14 冒険の終わりに
成人の日なので初投稿です
急いで走り出すが強化が切れて足が覚束ない、スライムの死骸から水が噴水のように溢れ出しておりこのままでは溺れてしまう。
必死にアリスのもとにたどり着くと顔が浸かりかけていたので慌てて抱きかかえて段差のある入り口まで運んだ。
「アリス、大丈夫か?!」
「けほっけほっ……大丈夫です」
「そうか、良かった……」
「それよりご主人様、今のは……?」
「俺の奥の手、ジジイ……神様から授かった能力だ」
「神の寵愛をお持ちだったのですね、流石ですご主人様」
あのジジイに愛されているとか考えると寒気がするがまあこれのおかげで助かったのだから文句は言えない。
「あー、アリスその呼び方なんだけどさ」
「あっ、申し訳ございませんユート様」
「いいよ。二人っきりの時はアリスの好きな呼び方で」
「ですが……」
「確かに皆の前で言われるのは恥ずかしいし、アリスにそう呼ばれるような人間でもないけど……」
「だからこそ2人の時くらいはアリスにも自由に居て欲しいし、いつかはご主人様って言われても恥ずかしくないような人間になるからさ」
「……はい!ご主人様!」
ぶっちゃけご主人様と呼ばれるのは嫌いじゃないし。これは言うと歯止め効かなさそうだから言わないけど。そもそも年下の子にお世話してもらっている時点でどうしようもないとかは言わない。
◇◇◇
ダンジョンを出ると日が沈みかけていた、急いで帰るかと思ったが、スライムとの戦いでへとへとだったこともあり、一晩過ごしてから帰ることに。
「もしもの時のために、食糧をご用意しておりました」
そう言ってアリスが取り出したのは例の石みたいなパンと干し肉、数種類の香草だった。あのパンかあ……。
「ご主人様?いかがなさいましたか?」
「じゃあ干し肉でスープを作ろう、水と何か野菜も欲しいな」
「でしたらあちらに小川があります」
「じゃあ俺が汲んで来よう、アリスは食べられそうな物を探してきてくれ」
カバンから取り出した鍋を受け取り川へ向かう、こっちの植物は全く知らないからな。下手に持ってきて毒草だったら洒落にならない。
鍋を火にかけて干し肉を入れる、そのままだと固いので水で可能な限り戻す、アリスも戻ってきて野草を持ってきてくれた。本当は下茹でした方があく抜きが出来ていいんだけど……あ、鍋もう一個持ってる?じゃあこっちで少し茹でよう。
鍋に下茹でした野草と香草を入れて少し煮込めば……完成!
「美味しいですご主人様!」
「そうか、じゃあ俺も……うん」
味が薄い。塩コショウとか醤油とか無いもんね、しかしパン屋のスープより味が濃い気がする。あっちの方が肉も野菜も沢山入っているはずなのに何故だろうか。
「こっちだとスープってどう作るの?」
「そうですね、肉や野菜をじっくり茹でたあと水を捨てます」
「なんて?」
「そのあと新しく水を入れて煮込めば完成です」
「まって、なんで最初のゆで汁を捨てたの?」
「皮についた泥で汚れてしまいますし、よく茹でないと毒があると言われております」
なるほど、洗浄もかねているのか、しかしそれでは野菜の栄養や味も逃げて行ってしまう。
俺の場合、泥などは小川で洗ってあく抜きのために軽く下茹でくらいで終わらせたのでそこまで味は抜けてないはずだ。
「しかしそうすると旅の途中なんかは飲み水も貴重だし二度茹でもできないんじゃないか?」
「冒険者や行商人の方は仲間内に生活魔法が使える方を入れていたり、街道沿いに水を売りに歩いてる方から買うという方法もありますね」
「急に新しい単語が出てきたな。生活魔法ってなに?」
「なんていうのでしょう、普通の魔法と違って種火程度の火魔法だったり、コップに注ぐ程度の勢いしか出ない水魔法だったり威力が格段に下げられている代わりに魔力を殆ど使用しない魔法です、20回使って下級魔法と同等だとか」
「へー、便利な魔法もあるもんだな」
「しかし、これも魔法ですので適性の無い方には使えませんし魔法書もお高いです」
「うーん、師匠達に酒奢れば教えてくれるかなあ」
「お師匠様、ですか?」
「あぁ、酒場で飲んだくれのパーティがいてな、前酒を奢ったら色々教えてくれたんだよ。剣術とか魔術とか、おかげで冒険者ギルドで襲われた時も対処できたんだ」
「なるほど、あの時の体捌きはそういう事だったのですね」
「魔法も習ってる最中なんだがな、こっちは難しくてまだ上手くできないんだ」
「ワタシも魔法は習う機会が無かったので使えません」
「そういえば強化した時に聖術がランクアップしてたけど回復魔法は使えるの?」
「強化……ぁぅ……」
「どうした?」
「いえ、オホン。聖術は孤児院に居た時に毎日お祈りはしていましたから簡単な治療術なら出来ます」
「違いがわかんねえ、まあ回復系が使えるのはありがたい」
「お役に立てるなら、光栄です」
「大分夜も更けてきたな、俺は夜の番をするからアリスはもう寝るといいよ」
「いえ、ご主人様を差し置いて寝るなど従者失格です」
「でも大分瞼が重そうだけど」
「そ、そんなことは……これはそう、火が眩しくてつい閉じてしまうんです」
「そっか、じゃあそのまま目を閉じちゃおう。ついでに横になって」
「あぁ……!いけませんご主人様。そんな、外套までかけられては……」
「それじゃあアリス、明け方の見張りをお願いするよ。その時間が一番危険だし、アリスにしか頼めないよ」
「そういう事でしたら……」
「うん、そのためにも早く寝ないとね」
「そうですね、そなえなくては……」
「はい、おやすみなさい」
「お休みなさいませ……ご主人様……」
アリスの小さな寝息が聞こえ始めて心が温かい気持ちになる。
「元の世界で異性にここまで心許してもらえたことないからなあ。なんでだろう、視界が滲んできたな……」
まあそれはおいといて、今後の事を考えなくては。なにせアリスにご主人様と呼ばれるに相応しい男になると誓ったのだから。
「うーん、とりあえず異世界転生的には現代知識を使って成り上がるとか?となると火薬とかペニシリン?火薬は硝酸を作るのに年単位かかるしペニシリンなんてそれこそ殺菌作用がクソ強い青カビを探さないと無理だしなあ……」
「んぅ……ご主人様……」
おっと、起こしてしまったか?寝ているアリスを見るともぞもぞと動くと、また寝息を立て始めた。
その寝顔はとても穏やかで、見ているこっちが癒されてくる。
「……ま、なんとかなるだろ」
見上げた星は生きてきた中で一番輝いて見えた。
大阪楽しみだなあ