145 赤の竜
環境の日なので初投稿です
大空洞の中心へと向かう途中に二足歩行のトカゲを発見した。
「もしかして竜人か?」
「アレは疑竜人だね。竜人とは似ても似つかない魔物だよ」
「そもそも竜人なんておとぎ話の登場人物じゃない」
そうなのか。確かに見た目は二足歩行するワニだし、手に持っている武器も槍や剣ではなく鍾乳石を折った様な長い石をそのまま使った棍棒だ。目からも知性を感じない……のは爬虫類特有の目だからだろうか。
「アレなら狗人の方が賢そうだな」
「ですが、力は人の比ではないと聞きます。お気を付けください」
疑竜人との戦闘を開始する俺達。しかしこれと言って苦労することなく倒してしまった。
「なんというか、弱かったな」
「ただ闇雲に棍棒を振り回しながら突進してくるだけだったね」
しかも地面や岩場に棍棒をぶつけて折る始末だ。ここ、竜種の迷宮だよな……?
何匹か倒すと残りの1匹は4足歩行になって逃げだした。その際、尻尾がポロリと落ちたのは中々にショッキングだった。
「2足歩行より圧倒的に速いな」
「あの状態でお相手していたら難しかったでしょう」
「しかも尻尾を自切していったな」
ビチビチと跳ねる尻尾を拾い上げる。なかなか消えないし、道具箱にも入るという事は戦利品という事なのだろう。
「下級の迷宮より難易度低くないか?」
「とにかく中心に向かってみましょう」
溶岩の池や渓流を超えて大空洞の中心、ひときわ大きな火山の麓まで近付くと冒険者をチラホラ見る様になってきた。
「あれは……冒険者か?」
「どう見てもそうは見えないわね」
6人組のパーティの様だがまともな装備をしているのが2人、残りの4人はサイズが合っていない防具を着ているだけだ。というか一人はアリスより小さい男の子だ。
「ふむ、どうやら彼らは迷宮ツアーの客の様だね」
「迷宮ツアー?」
「ガイド兼護衛の冒険者を連れて迷宮を散策するアクティビティの様だね」
はい、とソフィーは折り畳まれた紙を差し出す。見れば観光名所に置かれている簡易地図のようだ。迷宮を観光名所にしてるって事か?随分と思い切った事をするもんだ。
「だが、最近の竜種の迷宮は魔物が活性化してるんじゃなかったか?」
「その活性化に一番最初に気が付いたのがこの迷宮らしいよ。そこで討伐隊を編成して沈静化したのもここが一番早かったって話だよ」
迷宮を観光地にしているからか、異常に敏感なのかも。それで他の竜種の迷宮にも警告を出せたから観光地化も悪い事ばかりではないのかもしれない。
「それでは、どういたしましょう?」
観光地となっているなら、そこまで魔物のうま味は少なそうだ。クレアとの約束もあるし俺達も軽く探索するだけにしよう。
「この道を右に行けば溶岩の大滝があるけど見に行くかい?」
「そこはまた今度にしよう。今日は先に進もう」
道なりに進むと大きな溶岩溜まりが見えてきた。観光客もここが終点なのか結構な人数が周りに居る。
「ここまで大きいと、溶岩の湖ですね」
「泳いだら骨も残らないけどな」
溶岩湖の畔には石で出来た掘っ立て小屋の様なものが見え、長い列が出来ている。
「何の列だ?」
「パンフレットによれば、赤竜へ挑戦する為の申請所らしいね。日に数度現れて挑戦できるらしいよ」
ヒーローショーか何か?どうやらこの試練をクリアできると素敵な景品が貰えるらしい。
「素敵な景品とは何でしょうか?」
「素敵なって言うんだからいいモノなんじゃない?」
「どうする?挑戦するかい?」
「あの人数を見るに旅団でも2回は待たなきゃいけないだろ。流石に暑さ対策してないし見学したら帰ろう」
しばらくすると係員らしき人物が挑戦者の招集をかけ始めた。装備をした人が集まっていると思ったが殆どが先ほど見かけたような観光客だ。
「もしかして、この挑戦もアクティビティなのか?」
「じゃなきゃあんな小さい子が参加したら死んじゃうでしょ」
それもそうだが、周りの人間も止める様子は無く声援を送っている。そうしているうちに溶岩湖が膨れだし大きな物体が現れた。
「ヴォロロロロロロロロロロロロロ!!!」
「あれが、赤竜?」
見た目はコモドドラゴンに炎の鬣が生えたような感じだ。だがアレが赤竜だって?確かに魔素は多いが源創種の様に全身が魔素で出来ているようには見えない。アレは擬竜種だ。だがそれを確認する事は魔素を見ることが出来なければ無理だし、それが出来る魔力視持ちは多くない。
「ヴォロロロロ……」
ふと、赤竜モドキがこちらを見ている気がする。気のせいか?
「……ヴォロロロロ!!!」
挑戦者に向かって威嚇の咆哮する。やはり気のせいだったか。戦闘が始まるが観光客が掘っ建て小屋から借りたであろう武器を振りかぶって突っ込んでいく。赤竜の方もその場から動くことなく迎え撃つ。
「本当にヒーローショーみたいだな」
繰り広げられるショーを見ながらそう呟くのだった。
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