112 真の姿
宇宙の日なので初投稿です
「あれは今から36万……いや、そんな前じゃないな」
「900年前ですよ」
最初5000年って言っていたのに記憶ガバガバじゃねえか。
「魔王が勇者によって倒されて久しく穏やかな時代が続いていた時だった。突如として黒竜ファフナーは世界を滅ぼさんと暴れ始め、奴の支配する魔大陸は瞬く間に死の大地と化した」
「魔大陸というと断絶の山脈の向こうにあると言われている魔界の事ですか?」
「今の人間は魔大陸の事をそう呼ぶのか?彼方も此方と変わらないだろうに」
「そうは言っても人類は未だ向こうに行ったことは無いのですよ」
「そうか?確かあの山脈には抜け道の洞窟があったはずだが……」
「お父さま、話が逸れていますよ」
「おぉ、すまん。暴れ回る黒竜は儂ら残りの七竜をも滅ぼそうとしておってな、儂らの説得にも話を聞かず黒竜を倒すしかなくなった。本来なら互角の力を持つ儂らだがその時の黒竜は儂ら全員を相手取ってなお圧倒的な力を持ち合わせており、このままでは儂らも世界と共に滅びる寸前まで押されていた」
900年と言えば確か初代学園長のナンカクアスカが転生してきたときと一緒だ。
「なあ、シルヴェストル様はナンカクアスカという転生者を知っているか?」
「おお、知っているとも。彼女こそが共に世界を救った彼方よりの来訪者だ」
「来訪者……ですか?」
アリスの言葉に深く頷くシルヴェストル。
「うむ、この世界には人間が滅びようとすると来訪者を寄越して人間を生きながらえさせる機構がそなわっている。そこで訪れたのがナンカクアスカであった。彼女は儂らと共に戦い、そして黒竜を魔竜諸共封印することに成功したのだ」
それが日記に書いてあったなんやかんやなのだろう。随分重要な事を書き飛ばしたなナンカクアスカ。
「なぜクーちゃんを、この場合は先代魔竜かな……と共に封印したのですか」
「それは魔竜がその身をもって黒竜封印の活路を作り上げたからだ。そのおかげで黒竜の封印に成功し滅びの道を閉ざすことができたのだ」
「ねえ、一つ疑問なんだけど」
クレアが手を挙げて質問する。
「どうした、神の力を纏いし少女よ」
「あたしの名前はクレアよ。黒竜と魔竜が一緒に封印されているのは分かったけど、クー助は魔竜の子供って事になるのかしら?」
「そうだな、此奴は封印から漏れ出た魔竜の魔素から新たに形作られた魔竜なのだろう。そういう意味では子である事に間違いはない」
「もしかしてだけど、それって封印が解けかけているんじゃないのか?」
封印しているモノが漏れているだなんて、900年も経ってるし蓋が劣化しているんじゃないだろうか。
「元より急ごしらえで作った封印であるからな、いつかは壊れよう。しかし壊れた時に今度こそ黒竜を屠れるように儂たちは準備をしておる。この世代交代もその一つ」
「いやあ、初耳な情報が一杯だね、ボクも聞きたいんだけどその封印が壊れるのっていつなのさ?」
エリちゃんの質問は確かに重要だ。世界が滅ぶかもしれない出来事が確定で来るのならその準備をしておく必要がある。それこそ世界中に居る勇者とやらを集める必要だってあるだろう。どの程度の準備期間があるかも分からないし場合によっては早急に動く必要もある。
「そうだな……大体あと2、300年先かの」
思わず椅子から滑り落ちる。
「ご、ご主人様大丈夫ですか?!」
「大丈夫、大丈夫……随分と先の出来事で思わずな」
まさかひ孫のひ孫レベルで先の話だとは思わなかった。普通もっと近いタイミングだろ。
「ところで、世代交代は他の竜種もやっているのか?」
「ふむ、赤竜ウルガン、青竜バハムート、黄竜グノーム、そして儂緑竜シルヴェストルが世代交代の為に子を産み、育てておる」
「白竜は世代交代しないのか?」
「奴は黒竜との戦いで負った傷を癒すために眠っておるはずだ。目が覚めるまでは出来んだろう」
その言い方だと900年ずっと寝てる感じだけど竜種だし本当に寝てそうだな。床ずれが酷そうだ。
「しかしどうして世代交代を行うんだ?」
「儂ら幻創種は完成された存在だ、故に成長もしない。だからどうやってか力をつけた黒竜に敗北寸前まで追いやられてしまった」
育成ゲームによくいる初期ステータスが高い代わりに伸びが極端に低いキャラみたいだな。終盤になってくるとステータス不足でレギュラーから外れる奴らだ。いや伝説級なのだからステータスは有象無象の魔物よりはレベルが違うだろう。
「そこで儂たちは幻創種ながらも不完全な子をなし、育てた。成長とは可能性だ。人間の姿にしたのも成長するということでは他の追随を許さないからだ」
「ふうん、そうやって生まれたのがシルフィってことか。ま、事情がどうであれ親友が出来たことは嬉しいけどね」
「ふふ、ありがとうリーザ。私も貴女に出会えた事は生まれた中で一番の幸運だと思っているわ」
目の前で繰り広げられる百合の塔に思わず笑顔になる。
「さて、昔話も終わった。そろそろ始めるとしよう」
「はい、お父様」
「頑張ってねシルフィ」
シルヴェストルとシルフィードが席を立ち広場の中央に向かう。よく見たら巨大な魔法陣が描かれている。かなりの大きさだ、あまり近くに寄らないほうが良いだろう。
魔法陣の中央に二人が立つ。すると凄まじい量の魔素がシルヴェストルから溢れ出しその姿を真の姿に変えた。
宇宙キターーーッ!