113 儀式
苗字の日なので初投稿です
竜種の姿になったシルヴェストルは竜というよりは鳥に近い姿形をしていた。長い嘴に羽毛で覆われた全身、背中の翼とは別に前足も翼の様になっている。4枚羽の大きな怪鳥と言った方があっている気がするな。
『■■■■■■■■、■■■■■■■■■■』
『■■■■■■』
2人が何か話しているように聞こえたが翻訳機能は発揮しなかった。魔物の言葉は分からないのだろうか、古代文明の言葉は現在では使われていないが人の言葉であるだろうし翻訳機能が発動する境界線はそのあたりにありそうだ。と考え事をしていたらどうやら始まるらしい。魔法陣に光が灯る。すると二人を中心に魔素が渦巻いていく。余りの濃度の魔素に体が押し流されそうな感覚に陥る。
「風がお二方を中心に吹きすさいで来ました」
「この風はものすごい魔素が渦巻きながら彼女たちに集まっている影響だね」
「風属性の魔素を集めているの?」
「いや、純粋な魔素だけだよ。普通はこんな事は起こりえないんだけどそれを可能にするほどの濃い魔素が集まっているんだ」
どうやら錯覚では無いらしい。というかこの現象どこかで見たような……。
「あぁ、『禁魔の伽藍洞』でネルが育った時と同じなんだ」
「アレも親子の力を引き継ぐ儀式だったのかもね」
だとするとネルも源創種に分類されるのだろうか。樹木種とか?
『—————』
『—————』
2人が綺麗なソプラノボイスで鳴き出した。なんて喋っているのかもはや見当もつかないな。音色の高低差がある程度しか分からないし。
「これは……歌、でしょうか?」
「歌?」
「確かに歌っているように聞こえるわね」
「歌は古くから知恵や掟などを伝承する為のツールとして使われてきたからね。それを模しているのかも」
歌、歌か。確かにそう言われると聞こえてくる。ランダムに変わる音域も音階だとすればすっと馴染むように納得がいく。そういえばDPSでも精霊術という魔術とは別系統の術式を使う女の子が居たはず、その子も確か歌って精霊を操っていた気がする。
「見て!竜種の姿が……!」
クレアの言葉に改めて魔法陣の二人を見る。シルヴェストルの身体がうっすらと透けて見える。まさか空気中に溶けだしているのかと思ったが散るどころか肉体の更に内側、胸の中心に集まっているのが分かった。
「アレは……核心か?」
「竜種として身体を構成している魔素までもあの核心の中に入り込んでいるようだね」
見る見るうちにシルヴェストルの身体が透明になって最後には核心だけが残った。核心はシルフィードに近付き、シルフィードはそっと核心を手に取ると胸に抱きしめた。
「シルフィ……」
「リーザ、見ていてくれてありがとう」
「お礼なんていいよ、ボクから見たいって言いだした事なんだし。それよりもその……シルヴェストルのおじいちゃんは……」
シルフィードが手で包んでいたものを見せてくれる。緑色に輝くソレはネルから貰った果実に似ていた。
「お父さまは、存在の全てをこの果実に変えて私に託しました」
「それではもうシルヴェストル様には会えないのでしょうか」
「そうですね。会う事はもうできないです。とは言え死んだわけではありません。貴方達のいう魂は私と一体となって在り続けます」
「まったく、おじいちゃんもそうなるなら言ってくれないと分からないじゃないか」
確かにあの会話が今生の別れになるとは思わなかった。
「それで、継承の儀式は終わったのかい?」
「いえ、後はこれを取り込まなければいけません……あむっ」
シルヴェストルそのものと言ってもいい果実を飲み込むシルフィード。結構な大きさがあったのに一口で言ったな。もぐもぐと咀嚼するシルフィードをエリちゃんは慌てた様子で騒ぎ出す。
「え?!ちょっと……」
「もぐもぐ……ごくん。こうしないと継承出来ないんですよ」
「そうだとしてもおじいちゃんだったモノをそんな……えぇ……」
まあ気持ちは分からなくもない。俺達も初見だったらエリちゃんと同じように動揺していただろう。
「ユート君たちはアレを見てもなんとも思わないの?」
「前に似たような事を見たからな。そういうモノなんだろ」
「クーちゃん様も同じようにネル様から頂いた果実を食べて大きくなりましたので」
「ネルって誰?」
「世界枝の子供だよ」
「世界枝?聞いたことないな」
「まあ、世界枝さんですか!」
出した名前に二通りのリアクションを起こすエリちゃんとシルフィード。
「知り合いなのか?」
「私は直接お会いしたことは無いのですが、お父さまから聞いた昔話で何度もお名前をお聞きになりました。なんでもこの世界の根幹をなすお方だと伺っております。そして先の黒竜との戦いで封印した地の上にその根を下ろして守ってくださっていると」
まって、あそこそんな重要な場所だったの?世界枝が枯れていたのは実は世界の危機だったとか?
「今は子供のネルが居て順調に育っているよ」
「そうですか、是非ともお会いしたいですね」
「機会があれば案内しよう」
今や乗り合いの馬車に乗らなくてもクー助の背中に乗れば半日もかからずにたどり着けるからな。おっと、そろそろ帰らないと集合時間に間に合わないかも。
「今日はこの辺りにして帰らないか」
「もうそんな時間か、それじゃあ帰還用の魔法陣に……あっ」
「どうした?」
「魔法陣の出るところ……野営地のど真ん中だ」
確か野営地の真ん中には大きなキャンプファイヤーが鎮座しているはずだ、その中に出るとなると。
「丸焦げでございますね」
帰り道はクー助に頑張ってもらう事になった。
島風出ません