121 目標破壊
世界テレビ・デーなので初投稿です
舞い落ちる羽根を避けて避けて避けて、時には『反射』で周囲の羽根ごと消し飛ばしながら前に進んでいく。
「こう見ると秋の紅葉というよりは春の桜だな」
現状ゆったりとした動きではあるがもしこれに風が吹き始めれば脅威度は更に跳ね上がる。というか10mはあるシルフィードの頭上に存在する羽根にどうやって攻撃するか。
「とりあえず投げ物でいってみるか」
道具箱から取り出したのは投擲釘、近距離の剣、遠距離の魔術に対し中距離の攻撃手段として買った新武器だ。ダーツの矢より少し大きめのコレを目標に向かって投擲する。
「む?」
弾丸の如く放たれた投擲釘はしかし途中で明後日の方向に軌道がずれて飛んで行ってしまった。
「なんのもう一回」
横投げだったので逸れたかもしれないと思い今度は上手投げで投げた。ついでに横回転を加えてジャイロ効果を持たせ、ブレを少なくする。『親愛の絆』で強化された俺の肩ならバッターボックスから電光掲示板を1ドット単位で狙う事が出来るはずだ。
「そしてそれが外れると」
今度は不自然な曲がり方をしたので確実に何かしらの妨害が働いている。多分風が吹いているのだろう。そうなれば風の流れを計算するのが普通だろうがあいにくその風を生み出しているのは竜種だ、予測は困難だろう。というか見てから風を変えられている可能性もある。
「ならばその風を突破する方法を考えるだけだ」
「ご主人様、シルフィード様の身体を登るのはどうでしょうか」
「確かに登るしか道は無さそうだがあの羽根で埋め尽くされた体に触れたらどうなると思う?」
「ふわふわもこもこで気持ちいいと思います」
「『落葉』とかいうのが発動してなければそうだったろうな」
抜け落ちているのは翼の部分からなのでまさか全身の羽毛が舞い落ちる羽根と同じ性能を持っているとは考え辛い。魔術にしろ術技にしろ何かしらの法則が存在するはずだからだ。
しかし確証の無い事で命を賭けるわけにもいかないので身体をハイキングするのは一回なしの方向で行こう。
「代わりにこれで我慢してくれ」
シルフィードの周りを囲むように『土石槍』を出現させる。アリスの身体能力なら石柱の上から跳躍すれば羽根に届くだろう。
「ありがとうございます」
「ただ羽根で削られていくだろうからそこだけ注意してくれ」
実際『土石槍』を伸ばした直後から羽根にガリガリと削られていくのが確認出来てる。土属性は風属性に弱いのもあってか豆腐より簡単にくりぬかれている。アリスが平地でも走るような動きでほぼ垂直にそびえたつ石柱を登っていく。石柱の先端で跳躍したアリスはそのまま目標の羽根に向かって真っすぐ進む。
「っ!?」
「アリス!」
跳んだアリスが横から透明な何かに殴られたように真横に吹き飛ぶ。その先には無数の羽根が舞っている。俺はダッシュでそちらに向かい一枚の羽根に盾を構えながら突進する。
「消えろ!『反射』!」
盾にぶつかった羽根は光の粒子になってショットガンの如く周囲の羽根を砕いた。落ちてくるアリスをスライディングしながらキャッチしてシルフィードから距離をとる。
「無事か!」
「ご主人様のおかげで無事です」
「それは良かった……今のはなんだと思う」
「『風槌』……だとしては先程の時よりも大分威力が弱いです」
確かに一般魔術師の『風槌』でも直撃すれば骨折は免れない程の威力がある。さっきまでの威力なら挽肉になっていただろう。
「大分威力が弱い……?」
しかし納得はいく、物体を削り取る程の魔力が込められた羽根をばら撒き続けているのだ他の魔術に回す余裕がないのかもしれない。となれば目標を破壊するのには好都合だ。水流針に魔力を大量に流し込み通常の10倍の大きさにする。
「『水流針』の改造版、名付けて『水流杭』!」
シルフィードに向かって巨大な水の塊を放出する、この水量ならアリスの重量を余裕で超える。生半可な風では飛ばされないぞ。
「ご主人様今少々失礼な事を考えませんでした?」
「ゼンゼンソンナコトナイヨ?」
更に第二弾として飛び込めるように俺も走り出す。アリスのように走って登れるような真似はできないので『土石槍』をカタパルトのようにして一気に飛ぶ。
『■ ■ ■ ■ ■?!』
シルフィードの『風槌』が『水流杭』と衝突する。水の塊はその衝撃で大爆発を起こした。俺は水飛沫の中を突撃する。それに気がついたシルフィードが再び『風槌』を俺に向かって放つ。
「焦ったせいで魔術の練りが甘いぜ!アリス!」
俺の背中に隠れていたアリスが俺を踏み台にして更に跳躍する。しかし空中の二段カタパルトは少し無理があったのか勢いが足りない。
「これでは……!」
「任せろ!『風槌』!」
空気の塊を作り出し打ち出す。しかし目標はアリスではなくその下にあるシルフィードの『風槌』だ。正面衝突した『風槌』は圧縮された空気の塊が爆ぜて凄まじい大爆発を起こした。
「行け!アリス!」
「はい!」
巻き起こった風に乗ったアリスはそのまま漂う羽根を切り裂いた。
「よっしゃあ!いで!」
地面に背中から着地してしまった。余りの痛みに背骨が折れたかと思ったがまだ動けるので大丈夫だろう。先程まで翼から舞い散っていた羽根も消え、ソフィー達が駆け寄ってくる。
「でかしたわよ!」
「ふむ、やはりアレが安全装置だったのだね」
「あぁ、これで……」
「ご主人様、シルフィード様の様子がおかしいです」
戻ってきたアリスの言葉にシルフィードを見る。ブルブルと震えているな。
『■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■!!!』
叫び声のような声を出すと今までとは桁違いの羽根を台風のような風が巻き起こった。
「もしかして……発狂モード?」
タワー(ビルディング)