109 素材集め
夏季休暇が終わったので初投稿です
ヒュージスライムを突破した上級クラスの冒険者集団は幾つかのチームに分かれていった。その中で唯一誰とも組まずにいた俺達はとある極秘任務の依頼主であるエリちゃんに話を聞いていた。
「この迷宮における到達階層は27層、竜種が居る迷宮の中でも唯一最奥の主部屋に到達できてないんだ」
先頭を歩くエリちゃんに付いて行く。道中の魔物は順調に片づけていき戦利品を道具箱に収納していく。
「それが25層から始まる通称『風の迷路』さ。この区域に入ると殆ど魔物が少ない代わりに階層が複雑な迷路になっているんだ。しかもその迷路は壁が見えないからどこが道なのかも分からない始末。マッピングしようにも一定時間経つと道が変わるから気が付いたら自分たちがどこを歩いているのかも分からなくなる」
「でも、先代のギルド長、エリちゃんのお爺さんは主部屋に到達できたんだろ?」
「それが本当に不思議でさ、ボクも一度聞いてみたんだよ。そしたら『なんか適当に歩いていたら行けた』だって。ありえなくない?」
「それで、その迷路に今から挑まないといけないんだが……その前に少し寄り道していいか?風属性の魔鉄が欲しいんだ」
「そう?じゃあ丁度いいね」
「それはどういう意味だ?」
「これから向かう場所とキミたちの目的が合致するって意味さ」
そう言って案内されたのは19層、階層主まであと1層の所まで来ていた。
「ねえ、ここまで偶然遭遇した鉄人形しか倒してないけど目的の素材は揃ったの?」
「まだ1割も揃ってないが……エリちゃん、目的の場所はまだなのか?」
「すぐそこだよ、ここの角を曲がれば……はい、到着」
角を曲がった先にあった光景は異常なまでに広い空間と一糸乱れぬ列を形成する鉄人形の群れだった。思わぬ光景に剣に手をかける。
「ストップストップ!大丈夫、この子たちは動かないよ」
「動かないとは、エリちゃん様どういう事でしょうか?」
「そのまんまの意味さ、この子たちはまだ魔物としての核心が備わってないのさ」
核心が備わってない?魔物なのだから誕生した時点で備わっている物じゃないのか?それによく見まわしてみると迷宮の様子も先ほどとは大分雰囲気が変わっている。
今までは洞窟めいた壁や天井が何処か施設の様な素材に置き換わっている。
「ここは古代遺跡が迷宮に飲み込まれた場所なんだ、だからこんなに鉄人形が眠っているのさ」
「古代遺跡……?」
古代遺跡というよりはどこか未来的な感じがする。先史時代の文明が高度に発達したが何かしらの事情で滅んだという事だろうか。DPSにもファンタジーRPGの割にはやたらSF的な銃は存在していた。魔術による魔導具と思っていたがもしかして古代文明の技術だったりするのだろうか。
「そう考えれば鉄人形の造型がやたらスタイリッシュなのも納得がいく……か?」
「ご主人様、いかがなさいましたか?」
「いや、なんでも……で、丁度いいって言うのはこの木偶の棒から素材をもぎ取ればいいのか?」
「そんなことしなくても大丈夫だよ、こっちこっち」
案内されたのは鉄人形がひしめく広場から少し進んだ先の部屋、そこに入ると樹海の様に建ち並ぶ巨大な棚とその間を縦横無尽に駆け抜けるコンテナの姿、巨大な倉庫だった。
「なんでしょうかここは」
「まあ倉庫みたいなものだね。よくあるでしょ」
「このサイズの倉庫はよくないでしょ」
下を覗き込んで見る、一定間隔でライトに照らされているが底を見ることができない。どれだけ深いんだ。
「ここの机に欲しい素材を言えば持ってきてくれるよ」
「ふーん、ここに言えばいいのか?」
コンソールらしき前に立つと画面にマイクのマークが表示される、こういうシンボルマークって似たりするのだろうか。
「えーっと、風属性の魔鉄が欲しい」
『風素子の魔鉄鋼ですね。数はいくつですか』
「なにか喋ったけど聞いたことのない言語だね」
「多分何個出すのか聞いてるんだと思うよ」
「わかるのかい?」
「いや、今までの経験からだね、必要な物だけを言うとこの音声が出るから個数を言えば持ってきてくれるんだよ」
いや、今普通に音声が聞こえたんだけど……もしかして自動翻訳されている?ジジイからもらった能力がまさかこんなところで発揮するとは。
「一番品質の良いものを10キロくれ」
『ランク5を10キロですねご用意しますのでしばらくお待ち下さい』
「あと魔金剛ってあるか?」
『オレイカルコスですね。只今確認します……確認しました。申し訳ございません。只今在庫を切らしております。生産工場に問い合わせます……エラー、ネットワークに接続されていません』
「いや、無いならいいんだ」
『畏まりました。現在ネットワークに接続されていません。システム管理者はすぐに確認してください』
「これで風属性の魔鉄が手に入るのか、思ったより楽に入手できてよかったな……みんなどうした?」
そんな不審者を見るような目をして。
「どうしたじゃなくてあんたが急にそこの音声と一緒の言葉を喋りだして引いてるだけよ」
「もしかしてこの机が発する言葉を理解できるのかい?ぜひ詳しく聞かせて欲しい!」
「流石ですご主人様」
「喋ってた?この音声と同じ言語を?」
「多分ね。発声のイントネーションや言葉の流れからして多分そうだと思うけど、もしかして自覚ないのかい?」
「いや、普通に喋っただけだったんだけど」
「もしかしてだけどユート君ってばボクがおもっていた以上に天然なのかい?」
「そんなこと無いけど」
「そうね、変人よ」
「まあ、他の人には無い個性だね」
「そこがご主人様の良いところです」
そんな馬鹿な。
夏季休暇が終わった?エイプリルフールはまだですよ?