108 二度目の邂逅
夏季休暇なので初投稿です
主部屋の大扉が開く。冒険者たちが一気に突入し左右に展開する。しかしヒュージスライムは見当たらない。いるのは何時もそこらへんで蠢いているスライム達だけだ……やけに多い気がする。
「肉を投げろ!」
マッチョ氏の言葉で部屋の中央に肉が投げられる、サシが入ったうまそうな肉だ。こっちの世界では脂身の多い部位は敬遠されがちでペットの餌になっていたりする。
「勿体ないよなあ……」
「ご主人様?いかがなさいましたか?」
「いや、晩御飯は肉が食いたいなって思って」
「お肉料理ですね、畏まりました」
今夜の晩御飯が決まったところで中央に投げ入れられた肉の周囲に水滴が落ちる。天井を見上げると大きな水たまりが張り付いていた。
「ヒュージスライム……!」
「来るぞ!準備しろ!」
マッチョ氏が大声を上げると共にヒュージスライムが地面に落ちてきた。前衛が前に出て楯を並べる。様々な形はあれどその全てがタワーシールドと呼ばれる大楯だ。アレならヒュージスライムの物理攻撃にも耐えきれそうだ。
「俺達も魔術の準備だ。ソフィー用意はいいか?」
「もちろん」
魔力を使って雷雲を生成する。魔力から直接電気を作る事に成功はしているが威力がどうやっても下級魔術程度にしかならず結局雷雲を発生させた方が効率が良かったりする。憶測だが雷帝戦槌を使った時のイメージが身体に刻み込まれてしまったのだろう。そのせいで『魔法使いの日常』があっても自分自身のイメージ力によって一定以上の雷には雷雲が必要になってしまったと思われる。
『雷よ、敵を穿て』
『雷よ、敵に降り注げ』
ヒュージスライムの周囲に幾つもの帯電する球体が浮かび上がる。ソフィーの魔術だ。彼女は中級魔術程度には雲を作ることなく雷を撃つことが出来る。同じスキルを持っていてもここまで違いが出てくるのは才能の違いだろうな。おっと、ヒュージスライムも核心がビカビカと光りだした。
「スライムが詠唱を始めた!」
「『迅雷』まだか!」
「いつでもいけるぞ!」
「では、攻撃はじめ!」
「『雷雨』」
マッチョ氏の言葉に合わせてソフィーが魔術を放つ。空中に浮遊する雷球から雷がスライムに降り注いだ。雷はスライムの表面に当たるとその高圧電流によって生じる高温がスライムの粘液部分を爆発するように削り取っていき、遂には核心が体内から露出した。
「くらえ、『落雷』!」
俺は露出した瞬間に雷雲から特大の雷を放った。雷は露出した核心を粉々に吹き飛ばし、勢いは衰えることなくもう一つに直撃、1/3程を吹き飛ばし、更に別の核心に当たり核殼に穴をあけた。
「おお……これほどとは」
「オーダー通り核心を二つ、確かに破壊したぜ。ただソフィー、うちの魔術師の攻撃が終わるまでアイツに近寄らない方がいいかも」
「う、うむ。全員雷が収まったら一気に仕掛けるぞ!」
おう、と周りから元気な返事が聞こえる。雷は降り続けて核心を一つ破壊し、残り13個になった。詠唱しようと点滅していた核心も度重なる破壊により中断されていた。
「よし、雷が止んだぞ!一気に畳みかけろ!」
雷球が消えるとマッチョ氏の号令で一斉攻撃が始まり、一方的な解体作業が始まった。核心の破壊もそうだが、何より『雷雨』の粘液部分の削りによって二回り小さくなったことで物理攻撃の威力が無くなり、前衛が粘液を削り取りやすくなったのが要因だった。そのおかげで核心が再生しても防御する粘液が無く核殼も隙間だらけにになって直ぐに破壊されてしまう。そして……
「サイ、魔術師の準備が完了したぞ!」
「分かった。全員退避!攻撃魔術が飛んでくるぞ!」
全員がヒュージスライムから距離をとると魔術師達による各種様々な攻撃魔術がヒュージスライムを粉々に消し飛ばした。
「クレア、上に向かって魔法盾を展開したほうがいいぞ」
「は?急に何よ……ってきゃー?!」
盾を上に掲げ、アリスを俺のマントの中に隠す。ソフィーはクー助が翼を広げてその下に隠れていた。次の瞬間には魔術の飽和攻撃によって吹き飛ばされたヒュージスライムの粘液が降り注いだ。
「こうなるからな」
「もっと早く言いなさいよ!」
水を魔術で作ってクレアを洗おうと思ったが周りに同じく粘液だらけの冒険者が殺到してきてそれどころではなくなった。
「いやあ、高威力の魔術をあんなに早く撃てるなんてお前さん達本当にすごいんだなあ!」
「あれって今年の魔術学園で発表された雷魔術?どこで術式を手に入れたの?」
「いや、あれは俺たちが発表したやつなんだ……」
「なにぃ!?じゃあお前が噂の『雷人』か!」
「お前たちの気持ちもわかるが今は作戦中だ!」
今気になる単語が聞こえた気がするんだけどマッチョ氏の言葉で全員散り散りに散らばっていく。なんだよ雷人って……。
「ユート、よくやってくれた、お陰で怪我人も出ることなく階層主を討伐することができた」
「なに、俺たちができることを提案しただけだ。それに報酬の上乗せもあったしな」
「あぁ、最後の戦利品分配の時に渡そう」
報酬の約束を取り付ける。やり方的に渋るかと思ったがそんなことはなかった。このあとは中階層の魔物を掃討する手筈になっている。低階層を中級クラスが、中階層を上級クラスが魔物を倒し魔物氾濫が起きないようにするのだ。
「さて、これで君達は私達と離れ離れになる。ギルド長のこと、よろしく頼むぞ」
「サイさん、貴方知って……?」
「隠そうとしているようだが、彼女の立場上隠し事はできん。しかしここで何を成したいのは調べてはいないし、君達なら問題ないと判断したのだ」
去っていくマッチョ氏の背中を見ながらこれからのことを考える。まずは迷宮主に会うために高階層に向かわなければ、そのためには中階層の階層主を倒す。まずはそこからだ。
「ねえ、ユートがあの人をあんなにジッと見つめてるけど……そっちなの?」
「知らないわよそんなの」
「たとえそうだとしても、ワタシは付いていきます」
とりあえず後ろから聞こえる会話に介入するところからだな!
え、あと2日?!