116 交渉条件
オンラインゲームの日なので初投稿です
尻尾が地面に落ちると同時にクー助が合成虫の上半身を裏返すことに成功していた。クー助が合成虫の腹を切り裂き腹の中心に核心らしき石を砕くと合成虫は2,3度痙攣した後、光になって消え、戦利品が残った。
「えーっと、正式名称は五種蛹か……え、蛹?」
あんな殺意の高い蛹が居て良いのだろうか。と言うか見た目で確認できたのはクワガタ、カマキリ、ムカデ、サソリだがあと1種は何なのだろう。
「本当にやることなかったね」
「パーティを組んでいるとはいえ護衛対象ですから、エリちゃん様を危険な目に合わせる訳にはいきません」
「だったら階層主に来ること自体が間違いだと思うわよ」
「う……本当は見たら引き返す気は有ったんだよ、扉が閉まるとは思わなかったし」
「いくらキミたちを信用してるとはいえ流石のボクも今回は肝が冷えたよ」
「すまなかった、もう寄り道せずに目的地に向かうとしよう」
手に入れたのは五種蛹の大アゴ、鎌腕、甲殻、歩脚、甲殻、甲殻、殻多いな。
「最後のは……針だな」
余りの大きさに針というより突撃槍に近いな。
「それが尻尾のヤツかい?」
「だろうな、何かに使えるかもしれない」
手に入れた素材を道具箱に放り投げる、予定にはなかったが思わぬ収穫だ。これで何か作れるかもしれない。
「それじゃあシルフィードに会いに行きますか」
いざ、素材交渉の時間だ。
「私の鱗、ですか?」
主部屋に辿り着いてシルフィードの様子を見てみれば平然としていた。まあクー助という前例があったので特に心配はしていなかったがエリちゃんはほっとしたようだ。そんなわけで現状絶賛交渉中という訳だ。
「人間って言うのは魔物の素材を使って武器を作るんだ、そこで君の様な竜種の素材を使えれば最高の武器が作れると思う」
「……なるほど、そういう事だったんですね」
黙りこくってしまうシルフィード、何か問題でもあっただろうか。
「どうしたの黙り込んで」
「あぁ、いえ……リーザに会いに初めて街に行った時に冒険者を初めて見まして、その時に感じた疑問が晴れたと言いますか」
「疑問って?」
「こう……市井の方々と違い冒険者の中には随分と趣が特異な方が居る様にお見受けしたので」
「シルフィード様の鱗を頂くのとどのような関係があるのでしょうか?」
「それは……」
言いよどむシルフィード、そんなに言い辛い事なのだろうか。
「あの、言いたくないなら無理に言わなくても」
「いえ、あなた方の事情も理解できますし私としても……魔物の骨を武器にしていたり魔術師の方なんかは核心を杖に取り付けていらっしゃるでしょう?」
それがどうしたのだろうと、ふと考える。彼女は人間の姿をしているとはいえ竜種である以上立場で言えば魔物側の存在だ。そうすると魔物の素材を使われた武器を魔物が見るという事になる。それを人間に置き換えてみると。
人間の骨を使った武器を狗人が振り回しているとしたら?人間の皮膚を羽織っている豚人をみたら?人間の心臓を杖に括り付けている祈祷小鬼がいたら?自分の皮膚や爪が欲しいと言ってくる奴がいたら?
「嫌すぎるな……」
今更ながらに自分のつけているレザーアーマーを見る、これも魔物の革……皮膚だもんなあ。
「あの、嫌なら別に……」
「ふうむ、ユート君は素材が欲しい、シルフィは心情的に無理と」
「いえ、だから無理という訳では……」
「じゃあ、こうしよう!シルフィとユート君達で戦って勝つことが出来たら報酬として貰おう!」
なんでそうなる。
「ほらおとぎ話にもあるでしょ?」
「それは『竜種の試練』の事でしょうか?」
「なにそれ?」
「有名な御伽噺よ、勇者が魔王を倒すために色々な迷宮を踏破するのだけどその中で一番人気のある話が竜種の試練なの」
「その昔話に乗っ取り、竜種であるシルフィとユート君とで戦ってシルフィの一部を授かるのに相応しいか決めようってことさ!これならシルフィもあげる理由が出来るでしょ?」
ゲームによくあるこれが欲しくば倒して見せろって奴か。
「まあ、確かにそれなら……」
「ユート君もそれで良いかい?」
「シルフィードに不満がないなら構わないぞ」
元より一方的な交渉なのだ、シルフィードがNOと言えばそれでお終いな事を条件付きで貰えるのだから文句は無い。
「あの、一つお願いがあるのですけど、魔竜様は戦いに参加しないで頂けると有り難いんですが」
「なんでよ、クー助もあたし達の仲間よ」
「竜種は魔素の均衡と循環を管理するのが使命です。その関係上戦うことは禁忌とされているのです」
「竜種同士で戦うのは禁止って事か……分かった、悪いけどクー助は待機な」
「きゅ!」
「さて、ボクも一緒に見ようかな」
戦わないんかい。
「いやー、ボク本来は事務仕事がメインだからさ。現場仕事は専門外なんだよ」
「その割には道中ノリノリで戦ってたじゃない」
「偶には身体を動かしたい気分だったのさ、まあ流石にシルフィ相手に弓は向けづらいよ」
仕方ない、クー助とエリちゃん無しで戦うとしよう。
「俺たちの準備はいいぞ」
「分かりました」
シルフィードの身体が輝き、その姿を変えていく。シルヴェストルの様な竜種と鳥類をあわせた姿はしかし全体がシルヴェストルよりも鮮やかな緑色をしていた。
『それでは、いきます!』
初めての竜種戦が始まろうとしていた。
持ち機体がアップデートされない