131 傾向と対策
レトルトカレーの日なので初投稿です
翌朝、目を覚まして部屋の扉を開けると、黒ずくめの男が倒れており、手には小剣シルフィードと同じエメラルドの様に輝く美しい刀身の剣が握られていた。
「どれどれ……死んでるな」
脈は無い、呼吸も止まっているし、僅かだが死後硬直も始まっている。
「捕まえる予定だったんだが……やりすぎたな」
「魔術陣は正常に機能したみたいだね」
昨晩寝る前に扉と窓板に魔法陣、正式名称『魔術陣』を仕込んでおいたのだ。扉のドアノブや窓に触れると雷魔術が発動するようにしておいた。威力は『麻痺雷撃』程度に抑えたつもりだが、それでもスタンガンレベルである。もし一晩中浴び続ければ死に至る可能性は十分にある。
「発動時間の上限を設定すべきだったか」
「それと発動したら術者に何か合図を送るようにしておいた方がいいかもね」
「発動すれば魔力が使われるから気付くと思ったんだが……」
「常人ではそうかもしれないけど、君の魔力の量は相当だからね。魔術陣程度では魔力を消費したと感じないのかもね」
そんなギャルゲの主人公並みの鈍感野郎なのだろうか。とりあえずこの死体をどうするか……。
「道具箱に入るかな?」
「死体を入れるの……」
クレアにドン引きされたが試せることは倫理観の許す限り試すのが俺だ。死体を隠す時点で倫理的にアウトな気がするけど。
「流石に入らないか……何か条件があるのか?俺が無意識に死体を中に入れるのを拒んでいるとか?」
道具箱の容量は魔力の量に比例する。以前テンチョーの店に有った一番デカい剣を入れさせてもらったがすんなり入ったし、感覚的に余裕もあった。
「ほら、いいから死体ギルドに持っていくわよ」
「ギルドに……あぁ、指名手配か」
「暗殺なんてやってる様な奴なんて賞金くらいついてるでしょう?持って行って渡せばお金になるし何か分かるかも」
「なるほど、じゃあ持っていくか」
死体を簀巻きにして人気の無い路地裏を進みながら冒険者ギルドを目指す。首だけという案もあったが残りの胴体や血の処理を考慮した結果そのまま持っていくことにした。
「おはようございます。今日は早いのですね。まだ依頼は張り出されていませんよ?」
「ちょっと野暮用でね。賞金首らしき男を……倒したのだが確認を頼めるか」
日が昇る前から動き出すのは冒険者ギルドも変わらない。夜の黒から昼の青に変わる瑠璃色の夜明け前にギルドの扉を開ける。依頼が貼りだされるまで時間があるのだが、既に準備を終えた冒険者達が居た。
「なるほど、確認が取れそうな物……簀巻きですか?」
「簀巻きですね」
「でしたら奥の部屋で確認しましょう」
冒険者ギルドには死体が持ってこられることはままある。その大体は迷宮で致命傷を負って運ばれてくるパターンと、賞金首を討伐したパターンだ。
前者は治療を行う教会に払う金が無くて何とかしてもらいたくて連れ込まれたり、途中で力尽きてもパーティメンバーがそのまま持ってきたりする。冒険者ギルドもこの事を見越して回復魔術が使えるギルド員や高額の回復薬を所有しているが、大抵はそれでは間に合わない場合が多い。
後者の場合は証拠のために首を切り落として持ってくるのがほとんどだ。俺の様に死体丸ごと持ってくるのは少数派だろう。通された部屋は半地下の様になっており、中央には石造りのベッドが鎮座していた。
「これは、夜目のキツツキですね。上級指名手配犯です」
「凄い奴なのか?」
「暗殺相手の心臓に杭を突き立てて去っていくことからそう呼ばれています。相手の心臓を確実に狙う事から心臓破りとも……」
腰に木の杭を差していたのはそういう理由だったのか。暗殺者よりヴァンパイアハンターをやった方が良かったんじゃないの?
「確認が取れましたので賞金をお渡しします。死体の処理はこちらで行います」
「よろしくお願いします」
これで4本の影打の内1本目を取り返した。この調子でどんどん取り返そう。
「とは言え今回は向こうから来てくれたから良かったものの、やはり攻めて行くのが一番だと思うんだよな」
「そんなこと言ったって場所がわからないんだからどうしようも無いじゃない」
「犯罪者の情報があつまりそうな場所と言えば……あそこか」
サウスガルドの郊外、貧困街と呼ばれる場所に訪れていた。
「餅は餅屋、犯罪は犯罪者でしょ」
「その発想はどうかと思うわ」
「それで、いったいどうやって残りの影打を回収するんだい?」
「とっておきの策がある」
「何でございましょうか」
「持っていそうな奴を全員捕まえる」
はいそこ、帰らないで。
「いや、バカじゃないの?何人いると思っているのよ!」
「仕方ないだろ。こっちには何の手がかりも無いんだから。まあ流石に厳しいだろうからギルドから賞金首のリストを持ってきた。中級から上級にかけてみれば100人程度しかいないんだし全員捕まえれば1本位はあるだろ」
「十分多いわよ!」
「まあ、闇雲に探すよりはマシかなあ。この街の犯罪を死に至る毒が牛耳っているなら、犯罪を行っている犯罪者は組織の末端だ。替えが聞くとはいえ有能な手足が無くなれば出てこなくてはならないからね」
「まあ、ソフィーが言うならそうなんでしょうね」
俺の時とは態度違いすぎない?納得してくれたならそれでいいけどさ。
「それじゃあ、犯罪者狩りと行きますか」
特殊勝利で俺の勝ち