110 行き先
8月が終わるので初投稿です
しばらくすると荷物の入ったコンテナがレールを伝って荷受け場所まで降りてきた。中を確認すると鉄のインゴットが10個入っていた。
『出庫を終了しますか?』
「なあ、魔金剛の生産工場はどこにあるんだ?」
『エラー、その命令はCクラス以上の管理者の許可が必要です。Cクラス以上の管理者を呼んでくるか実行許可パスコードを入力してください』
「なるほど、じゃあもういいよ」
『システムを終了します』
コンソールの画面が暗くなる。インゴットを全て道具箱に詰め込んでいくと、コンテナは再びレールを伝ってどこかに行ってしまった。
「ところであの音声とどのようなこと話していたんだい?」
「魔金剛の場所だよ。と言ってもここに在庫は無いらしい。なんでも生産工場があるらしいけど場所もさっぱりだ」
エリちゃんが興味深そうに聞いてくるので素直に答える。古代の言語が分かるとバレた以上取り繕う必要もない。そもそも既にクー助という重大な隠し事がバレているのだ。これ以上バレて困る事など『親愛の絆』ぐらいしかない。
「やっぱりかあ、ボクも前に頼んだことがあるんだけどなにも持ってこなかったんだよね」
「生産工場があるらしいが場所は教えてくれなかったな」
「それより目的の物は手に入ったのでしょ?だったら寄り道してないで早く行くのはどうかしら?」
ソフィーの言葉に同意する、そもそもこの魔鉄はほぼおまけみたいなモノなので本命である迷宮の最奥に向かうとしよう。
「エリちゃん、ここからどこに向かうんだい?」
「向かうのはこの先だよ」
そういわれて連れていかれたのは取っ手の無い扉の前だった。扉は壊れているのか少し開いている。中は暗くて良く見えない。
「ここが迷宮主への近道さ」
「こんなところが?」
「普通の冒険者は鉄人形の所で退散するからここまで来ないんだよね」
まあ、あの大群を見れば一目散に逃げる気持ちも分かる。仮に動かない事に気が付いても更に奥にある扉まで行くにはやはり鉄人形の存在が気がかりになるだろう。今は動かなくても何かの拍子に一斉に動き出す可能性は0ではないのだ。それを無視できるほどの蛮勇な奴だけがこの奥に向かうことができるのだろう。
「ということは俺たちは側から見るとバカに見えるのでは?」
「急に何を言っているんだい?」
「そんなことよりこの扉の先でいいのよね?さっさと行きましょ」
クレアが扉の向こうへと歩みを進める、なんかこの扉見たことあるな……どこだっけ?
「クレアちゃん待って危ない!」
「へ?きゃっ……」
扉の既視感を思い出すと同時にクレアが暗がりに消え、その瞬間に俺は走り出した。クレアの手を掴もうとするが空を切る。
「クソッ……!」
扉の隙間から身を乗り出してクレアの消えた先、下に伸びた穴を見つける。
「エレベーター……!」
どれほどの深さは分からないが倉庫の底があれだけ深かったのだ、このエレベーターも相当深いと祈りつつ下に飛び込んだ。
「きゃああああああああああああ!!!」
「クレア!」
風槌で加速しながら落ちた先にクレアも落ち続けていた。更に加速してクレアを抱き止める。
「アンタまで落ちてきてどうすんのよ!」
「そこまで考えているとでも?」
「このバカ!」
「きゅー!」
この場にいない声が聞こえ二人して上を見ると、クー助が俺たち向かって飛んできていた。風槌で減速しながらクー助の背中に乗り込む。
「助かったよクー助」
「ほんとアンタは頼りになるわね」
「きゅー♪」
言葉のニュアンスが少し気になるとこがあったがまあ助かったので気にしない。クー助の背中にはすでにアリス達が乗っていた。
「全員が乗り込んでいるってことはもしかして」
「ご名答、ボク達が目指すのはこの縦穴の下にあるのさ」
「気になっているんだが、君はこの縦穴をいつもどうやって降りているんだい?」
「そこは秘密の協力者がいるんだけど、まあすぐに分かるよ」
しばらく降下していくと今度は綺麗に開けられた扉が見つかりそこから縦穴を出る。上と同じ古代文明の廊下だったが先程と比べて大分綺麗に保たれている。
「ここは上と比べてなんというか、綺麗に保たれているな」
「それはここが30階層の最奥、皆様の言うところの主部屋前だからですわ」
廊下の奥から聞こえる声に身構えるがエリちゃんが手で制する。つまりこの声の主も今回の依頼の関係者ということなのだろう。薄緑色のワンピース、腰まである長い金髪に白い肌、耳は尖っていないがエルフのイメージをそのまま具現化したような容姿だ。
「っていうか冒険者ギルドでナンパされてた女の子じゃん!」
「あら、あなたはあの時の……やっぱりお知り合いだったのですね」
「ご主人様、あのお方とはお知り合いなのですか?」
「こいつまた別の女ひっかけているわよ」
「ユート、君は結構節操なしなのかな?」
「その言い方は誤解があります」
男1女3のパーティやっている時点で節操がないのは事実だが。
「紹介するよ、彼女はシルフィード。迷宮の親玉、緑竜シルヴェストルの娘にして次期迷宮主になる予定の子さ」
「あぁ、通りで」
なんかクー助と似たような気配な訳だ。
「あら?そんなに変でしたか?この格好結構自信あるのですけど」
「竜種ってことは君の全身は魔素なんだろ、俺はちょっとした事情で魔素の気配がわかるからな」
「まあまあ、とても優秀なお方ですのね」
「そうだろそうだろ」
なんでエリちゃんがドヤってるんだ。
「さて、俺達への依頼は主部屋まで送り届けることだったがこれで依頼完了か?」
「そうだね、依頼分としてはここまでだけど、どうせなら見て行かない?」
「何をさ?」
俺の質問にエリちゃんがニヤリと笑う。
「そりゃあもちろん、竜種の継承式さ」
サプチケ買い忘れた