118 アレンジ
ハロウィーンなので初投稿です
「ソフィーの様にクラスター化するのも手だがそれじゃあ芸が無いもんな」
『水流針』を撃ちながら考える。『風槌』の最大数は今のところ12発。全てを使い切ってからでないと再詠唱しないが魔術の発動が無詠唱というか魔術名を言わずに発動するのでこっちが魔術を準備するより格段に速い。俺は再び3つの水球を針に変形させて狙いを合わせる。シルフィードからの『風槌』を回避し、『水流針』を撃つも既に用意された新たな風塊に散らされてしまった。
「マジで機関銃レベルで飛んでくるな!こっちは単発式だって言うのによ!」
例えるなら俺が火縄銃なら向こうはガトリング砲だろうか、文明レベルが違いすぎる。何か手立てはないのか。火縄銃と言ったら有名なのは戦国の武将が三段撃ちをやったぐらいか。
「まあやってみる価値はあるかもな」
まず『水流針』をいつも通りに発動、水球が針状に変化したところで留める。ここで3発同時ではなく1発ずつ発射、同時に水球を一つずつ生成、針状に変化させていく。
「ぐっ、これは難しい……」
生成、成形、射出の3つの工程を同時にやるのは脳が混乱する。まるで左右の手でそれぞれ三角と四角を描きながら両腕で星型を描いているような。脳トレのレベルではない。
「うおっ、あぶねえ」
『風槌』が身体を掠める。回避に意識を持っていかれた瞬間、針状に変化させていた『水流針』が崩れて地面に水溜まりを作った。思考のリソースが魔術に割かれすぎているな。
「これある程度魔術を自動化しないと出来ねえぞ」
生成、成形、射出を全自動で行う魔術を作るしかない。
「……いや、魔術は基本的に全自動だろ?」
では何故さっきの『水流針』はそれぞれの工程を意識しながら魔術の行使を行っていたかを考えなくてはならない。
「3つの水球をそれぞれ工程をずらすというアレンジをその場その場で行っていたからか……?」
一つの魔術に対して3カ所を同時に弄り続けていたのだから難しさは通常の比ではない。もっと単純にすればいいのだ。
「例えば『水流針』を魔力が無くなるまで自動的に生成し続ける魔術にするとか」
呼び出す場所は俺の後を追従する形でいいか。照準は単純に指定した場所にまっすぐ飛ぶだけでいい。あとは魔術と俺に魔力の回路を繋ぐ感じで。
「出来た、名付けて『水流針、型式=子機』!」
俺の1mほど背後に『水流針』の水球が姿を現す。今までと違って数は1つだが今までの水球よりも少し大きめである。水球の一部が形を変えて針状になるとシルフィードの頭部に向かって発射された。撃ちだされた『水流針』は『風槌』にかき消されたが背後の水球は未だ健在であり次弾の『水流針』を作り出していた。そしてその間俺はこの魔術のコントロールを一切行っていない。強いて言えば魔力を送り続けているだけだ。
「上手くいったが、一個じゃあこれと言って効果が見えないな」
ならどうするか、答えは単純だ。
「少ないなら足せばいい。『水流針、型式=子機』×3!」
先程作った水球と同じものが等間隔に出現して攻撃を始める。まるで子供の電車ごっこだが魔力を与え続ける限り攻撃をやめないこれはかなりの脅威になるはずだ。
「結構魔力が吸われるな」
今まででこの感覚を味わったのは初めて雷帝戦鎚を放った時か、あの時は初めての魔術を使うのに常に調整を行なっていたので消費が凄かったのだが。コレは幾つもの魔術を同時かつ常時展開しているせいだ。並の魔術師なら10秒も持たずに魔力が切れて倒れるだろうな。
「改良の余地はあり……と、後はコレでもあんまり状況が変わって無い事だな」
子機の射撃タイミングが違うおかげで常に『水流針』が飛んで行っているが俺に向かって来る『風槌』が4発から5発に変わっただけだ。と言うか『風槌』1発でこちらの『水流針』が3発掻き消されるのが問題なのだ。もっと向こうの効率を下げなければ。
「こう、別方向からの攻撃するのが良いんだが曲げ撃ちは更に魔力の消費が上がってしまう」
消費を抑えつつ手数を増やすにはもっと別方向からの攻撃を増やさないと、それこそソフィーの『雷雨』の様に……。
「コレをおいとけば良いんじゃね?」
追従している子機の一つにその場で留まるように指示。子機は動かなくなりその場から『水流針』を撃ち続けるようになった。それをシルフィードを囲むように設置。『風槌』で迎撃する場合は12発の内4発は使わなければ無くなった。
「よし、これなら前に出れる。アリスいくぞ!」
「かしこまりました!」
弾幕が薄くなったところでアリスと同時にシルフィードへ肉薄する。攻撃を潜り抜けられた事に動揺しているのか腕を薙ぎ払ってくる。
「それは悪手ぅ!」
薙ぎ払いに『反射』を合わせる、勢いよく跳ね上がった腕は更に動揺を上乗せしバランスを崩す。
「いくぞ『水刃』!」
その隙に水属性の付与をかける。『風刃』の時よりも抵抗なく入ったかと思うと自分が想定した物より倍デカい水の刃が成形された。これが属性一致の効果か。
「でぇい!」
「せいっやぁ!」
バランスを崩して下げた頭に向かって剣を振り下ろす俺とアリス。角折れたら良いな。
『ーーー■ ■ ■!!!』
剣が触れる瞬間、何かが行手を阻んだ。これは……空気?シルフィードを中心に膨大な空気が膨れ上がって爆発と見間違うほどの衝撃が主部屋を満たした。
反省を促すダンス