149 隠し通路
メギドの日なので初投稿です
『赤竜火山』の中央に鎮座する火山を越え、入口の反対側まで辿り着いた。
「ここまで出てきた魔物は火精が2体、火鼠が3体、疑竜人が17体だな」
疑竜人が多いのは単純にこの迷宮内で一番大きく、なだらかな丘の様な地形ではよく見えるのだ。溶岩人形は見当たらなかったが何故だろうか。戦闘時に分かったことは、火精は氷の領域に入った瞬間に空中に浮いた火の玉は徐々に小さくなって消えた。
「何故なんでしょうか?」
「多分だが、魔素が関係してるだろうな。精魂系はその特性上、周辺の魔素の影響を強く受ける。火の魔素が充満しているところから氷の領域に入り、魔素の性質が変わった事で身体が維持できなくなって消えたんだと思う」
火鼠は入った瞬間に一目散に逃げて行ったので、氷の領域は想像以上に効果を発揮している。これは最早、『氷塊針』ではないな、新しい名前を付けなければ。
「そうだなあ、『氷嵐』というのはどうだろう?」
「とてもよろしいかと思います」
名前も決まったことで、魔術として安定したのか、魔力の消費量が気持ち減った気がする。調整すれば攻撃魔術に使えるだろう。
「一番奥まで来ましたけど、ここに何かあるのですか?」
「いや、目的があってきたわけじゃないんだが……。ここは入口から一番遠い、周りも特に目立ったモノもないし、何かあるんじゃないかと冒険者のカンが働いたんだ」
「なるほど、そうでしたか」
とは言え、本当に何もない。迷宮内の端なのか大空洞の壁と、壁からあふれ出した溶岩の滝があるだけだ。そのせいか冒険者も観光客も見当たらない……と、思っていたら人影が見えた。思わず剣をとる。
「誰だ!」
「待った!待った!争うつもりはない!」
岩陰から姿を現したのは疑竜人だ。という事は喋った奴はまだどこかに隠れている。
「アリス、周辺の警戒を、俺は疑竜人を相手する」
「だから待てって言うとるやんけ!姿ならちゃんと見せただやろ!」
再び声が聞こえる、声がする方を見ても疑竜人しかいない。
「俺には疑竜人にしか見えないけど、そういう呪いでも受けているのか?」
「いや、この姿は生まれつきや」
目の前の疑竜人が流暢に喋り出した。驚いて武器を落としそうになる。
「え?本当にお前が話しかけてきたの?」
「だからさっきからそういうとるやろ!」
よく見ると何か肩に羽織の様な物を掛けている。宿屋にある部屋着、浴衣だ。なんだってそんなものを。
「ワイは、温泉が大好きなんよ。よく人に化けて町の温泉に浸かってるんだが、今日に限ってウルガン様から急に連絡があってな。お前さん方を案内するように仰せつかったんや」
「ウルガン?」
どこの誰だろうか。
「ウルガン様はこの『赤竜火山』本当の迷宮主、赤の竜種さ」
赤の竜種と言えば迷宮の中央、溶岩湖から定期的に沸いて出てくるアレの事だろうか。確かアレは俺達の見立てでは擬竜種であって竜種ではないと結論に至った。
「その通り、あいつはバイネイン、ワイの弟や」
なるほど弟……弟?!
「随分と大きな弟だな」
「昔から大食らいでな。気ぃ付いたらあんなにデカくなってもうた」
そういうものだろうか。
「まあいい、それで?ウルガン様とやらは俺達に何の用なんだ?」
「ご主人様、信じてもよろしいのですか?」
「まあ敵意は感じないし、喋る魔物が現れた理由が嘘を吐くためだけに出てくるとは思わないしな」
「いやあ助かるわ!連れてこれなかったらウルガン様になんて言われるか。ほな案内するわ」
そう言うと溶岩の滝に向かって歩き出す疑竜人。そのまま滝に突っ込んでいった。
「ほら、こっちやで?」
「いや、人間は溶岩に入れないんだが」
「あれ、そうやったっけ?」
溶岩の滝を潜って出てくる疑竜人、どうするかと腕を組んでいるが要はこの滝の向こうに道があるんだろう?
「疑竜人、少しそこからどいてくれ」
「ん?こうか?それとワイはアンフィスや」
ざぶざぶと水飛沫ならぬ溶岩飛沫を立てながら溶岩から出てくるアンフィス、移動したのを確認したら土魔術で溶岩の噴出口を塞ぐ。滝が止まった事により滝裏に存在した道が見えてきた。
「これで後は下の溶岩溜まりに足場を作れば渡れそうだな」
「兄ちゃん賢いなあ。でも渡った後は元に戻してや。ここ観光客は立ち入れない様に隠してるんや」
足場を渡って奥の通路に進む、狭い通路を進むと巨大な火口と壁面に沿って道が作られた場所に着いた。
「今までの場所は観光用の広場。ここが『赤竜火山』本当の姿や」
なんだか凄い所に来ちゃったな。
太陽を破壊せよ