117 緑竜
プリンの日なので初投稿です
『■■■■——!!』
竜種の姿になったシルフィードが声を張り上げたのを合図に俺とアリスは走り出す。
「前衛は俺達でやる2人は援護を頼む!」
「まかせたまえ」
ソフィーが杖を振るうと空中に炎の剣が現れる、炎系中級魔術『火炎剣』だ。対してシルフィードが翼を広げると風が吹き荒れた。風属性の素子が多いのか翼の周囲に緑色の塊が幾つも見えた、もしかしてシルフィードが充填している魔素の塊か。
「シルフィードの周囲に魔素の塊、数は十二!」
「コチラでも見えます」
「防御は?」
「不要です」
「じゃあこのまま突っ込むぞ!」
空気の塊が射出される、刃の形に変形しないという事は『風槌』か。十二個の内、俺に4つ飛んでくる。1発目をサイドステップで避け、2発目を『風刃』を『付加』した剣で斬りつける。空気の塊は真っ二つに切れて左右に逸れていった。
「げ、一発で『付加』が剥がれた。どんな魔素してんだ」
使い物にならなくなった『付加』を振り払うように解除して3発目の『風槌』を『反射』で返す。はじき返された『風槌』は4発目と衝突し、凄まじい風を吹き散らして消えた。
俺に飛んできた『風槌』を全て処理し、残りの魔術が飛んでいった方を見る。4発がアリスで残りがソフィー達だ。アリスは難なく全ての『風槌』を回避していた。ソフィー達は『火炎剣』で迎撃する。ぶつかり合う炎の剣と風の槌は爆風を起こしながら相打ちになった。
「下級魔術と中級魔術で相殺とかどうなってんだよ」
しかも風属性と火属性なら火が優位を取れるはずなのだが。竜種の名は伊達ではないという事か。剣が届くまでまだ距離はある、また大量の『風槌』が飛んでくる前に近付きたいのだがそう簡単に行かなさそうだ。
「なら『瞬間爆破』ならどうだ?」
『■■!』
シルフィードの目の前で『瞬間爆破』を発動させるために指を鳴らす。
「……うん?」
しかし『瞬間爆破』が発動しなかった。何度も指を鳴らすがやはり発動しない。自分の魔力が見える様にしてからようやく気が付く。
「俺の魔力が散らされている?」
指を鳴らす構えを取ると同時に自身の魔力をシルフィードの前に配置する。シルフィードは翼を少し揺らしたと思うと俺が作った魔力の塊は風に飲み込まれてしまった。
「なるほど、風属性は彼女の支配下って事か」
『瞬間爆破』は爆発によるダメージを与えるがそれは結果であり過程は魔力で空気の成分を変質させる風属性の魔術だ。
「『瞬間爆破』は駄目、『風刃』も一発でズタボロ……となると雲を使う雷魔術も難しいな」
下級魔術のように魔力から直接雷に変化できれば問題ないだろうが最上位である竜種にダメージを与えるには少なくとも中級は必要だろう。雲を精製しないと発動出来ない今の俺では無理だ。そうなると別の属性を使うしかないか……。
「ユート!上!」
「ッ?!」
後から飛んできたクレアの声で上を見る。そこにはシルフィードが撃ったであろう『風槌』が目前まで迫っていた。この距離だと回避は間に合わない!
「この、『反射』!」
なんとか盾で弾き返すことに成功し、後続の『風槌』を相殺する。残りは横に飛んで回避した。
「すまん助かった!」
「ボーッとしてんじゃないわよ!相手は竜種なのよ!」
少し考えに没頭しすぎていたようだ、とにかく風は使えない、他の属性で攻めることにしよう。
「アリス!俺は右から行く!」
「ではワタシは左から」
左右に別れながらシルフィードに向かう。相変わらず『風槌』をガトリング砲のように連射して来るが捌ききれない物量ではない。問題は射出される速度が異常に速い事だ。ステップを刻みながら避けているが、これ以上近づくと反応しきれずに被弾してしまう。アリスは俺よりも大分近付いてはいるが似たような状況なのかそれ以上進めないように感じる。
「風が駄目ならこいつはどうだ。『水流針』!」
俺の周りに大きな水の球体が現れ、渦巻きながら針状に成形されていく。狙うは『瞬間爆破』と同じ顔周辺だ。爆破ほど視覚を阻害できないかもしれないが単純に目の周辺に攻撃が来るのは意識せざるを得ない。俺の方に意識を持っていけばその分アリスやクレア達が動きやすくなる。俺達のパーティは遠近両方で敵を倒せる手段を持っている、ならば動きやすいよう敵意を集めるのが前衛としての仕事だろう。
「発射!」
飛び出した『水流針』は真っ直ぐな軌道を描きながらシルフィードの顔面に突き進んでいく。しかし『風槌』がそれを防いでしまう。こっちを見てもらうにはもっと主張を高めないとな。
「これならどうだ!」
周辺に水球を無数に浮かべて『水流針』を作ってき、それらを次々に射出、そして再び水球の生成を行う。先程から目の前で行われている『風槌』のガトリングを参考にこちらも『水流針』のガトリングをしてやろうと考えたのだ。
「射撃レートが低い、もっと成形から射出までの速度を上げるべきか?」
「いいや、違うね」
『火炎剣』が飛んでくる。後方にいるソフィーの攻撃だ。しかし大きさが随分小さい、本来なら巨人が持つ剣ぐらいだと言うのに今飛んできたのは人が持つ剣ほどだった。後を見るとソフィーが撃ち出した『火炎剣』が途中でいくつもの小さな剣に分散してシルフィードに突撃していくのが見えた。
「おぉ、クラスターミサイル」
『■■!!』
シルフィードが『風槌』で迎撃するが数が多すぎて迎撃できずに幾つかが被弾している。
「君の持ち味は既存の魔術に囚われない発想とそれを実現できるイメージ力だろ」
「ソフィー……」
そこまで言われたら頑張るしかないじゃないか。
ゴリラネタは擦られなかったな