアリスの援護に向かう。アリスは槍持ちの1体に組み付いて喉元にナイフを突き立てていた。引き抜くと膝から崩れ落ちた。疑竜人から飛び降りたアリスに槍を突き刺そうとしているヤツに対して剣を振り下ろす。すんでの所で気が付き槍で剣を防ぐ。
「アリス!」
「はい!」
アリスは道具箱から取り出したシルフィードの小剣を両手で持ち、疑竜人の胴体に向かって横薙ぎした。疑竜人がビクリと震えて動きを止めると、つるりと上半身が滑り地面に落ちた。
「ふう、思ったより手ごわいな」
「はい、ですがコレなら特に問題ないかと」
今までの迷宮と比べたら魔物の強さは一番だがそこまで突出した強さではない。多分本来なら火口から襲ってくる熱が一番の厄介なポイントなのだろう。耐熱性を上げる装備や魔術を施して挑むのだろし、そうなれば耐熱性の装備は全身鎧の様な装備になるから動きが鈍くなる。魔術は常に発動しなければいけないから魔術師は戦闘に参加できなくなるし、魔力が切れる前に撤退しなくてはならない。
「『氷嵐』のおかげでそのあたりの準備は済んでいるのは大きいな」
『氷嵐』が無ければそもそもこの場所に立ってすらいられないだろう。あの場で作った割には上手くハマって良かった。
「ご主人様のおかげで快適に過ごせています」
「それは良かった。アリスの方も小剣での戦闘は初めてだろ?使い勝手はどうだ?」
「はい、見た目より軽くて使いやすいです。あと数度戦闘を重ねれば十分に使いこなせてみるかと」
「それじゃあ、今日は小剣の使い方を覚えたら帰ろうか」
その後、何度か戦闘を行い、アリスが小剣のみで複数の魔物を相手に出来るようになったので帰ることにした。隠し通路を抜けて観光広場に戻ると寒く感じるようになった。今までいた所だと熱が強すぎて無意識に『氷嵐』も強く効かせていたらしい。
「火口方面はあんまり長い時間居られないかもな」
「大丈夫ですか?早く戻って休みましょう」
アリスに促されるまますぐに宿屋に戻った。風呂に浸かり、夕飯を食べるとすぐに眠気が襲ってきた。思っていたより疲労していたらしい。翌日、目を覚まし、各人の予定を聞いていく。ソフィーは資料館の本を読み終わった後は他に読める場所が無いか探すそうだ。クレアは昨日に続いて町の散策をするとか、美味しい甘味処を見つけたら教えて欲しい。アリスも昨日と同じく俺のお世話だ。
「というわけで今日も今日とて『赤竜火山』に来たわけだが」
迷宮の入口で屯している案内商売をしている冒険者達を眺めながら入口に向かう。目が合うと、一瞬営業用の笑顔になるが同じ冒険者と分かった途端に睨みつけてくる。全体的にひりついた空気を感じるので、同じ案内で稼いでる者同士仲が悪いのだろうか。
「そこの冒険者、子供連れの2人組、お前達だ!」
辺りを見回しても2人組の冒険者は俺達しかいない。振り返ると身なりの良い親子が立っていた。
「俺達に何か用か?」
「なんだ、随分と若造じゃないか。まあいい、この迷宮の案内を頼む」
どうやらここの案内冒険者と間違われたらしい。断っても良いのだが、どうせだしどの程度稼げるか試してみるか。
やはりAS+は最高だな