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126 人攫い

元旦なので初投稿です

「なあテンチョー、あの工房は本当に偶然空いていたのか?」

「実はな……本当に偶然なんだ。確かにあいつが独り立ちする時に手助けしようと考えていたんだ」


 確かにヴニュが市民権を買っているとは考えづらいしな。


「その時ここの爺さんが前に家の鍵を渡してきてな、次に来るときに使えって言うもんだから気になって早めに行ったら爺さんがベッドでポックリ逝っててな」

「その爺さんがあの工房をテンチョーに譲ったってことか?」

「どちらかと言えば押し付けられただな、弟子どころか身寄りも無かったみたいだし」


 なるほど、多分唯一最後まで関わりのあったテンチョーに後始末を頼んだ訳か。


「ま、買い手が現れず半年も過ぎたら解体する予定だったし……あいつがここを使うなら初年度の税金を払っても今後の利益を考えたら安いものだよ」


 確かに有名な鍛冶師の子供ならそのネームバリューで引く手数多だろうしその武具を卸せるとなれば確かにかなりの収益が見込めるだろうな。


「でもヴニュって修行の旅をしてるんじゃなかったか?」

「……あ」


 確かヴニュの目標って親の工房を継ぐ事だったはず。


「……ま、まあ仮に居なくなるとしてもそれまでには街の鍛冶屋の弟子達が一人くらい独り立ちするだろ」

「するといいな……それはさておき今回の材料の件なんだが」

「分かっているよ、俺だって厄介事には巻き込まれたくないし、聞かなったことにしてやる」

「助かる……鱗いるか?」

「いらんわ!そんな厄い物を渡そうとするんじゃない」


 テンチョ-は店に帰っていった。俺達も帰るとしよう。数日後、迷宮(ダンジョン)から戻ってくるとテンチョ-の丁稚が至急店に来るように言われ俺達はすぐに向かった。


「おお、来たか」

「テンチョー、急に呼び出してどうしたんだ」

「まずは落ち着いて聞いてほしいんだが、ヴニュが誘拐された」

「なんだって?!」

「だから落ち着け、今朝工房に向かったらヴニュが居なくて代わりにこの手紙が置いてあったんだ……お前宛だ」


 手紙をテンチョーから受け取る。開けてみると今日の0時に俺一人で北地区の廃墟に来るよう指定されていた。同封されていたのはヴニュと同じ色の髪だった。


「随分と熱烈な歓迎だが、兄ちゃん恨まれるような事やったのか」

「不本意ながら目立つことが多くてな、妬みで絡まれることは何度かある」


 しかし他人を巻き込んで何かやってくるのはこれが初めてだ。よほど嫉妬深い奴がいたもんだ。

 が俺の専属鍛冶師(彼女の自称だが)に手を出した事は後悔させてやろう。


「危険だよ、わざわざ敵地に向かうなんて」

「ワタシも同行します」

「向こうが俺をご指名なんだ、一人で行くさ」

「あんたって本当にバカよね、誘拐事件なんだから騎士団に任せなさいよ」


 確かに向こうの思い通りに動かないほうがいいのだが、人質が居る以上そうも言ってられない。下手に刺激してヴニュが殺されてしまっては目覚めが悪すぎる。彼女が誘拐されたのは俺のせいなのだから。


「それに本当に一人で行くわけじゃない。キチンと対策を立ててから向かうさ」

「一体どうするんだい?」

「それはだな……」


 夜大衆が寝静まった頃、俺達は指定された北地区に足を踏み入れた。

 この地区はいわゆる貧困街と呼ばれる地区で職無し金無し住処無しの異世界の西〇みたいなところだ。


「このような所、ご主人様が踏み入れる場所ではございません」

「そういっちゃダメだよ。ここで生活してる人もいるんだから」


 この時間ではここの住人も寝入っている。屋根があるところで寝れる者があるものはこの地区では裕福な方で殆どが路上生活者だ。道の端で寝ている者達をできるだけ見ないように進んでいく。


「ここから先は俺一人で向かう、アリスは近くで隠れていてくれ」

「畏まりました、ご武運を」


 アリスが近くの小屋の屋根に飛び乗り音もなく暗闇に紛れる。俺はそのまま指定された場所に向かう。

 比較的立派な建物の扉を開けるとどうやら酒場のようだが明かりは無く人影もない。


「いわれた通り来たぞ、姿を現したらどうなんだ」


 中に向かって声を張る。するとカウンターの奥から足音が聞こえる。出てきたのは身長的に男、しかし顔は包帯がまかれて目が僅かに見えるだけだ。


「お前が誘拐犯か、ヴニュはどこだ」

「焦るなよ」


 包帯男は脇に抱えた大きな袋からヴニュを取り出してカウンターテーブルに横たえる。ヴニュは気を失っているのかピクリともしない。腰の剣に手をかけるが制止させられる。


「おっと、いくらお前さんが速くてもこっちに来る前にこのガキの喉を切り裂くのは容易いんだぜ?」

「……何が目的だ」

「おいおい、俺を見ればわかるだろう?」

「残念ながら包帯男に覚えはなくてな」


 その言葉に包帯男は笑い出す。


「そういえばそうだった……ならこれでどうだ?」


 男が包帯をずらして顔をさらす。その姿に俺は見覚えがあった。


「お前は、昆布野郎!」

「ロウガだ!」


 宿場町を襲った山賊のリーダーだった。なるほど、こいつなら確かに俺に恨みを持っていてもおかしくない。


「なんでこんなことをする」

「別れ際に言っただろ、お礼参りするって」


 律儀に返しに来たのか。忘れてくれて構わなかったのに。ロウガが指を鳴らすとどこに隠れていたのかいたるところから山賊のような風貌の男たちが現れた。


「へへっこの前の借りを返させてもらうぜえ」

「腕の一本は覚悟してもらうからな」


 山賊たちに混じってシルフィードをナンパしていた男たちもいる。


「お前ら、曲がりなりにも冒険者なのに何やってんだ」

「うるせぇ!兄貴の仇とありゃ手伝うにきまってんだろ!」

「俺たちは兄貴のおかげで救われたんだ!」


 よくわからないドラマがあるらしい、とにかくこの場にいる人間はヴニュを除いて全員敵のようだ。


「なるほど、想像していたより簡単だな」

「……何の話だ?」

「決まっているだろう?」


 天井に向かってを指さす。


「お前らを倒す方法だよ」


あけおめ

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