114 逃走不可
ワープロの日なので初投稿です
元の道を通って低階層まで戻ってくると討伐を終えて戻っている冒険者達を見かけるようになってきた。その流れに合流して出口へ向かいキャンプ地へと戻ってきた。
「ふむ、君たちが最後だな。どこまで潜ってきたんだ?」
「様子見で19階層までだ。20階層の主を見ておきたかったが時間が無かったよ」
「様子見で……?まあいい、君達がそういうのならそうなのだろう。行動を一緒にしていたパーティは……その様子では居なさそうだな」
辺りからの視線にさっきまで大声で喋っていた者達が急に声を小さくする。これは、やっちゃったヤツだな。案の定夕飯の時にはやれ狗人を倒した魔術は何だ剣術はどこの流派だの質問攻めにあった。
「夕食の度に質問攻めにあっているな」
割り当てられたテントに戻りランプを囲む俺達。流石にテントに押しかけてくるような事はしないらしく静かに過ごせている。
「さて、今後のというか、明日の予定だが……エリちゃん、確認したいんだが迷宮主の部屋に向かう任務は一応終わりという事でいいんだな?」
「最初はその予定だったんだけど……ゴメン!明日もお願いしていいかな?」
「いいぞ」
「いや無理は承知なんだけどアレだけで継承の儀式が終わった言われてもどうなったか心配で正直今夜あそこに泊まろうとも考えたんだけど流石にそれじゃあ皆に迷惑かかるし……っていいの?」
「前例があるからな」
チラリとソフィーを見るが何食わぬ顔でいる。耳が少し赤いが。
「ワタシ達としましても乗り掛かった舟でございます。最後までお供いたします」
「乗り掛かった舟なのか毒の盛られた皿なのか分かんないけどね」
「ボクとしてはどっちでも構わないよ。竜種の研究が捗るならね」
「まあ、流石に無料ではない。その分報酬を払ってもらうけどな」
「いいよ、何が欲しいんだい?」
「竜種の素材が欲しい」
「シルフィの素材……?」
「そう、俺達は風属性の武器を作るべく素材を集めにこの作戦に参加したんだ」
なら竜種の素材は属性武器の素材として最高級だろう。
「なあんだ、ユート君が女の子の爪とか欲しがる性癖に目覚めたのかと思ったよ」
「なんだその癖」
「最近中央都市に夜な夜な女の子を襲っては爪や髪の毛を切り取っていく変態が現れたらしいよ」
マジモンの変態がいるのか、中央怖……近寄らんとこ。
「まあそれは良いとして、流石に素材の提供はシルフィ次第だから約束はできないよ」
「交渉してくれれば十分だよ」
「分かった。良い結果になるように努力はするよ」
これで明日も迷宮の最奥に再び向かうことになった。
「のはずだったのにどうしてこうなってるのよ!」
「中階層の主は攻略本に載っていたけど実際に見るとでは全然違うね」
19階層のショートカットにいく前に中ボスがどんなのか気になったので様子を見に来たのだが主部屋に入った途端に扉が閉じ開けることが出来なくなった。そして部屋の中央に倒すべき敵が現れた。
クワガタの大顎にカマキリの鎌腕、ムカデの胴体にサソリの尻尾と昆虫の合成獣と呼ぶべき姿をしておりその全長は20mは超えているだろう超巨体であった。
「あんな図体デカイのになんでこんな足速いのよ!」
「足が沢山あるからじゃないか?」
「そういうこと聞いてるんじゃないわよ!」
「クレアちゃん様、追いつかれます」
「ああもう!魔法盾!」
巨体に見合わぬ速度で突っ込んでくる合成獣もとい合成虫は鎌腕をラリアットの様に広げて突っ込んで来た。
その攻撃を防ぐべく魔法盾を展開するクレア、展開された盾と鎌がぶつかると一瞬の拮抗したのち盾は砕け、鎌は弾かれた。
「こんなの何度も受けたらまた魔法盾壊れちゃうわよ!」
「それまでになにか解決策を考えないとな、っと尻尾がくるぞ、後ろに下がって!」
全員を後ろに下がらせて俺は盾を構える。鎌を弾くと電車のように通り抜けていく胴体の最後に尻尾による刺突が待っている。鎌の様な範囲攻撃は魔法盾で防げるが尻尾の刺突攻撃は盾を破壊した後にそのままクレアを串刺しにしかねないので俺が『反射』で確実に弾くしかない。
「毒針を構えて、引き寄せて……今!」
高速で走り回る上に正確無比な刺突は見て反応するのは無理だ。だが的確すぎる攻撃は逆に誘導が容易だ。全員を俺の後ろに移動させれば確実に俺を狙うし、攻撃モーションも分かりやすいので『反射』しやすい。尻尾の先端が盾に触れると甲高い音を響かせながら尻尾は弾かれて真っ直ぐに天を向く。
「防ぐばっかりで攻撃できてないね」
「ボクの弓も効果なさそう。どこも弾かれてるよ」
「ソフィー、なにか手はないか?」
「難しいね。魔術の耐性も高いのかどの魔術も効果が見られない」
「物理もダメ、魔術もダメ、攻略本にはなにか書いてないか?」
「本にも見た目の情報しかありません」
「先代ギルド長はこれ倒したんだよな。エリちゃんなにか話聞いてない?」
「酔っ払った時にぶん投げたとしか聞いたことないよ。そもそもこの主にあったことあるのもおじいちゃんだけなんだ」
「つまりマジで情報無いのな」
日本の昔話に大百足退治の話があるが、確か唾を鏃に付けて脳天を打ち向いただっけか、エリちゃんにやってもらうか?もしくは酔っ払いの与太話を信じるかだ。
「これはボクの推察なのだが、腹部が弱点の可能性があると思う」
「それは何故でしょう?」
「こんだけ物理にも魔術にも硬いなんてありえない、どこかに弱点があるはずだ」
「それが腹部だと?」
「あの装甲の硬さからして重量も相当だ。なのにあの素早さ、どこかの守りを犠牲にしないと成り立たない」
「その上で先代の投げ飛ばしたから考えてお腹側が弱点だと?」
見れば背中側とお腹側で表面の色合いが違う。もしソフィーの仮説が正しいのなら裏返す手段が必要になる。
「そんな手段……あるな」
「きゅ?」
エリちゃんを除く全員がクー助に視線を集めた。
(ヒッヒが)無限(に欲しいから)列車(の如くつよバハを狩る)編