122 すがる希望
税関記念日なので初投稿です
「うおおおおおおおおおおお『反射』!」
「『火炎壁』!」
「魔法盾!魔法盾!魔法盾!」
先程まで秋の紅葉だった『落葉』が今や猛吹雪と見間違うかの様な風と羽根をまき散らしている。炎で焼き魔法盾で防ぎ、それでも抜けてきた羽根を『反射』で消し飛ばしていた。
「頭上の羽根を壊したら終わりじゃなかったの!」
「あくまでも憶測にすぎないよ。ただこの術を止める事は出来るという本人の証言と他の羽根とは違う魔力が込められた羽根が狙うのが困難かつ不可能ではない位置に配置されていたからそう提案したに過ぎない……だが見誤ったのは事実だ。そこはすまない」
「気にするな。その憶測に乗って行動を決めた俺の責任だ」
そう言っている間にも羽根の嵐は更に激しさを増していく。台風のように激しい風が炎の壁と魔力の壁を叩く、幸いにも吹く風が一方向なのもあって防御する方向を集中的に守ることができる。
「とは言え、これじゃあ規定の10分どころかあと1分も持たないよ」
この状況で持っているのはソフィーの『火炎壁』とクレアの魔法盾のおかげだ。なければ発狂1分で全員挽き肉より酷い事になっていただろう。
「早く落葉を止める術を考えないとな」
「やっぱりシルフィードに攻撃するのが良いんじゃない?」
「元よりこの攻撃は耐久型と言っていた、シルフィードの言う事が本当なら本体を攻撃して止まるような単純なモノではないだろう」
「じゃあどうすればいいのよ」
「単純な話さ、この状況にした羽根があるようにどこかに止めるための羽根があるはずだ。それを見つける」
「やっぱりそうなるよな」
問題はその羽根がどこにあるかだ。舞い散る羽根は本体から無限に吐き出されその数を増やしている。幾ら焼いたり砕いてもキリがない。
「その羽根は見えないの?」
「それが舞い散る羽根にはどこにも見当たらないんだよね」
それは俺も見ているから分かる。発狂モードの羽根の様に術式が混ざった羽根は純粋な魔力の羽根と比べて色が違う。その羽根は舞い散る中には見当たらない、ならば身体の方かと見るが全身が術式が込められた羽根で構成されていた。
「シルフィードの身体にある羽根が安全装置候補なんだけどどれだと思う」
「それ、外れたらどうなるの?」
「この嵐がもっと激しくなる……とか?」
「シルフィードへの攻撃は無しね」
「あの、ご主人様」
「どうしたアリス」
「気の所為でなければなのですが、羽根の数が減っていませんか?」
「なに?」
アリスの言葉に周辺を見回すが特に数が変わった様に見えないし、シルフィードも羽根を吐き出し続けている。
「別に変わっていない気がするが……」
「まって、シルフィードはずっと羽根を出しているわよね?じゃあもっと増えててもおかしくないんじゃない?」
「あ?……あー!減っているってそういうことか!」
数が増え続ける羽根に対して空間に滞在している羽根の数が増えていないのか。ならば消えた羽根はどこに……?
「ユート君、地面を見たまえ」
「地面……あれは、羽根が消えてるのか」
地面に落ちた羽根は雪のように溶けて消えた、魔力の流れを見るに地面からシルフィードに吸収されているようだ。そして再び羽根となって翼から舞い落ちる。水槽のポンプのように魔力を巡廻させているのか。
「コレほどの膨大な魔力、本人だけでは賄えないと思っていたがまさかこんな方法だったとはね」
「消える羽根……なあ、最初の羽根ってどうなった?」
「どうって、消えたんじゃないの?」
「ソフィーはどうだ?覚えているか?」
「言われてみれば……どうだったかな?場所は覚えているよ、ここから後方に20mほど下がった当たりだ」
言われた方向を見る、炎の壁で見づらいがなんとか見えている。
「ご主人様、あそこに!」
「どこに?いや、あれか!」
暴風の中、まるでそこだけ凪いでいるのか黄色い羽根が一枚佇んでいた。
「あからさまね……アレも罠って可能性は無いの?」
「まあ、無いとは言い切れないね」
「だけどアレ以外なさそうっていうのも事実だ」
それにどのみち制限時間まで耐え切れそうに無いしな。
「やるしかないって事ね、アレを攻撃できないの」
「俺がやろう、『水流針』!」
水の針を生み出し羽根に向かって射出する。しかし炎の壁を抜けた瞬間、無数の羽根によって削り取られてしまった。ならばと投擲釘を投げつけるも同じ結果に終わった。
「直接切るしかないか」
かと言ってソフィーは炎の壁を維持するので手一杯、それはクレアも同じだ。あの羽根吹雪を抜けるには『反射』で周囲の羽根を破壊しながら進むのが一番確実だろう。しかしそれには辿り着くまでに連続で『反射』を成功させ続けなければならない。
「よし、俺が……」
「ご主人様、ワタシにお任せください」
「一刻も早くシルフィード様の術を解除しなければならないのです。この中であそこまでに一番早く辿り着けるのはワタシだと考えます」
「危険だ」
「それはご主人様も同じです」
「俺には『反射』がある」
「辿り着くまでに何度もするのでございましょう?」
「だがアリスが行くよりはずっと……」
「ご主人様、ワタシを信じて貰えないでしょうか……?」
そ、そんな目で見られたって……!
「ソフィー、『火炎壁』を羽根のところまで伸ばせるか?」
「真ん中辺りまでが限界だね。それ以上は壁が薄くなって今以上に抜けられる」
「分かった。クレアはソフィーとそこで待機。俺とアリスが出たら範囲は小さくしてもいいから最大出力で展開してくれ」
「了解よ」
「壁の端まで行ったら俺の『反射』で可能な限り羽根を打ち消す。アリスはその間に目標の羽根を破壊してくれ」
「ありがとうございます。ワタシを信じてくれて」
「俺はいつだってアリスを信じている。アリスがやれるというのであれば任せるさ」
「ご主人様……」
今度こそあの羽根が安全装置であることを願って作戦を開始した。
やはりライブはいい