130 盗まれた小剣
俺の誕生日なので初投稿です
殺人?
「誰かに殺されたっていうのか?」
「うん、死体は牢屋の中で首を落とされていたらしい」
奴を捕まえてから三日も経っていない、にもかかわらずこの速さとは相当な速さだ。
「犯人に目星はついているのか?」
「恐らくはこの街の裏に潜むと言われている犯罪クランが今回の犯人と考えているよ」
犯罪クランってクラン申請通らなそうだな。
「騎士団は便宜上この犯罪クランを『死に至る毒』とそう呼んでいるんだ。この街でのおおよその犯罪にはこのクランが関わっているとも言われている」
「大規模すぎないか?そこまで分かっているのに捕まえられないのか?」
「難しいね。過去幾つもの凶悪な犯罪クランを捕まえた時に犯人が口を揃えて言ったのが、名前も知らない犯罪クランの存在から支援を受けたという事と、その事を言った者は全員処刑する前に殺されていた……ってくらいだからね」
そんなクランが本当に存在するのならとんでもない強大な犯罪クランという事になる。
「……ん?なんでその話を俺に?」
「そりゃあ勿論君達がその件の『死に至る毒』に狙われている可能性があるからね」
「なんでだよ、犯罪組織に目を付けられるような事なんて……」
ふと、昨日ヴニュから貰い、今はアリスの道具箱に入っている世界に2本しかない小剣の存在を思い出す。
「小剣シルフィードか……」
「ボクも特に問題ないと思っていたんだけど、ロウガが『業火爆砕』の魔石を持っていたことからほぼ確実に『死に至る毒』が関わっている」
その上で小剣を作ったヴニュが誘拐されている。小剣の存在をかのクランに知られていてもおかしくない。というか今ヴニュを一人にするのは不味くないか?
「ヴニュを守らないと」
「そこは大丈夫、昨日から彼女にはこの冒険者ギルドに匿っているよ」
「手が速い」
「ボクこれでもギルドマスターだからね」
えっへんと胸を張るエリちゃん。この小さな体がこれほどまで頼もしく感じるのは初めてだ。
とにかくヴニュの様子が心配なので見に行くことにする。職員の案内で会いに行くとギルドの建物に併設された竈で鉄を打っていた。
「ヴニュ、大丈夫かい?」
「ん?おぉユート!大変な事になったなあ!」
「すまない、俺達のせいで君を巻き込んでしまった」
ヴニュに頭を下げると額を叩かれてしまった。
「バカ言ってんじゃねえ。凄腕の鍛冶師っていうのはこういう事にも巻き込まれるのはよくあるって親父も言ってた。こんなことでやられるほどオレは弱くねえよ!」
バシバシと肩を叩くヴニュ、彼女なりの気遣いなのだろう。
「それより謝らなくちゃいけないのはオレの方だ」
「なぜだ?」
「実は昨日帰った後、工房が荒らされている事に気付いてな、調べたらシルフィードの影打が盗まれていたんだ」
「影打?」
「影打っつうのは分かりやすく言えば試作品だ。オレがどんな凄腕の鍛冶師だとは言っても一発で最高傑作が出来るわけじゃねえ。幾つか作って一番出来が良いのを客に渡すんだ」
個体値厳選みたいなものか。人が作る以上出来にブレが存在するからな。
「その影打っていうのは何本あるんだ」
「4本だ」
2本どころか6本あった。
「盗まれたのは?」
「4本だ」
「……何本だって?」
「4本だって」
全部かあ……。まあ俺が犯人だとして見つけたら残していく理由も無いしなあ。
「だからすまん!」
「いや、君が謝る事じゃないよ。全部盗んだ犯人が悪いんだし」
「む?それもそうか!」
わっはっはと笑うヴニュ、とはいえどうしたものか、影打は全て盗まれてこちらにあるのは真打が一本だけだ。
「影打は渡した真打とは違った能力をそれぞれ備えている。もしも戦う事になったら知っておいた方がいいだろう」
そういってヴニュはメモ用紙を手渡してきた。
「これは?」
「影打の能力を書いたメモだ。それを見て対策してくれ」
「そうか、ありがとう」
一度宿屋に戻った俺達は作戦会議を始める事にした。
「どういう方針にするんだい?」
「当分は向こうが襲ってきたら返り討ちにして、襲っても割に合わない様にするのが今までの予定だったんだけど……」
「倒しに行くんでしょ?」
「その通りだ」
犯罪クランに狙われてビクビクするよりこちら側から向かって倒してしまえば後顧の憂いなく眠れるというものだ。そのためにも俺達を襲う刺客を倒し、情報を聞き出す必要がある。
メモ用紙を見せて全員に奪われた四本の裏打シルフィードの能力を共有していく。
「今回は小剣シルフィードの関係上騎士団に頼るのは出来ない。自分たちで解決するぞ」
「畏まりました」
「犯罪クランの討伐か……実に興味深いね」
「それじゃあまずは何をするのかしら」
「そうだな……」
クレアの言葉に考える、がぶっちゃけやる事は決まっている。
「まずは……、寝る!」
時刻は夕方、今から迷宮に行くにも時間が掛かるし街で道具を収集するにも既に店は閉店している。正直今出来ることが無いのだ。
俺の言葉を聞いて全員が肩透かしを食らったような動きをする。こっちにも関西のお昼にやってる喜劇みたいな動きってあるんだな。
肉が美味かった