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119 秋風

鍋の日なので初投稿です

「きゃっ」

「どぅわ!」


 シルフィードから発せられた風は最早爆風と呼ぶに相応しい勢いで俺とアリスを吹き飛ばした。ギャグ漫画みたいに頭から落ちたら死ぬ高さまで吹き飛ばされたのを何とか確認し、死なない様に体制を整える。


「ぐっ……『風槌(エアハンマー)』!」


 地面に激突する瞬間に風魔術で衝撃を和らげて転がる様に着地する。同じように吹き飛ばされたアリスの着地保護をするために辺りを見回すと、すぐ隣に何事も無かったかのように佇むアリスが居た。


「怪我は無いか?」

「傷一つございません」


 そいつはよかった。シルフィードの様子を見ればどうもおかしい、先ほどまで翡翠色だった美しい羽が先端に進むにつれて鮮やかな紅色に染まっていた。


『———すみません、コレを出すつもりは無かったのですが』

「今のは」

「シルフィード様、でしょうか」

「アリスにも聞こえたのか?」

「はい」


 後ろを見ればソフィーやクレア、エリちゃんも似たような反応をしていた。


「大分赤味が増したようだけど、所謂第二段階って事なのかな」

『どちらかというと第三段階ですね』


 一段階飛ばしたな。


『私としては触れられた時点で終わりにしようと思ったのですが、その……あなた方の気迫に押されまして思わず……』

「あー……」


 いくら竜種(ドラゴン)とはいえ中身は戦闘経験の無いお嬢さんだ。そんな子こ顔面に刃物を振り下ろしたらまあ第三段階(そうなっても)おかしくない。


『あの、今回はこれでお終いという事に……』

「ダメだよ」


 シルフィードの提案を遮る様に却下したのはエリちゃんだった。


「それじゃあシルフィの練習にならないじゃないか」

「リーザ、でも……」

「でもも魔人(デーモン)も無いよ。そも君は戦った事が無いだろう?いくらおじいちゃんから色々授かっているとはいえ、戦闘経験は自分で積んだ方がいざ本当に冒険者が挑戦しに来た時にちゃんと対処できるでしょう?」

『それはそうですけど』

「それにシルフィ、君手加減してただろう」

「あ、やっぱり?」


 まあ最上級である竜種(ドラゴン)がまさか下級魔術を連打するだけなんておかしいと思ったんだよねえ。それでもかなりきつかったが。

『気付いていたのですね』

「ボクが何年シルフィの親友やってると思ってるさ」

『ですが、冒険者とは言えご友人を傷つけるわけには』

「そんなことされても冒険者としての矜持(プライド)が許さないよ。そうだろ?」

「まあな」


 特に矜持(そういうもの)は持ち合わせていないが。今後正式なルートを通ってきた冒険者と戦う事になったとして、下手に手加減して死ぬのはシルフィードなのだ。魔物(モンスター)とは言え知り合った仲だ、殺されたとあっては目覚めが悪い。


「冒険者なんて死ぬ覚悟で迷宮(ダンジョン)に潜っているんだ。戦いになったら殺す殺さないはシルフィの自由だけど撃退する位はやらないと」

『リーザ、貴女そこまでの事を……』


 なんかそれっぽい事を言っているがシルフィードの見えない様にそらした顔は口の端が僅かに持ち上がっていた。笑いをこらえるなら俺にも見えないようにしてほしいなあ。


『分かりました。ユート様、今までのご無礼、お許しください。そして私の本気をどうか受けてくださいませんか?』

「いいけど条件がある、第三段階の状態を凌いだら俺達の勝ちでいいか?」

 本来なら一定数の攻撃(ダメージ)を与えないと次段階に移行しないだろうし、これなら俺達は防御無いし回避するだけでいいのでこちらが勝つ確率の上がるってもんだ。


『分かりました』

「よし、両者合意だね!」

「そういう訳だからみんないいかな?」

「別に構わないわよ」

「過去の文献には無かった緑竜のデータが取れるチャンスを逃すわけにはいかないね」

「ご主人様の仰せのままに」


 皆やる気十分なようだ。攻略の方針としてどのような攻撃方法か分からないので取り合えず様子見する事に。『海帝都市(ル・リエー・ラ・イラー)』の蛸野郎みたいな一撃必殺の技なら『反射(パリィ)』で返せるし、広範囲に攻撃を広げるような技ならばクレアの魔法盾(マジックシールド)とソフィーの魔術で壁を作ればいいだろう。


「みんな準備はいい?それじゃあ第二回戦はじめ!」


 なぜか審判の様な事をするエリちゃん。


『いきます———落葉(フォールライブス)


 シルフィードの先端だけが紅かった翼が徐々に全体まで広がっていく。俺はいつ何が来ても良いよう盾を構え、後方の二人も魔力(オド)を集中させている。やがて翼全体が紅く染まると、シルフィードは立ち上がって翼を目一杯広げた。


「まるで紅葉の木だな」


 翼から羽根が一枚抜け落ちる。フワフワと舞う羽根は吸い込まれるように俺の所まで落ちてきた。


「ユート」

「分かってる」


 ソフィーは『魔力視』の技能(スキル)を使ってみたのだろう。俺もそうしていたから分かるが舞い落ちる羽根には凄まじい魔力(オド)が込められた。試しに『水刃(アクアブレイド)』で強化した剣で切りつける。


「……は?」


 『水刃(アクアエッジ)』で切った羽根はそのまま通り過ぎ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「嘘だろおい」


 俺の体に当たりそうになる羽根をなんとか回避する。羽根は先程の現象が嘘だったかのようにそのまま地面に落ちた。


「気をつけろ!羽根に触れれば切れるってレベルじゃない!えぐり取られるぞ!」


 紅葉の木のように立ちつくすシルフィードから枯れ葉が木からこぼれ落ちるように無数の羽根が舞い始めた。

運動会良かったね

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