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147 温泉

父の日なので初投稿です

「どこか痒い所はございませんか?」

「あ、あぁ、大丈夫だ」


 いま俺は首を垂れるようにアリスに頭を差し出して洗われている。自分で洗えるからと拒否しようとしたらものすごく泣かれそうな顔で『お願い』されたのでこの状況を受け入れている。


「お湯をかけます。お気を付けください」

「あぁ……」


 お湯が頭の泡を洗い流す。俺はアリス達のお願いは可能な限り受け入れると心に決めているので、恥ずかしながらも受け入れた形だ。これは俺が生きていくうえで決めた矜持(プライド)の様なもので、コレを違えるつもりはない。


「次は身体を洗わせていただきます」

「あぁ、頼む」


 背後から石鹸を泡立てる音が聞こえる。こうして一緒に風呂に入ったのが王都での風呂屋だったか。なんだか懐かしいな。


「ふふ、なんだか懐かしいですね」

「王都での風呂屋のことか?」

「それもありますが、ずっと前にはこうして背中をお拭きしましたね」

「あぁ、俺達が出会った頃だな、宿屋でお湯を貰って」

「はい、その後スライムと戦ったりクレアちゃんと出会ったり魔術学校に入学したりと、色々ございました」

「本当に色々あったなあ……。ところでアリスさん、さっきまでタオルだったのに、なんだか柔らかいモノが背中に当たっているんだけど」

「ワタシの身体でございます。ご主人様はこちらの方がお好みかと思いまして」

「俺王都でそれされてぶっ倒れたと思うんだけど?!」


 身体を洗ってもらった(前はなんとか防衛に成功した)後、再び湯舟に浸かる。


「他の2人はどうしたんだ?」

「クレアちゃんとソフィー様はお部屋で休んでおります」

「一人なのか」

「はい、最近ご主人様のお世話がちゃんと出来ていませんでしたから」


 最近は緑竜と死に至る毒(ヴェノム)関係で切った張ったの生活を送っていたので、アリスのお世話はそこまで積極的ではなかった。それがアリスにとっては許せなかったのかもしれない。


「ですので、今回の旅はしっかりとお世話をさせていただこうと思います」

「そういうことなら、ちゃんとお世話されよう」


 それもアリスの慰安になるのだろう。多分。その後、温泉から上がる時に身体を拭くかどうかで少しもめたが髪を乾かすことで同意した。


「ただいま」

「お風呂長かったわね」

「あぁ、良い景色だったからな」


 温泉から部屋に戻るとクレア達が居た。思い思いに休んでいたようで、ソフィーは窓際でクー助にもたれかかって本を読んでいる。


「そういえばアリスがどこかに出かけたのだけど見てない?」

「ワタシでしたらこちらです」

「あら、アリスどこに行ってたのよ……ってもしかしてお風呂入ってた?」

「えぇ、ご主人様のお世話をしに」


 一瞬で空気が凍る。


「……どういう事かしら?」

「いや、まあ、そのままの意味です」

「はい、頭と背中を洗わせてもらいました」

「……」


 沈黙が怖い。


「慰安だっていうのにそれじゃあアリスが休まらないじゃない」

「いえ、ご主人様のお世話はワタシの生きがいですので」

「……まあ、あんたが良いならそれでいいわ」


 アリスの言動に慣れてきたのかこれ以上言及する事無くクレアは椅子に腰かけた。諦めたのかもしれない。その後、宿屋の従業員から夕食の準備が出来たと知らせに来て食堂に向かった。食事はキノコ料理が多いな。このあたりでよく採れるのだろうか。


「お客さんブリタニア王国の人間だろ?こっちの料理は初めてか?」


 料理を持ってきた店主が話しかけてきた。特に教えてはいないのだが何故分かったのだろうか。


「ここは色んな国の人間が来るからな。見るだけで何処の国か分かるようになるのさ」

「なるほどな。ところでこの料理に使われているキノコはなんだ?」

「極楽茸だ。昔この土地がこの世の地獄と言われていた時には地獄茸って言われていたけどな」

「地獄?」

「そう、地獄。今じゃあ温泉が身体にいいモノって事はみんな知っているが、昔ここは足を踏み入れるだけで命を落とす死の谷だったのさ」

「どういう事だろう?」

「歴史書を見てみたけど、どうやら温泉と一緒に地面から出る毒が原因らしいね」

「ピンク髪の嬢ちゃんは詳しいな。昔の地学者様もそれが原因でこの土地は死んでいると仰ったんだ」


 温泉ガスか、硫黄臭いと言われるアレは硫酸ガスや硫化水素が主成分で人体には有毒なものだ。まあここは異世界なのでもっと他の成分かもしれないが。


「そんな地獄で唯一自生していたのがこのキノコなのさ」

「そんなの食べて大丈夫なのか?」

「はっはっはっ、食べて死ぬようなものならここはまだ地獄って呼ばれていただろうな!」


 豪快な答えが返ってきた。他の観光客にも言ってそうな地域ジョークなのだろう。食べてみたらシイタケの様な触感で、肉厚で食べ応えもあって美味かった。

 夕食を食べて部屋に戻ると布団が敷いてあった。ベッドが無かったからもしかしてと思ったが、ここの土地はこれがデフォルトらしい。


「明日はどうするの?」

「ご主人様のお世話を」

「ボクは本があるところに」

「俺も本……というかこの街の歴史が分かる場所に」


 気になることが出来たしな。クレアもこの町を散策するらしい。美味しそうなものが有ったら教えてくれ。それぞれの明日の予定を確認した後、眠りについた。

モンスターを狩るハンターになれ

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