104 夜の散歩
マンデラデーなので初投稿です
夜、食事の席では様々な冒険者が俺達の元に現れては質問を投げかけられて忙しい夕食となった。声をかけられていたのは主にアリスだが、クー助の存在に気が付いた連中がソフィーに根掘り葉掘り質問をしていた。
「疲れた……」
「ソフィー様、大丈夫ですか?」
「ボク、他人と喋るのは苦手なんだ……」
「俺と初めて喋った時はそんな感じしなかったが?」
「それはそれだよ」
どれだよ。まあいいか。食事も終わり、後は寝るだけだが今日は周辺の警戒を全員でローテーションを組んで行うらしい。パーティから一人出すようによ言われているが、ソフィーは夕食の質問攻めでぐったり、アリスも同様に質問攻めにあっていたし何より交流試合もあったので休み。クレアはそもそも回復職で攻撃方法が無い。
「という訳で俺が見張りに出よう」
「ご主人様に押し付けるわけには……」
「アリスは今日働いてくれたし夜に弱いだろ。俺なら多少睡眠時間が少なくても大丈夫だから」
「それはそうですが……」
「すまないけどボクはもう限界だ……お休み」
もそもそとテントに入っていくソフィー、クー助はテントに入れないのですぐ傍で既に寝ている。
「しょうがないわね、あたしが付いて行くわよ」
「クレアちゃん様」
「あんたのご主人様を一人で行かせるのが心配ならあたしが付いて行くわよ」
「いや別にいrメキッいって!」
「ほら、コイツもいいって」
「ふむ、それでしたら分かりました。クレアちゃん様、ご主人様をお願いします」
コイツ、思いっきり足を踏みやがった。しかもいつの間にかクレアを連れていく事が確定している。アリスも自分が限界だという自覚はあったのかテントに入っていった。
「おい、なんでお前が付いてくるんだよ」
「だって、そうでもしないとあの子無理矢理ついてきたわよ。そしたら逆にあんたの迷惑になってあの子落ち込むじゃない」
「確かに」
「それにあたし、今日特に何も無かったし。あんたに付いて行く程度なら特に問題ないわよ」
「夜更かしは肌に悪いぞ」
「おあいにくさま、あたし、この姿になってから肌荒れしたことないの」
聖女ってすげえな。集合場所に行くとマッチョ氏とそのパーティメンバーが集まっていた。今回の大規模作戦においてマッチョ氏が所属する『鋼の肉体』は全体の指揮を任されていた。
「む、来たかユート君。隣に居るのはパーティメンバーの……」
「初めまして、クレアです。今晩の哨戒に参加したく来ました」
「初めましてクレア君。私はサイ・ド・チェストだ。今夜の哨戒はパーティの負担を考えて1名と言ったのだが……まあ多いに越したことはない」
マッチョ氏が大きな紙を広げる。思ったんだがこの世界の紙って羊皮紙じゃないんだよな。普通に植物の繊維を使った紙で学園の図書館に保存されている本も大体が紙で作られていて羊皮紙や木簡の書物は数える程度しかなかった。きっと初代学園長のナンカクアスカが製紙方法を伝授したのだろう。
「これはここら周辺の地図だ。ここが今いる拠点で、ここから北西に進んだこの場所が迷宮の入り口だ。君達には南西方向の哨戒を頼みたい」
「南西だな。この辺りには何が出るんだ?」
「主にスライムとサーベルウルフだ。極稀に狗人が発見される程度だな。今回の哨戒は他のパーティとの交流も兼ねているのだが……君たちは極秘の任務を受けているとギルドマスターから聞いている」
「あぁ、内容は言えないが他のパーティとは離れて単独での任務になる」
流石にギルマス、エリちゃんを連れて迷宮の最奥に行くとは言い難い。
「そうか、ではそのまま二人で哨戒に行って来てくれ」
マッチョ氏の言うとおりに俺たちは南西方向に歩いて行った。
ランタンを片手に進めて行くと特に魔物の気配も無くほぼ散歩のような形になった。
「学園で時々お菓子のレビューを学園新聞に載せてたけどアレ評判よかったぞ」
「まあね、あたしお菓子の味には嘘はつかない主義なの」
「クレアが高評価つけた店って別に高級店という訳じゃなかったもんな。むしろ高級店だと評価低かった気がする、あれはなんでなんだ?」
「中央都市のお菓子職人が特にそうなんだけど貴重品の砂糖をどれだけ沢山使えるかが今の評価点になっているのよ。そのせいで貴族御用達の高い店は味のバランスを考えないで甘いだけなの」
確かに砂糖は貴重な調味料だ、それを大量に使えればそれだけ店が凄い所だと言えるわけで、その分材料費もかかる。そしてそんな高いお菓子を買って御茶会に出せば出席者同士のマウントの取り合いに勝てると。漫画で見たな、そういう展開。
「あたしが評価した点は見た目は勿論味も評価に含まれているわ。その上でどういった創意工夫がなされているのかをしっかりを見極めて……なによ、じっとあたしの顔を見て」
「いやぁ、そうやって楽しそうにしているクレアを見てると、綺麗だなって」
「なっ……」
何かに夢中になっている人の姿って輝いて見える。そういうのは見ているだけで元気が貰える。俺が元の世界でも仕事を続けられたのはDPSとそれを楽しそうにプレイしている人を見ていたからだ。特に爆死配信なんかはとても(悪い)笑顔になれた。
「なに言ってんのよ!き、綺麗だなんて……」
「そうか?クレアは綺麗だと思うぞ」
「んんっ……そ、そうね!あたし聖女になって髪も肌も綺麗になったからね!そりゃあ誰しもが見惚れる美しさを……」
「クレアは聖女になる前から綺麗だったよ。聖女になる前の病弱なクレアがベッドの上から外を眺めている横顔なんか何度息を飲んだ事か……」
「わー!わー!いいのその時を思い出さなくても!ていうか恥ずかしい台詞を言うな!」
「いや、こういうのはちゃんと伝えた方がいいと思ってな……クレアの綺麗なところを1から100まで言っておかないと」
「言うな!あんたワザとやってるでしょ!」
「そんなバカな」
「顔をにやつかせながら言ってるんじゃないわよ!」
「ハハッすまんすまん」
ふと会話が途切れ何か話そうかと考えた時、ふと袖を引っ張られる感覚があった。
「ねえ、あたしって本当に綺麗?」
なんか口が裂けてる女が言いそうなセリフだな。
「あぁ、綺麗だぞ」
「……ふふ。あと、あたしってパーティに役に立ってるかな?」
「そりゃあもうメチャクチャ役にたってるし、なんだったらクレアがいなかったらあの海で全員死んでたよ」
俺も腕が何回も吹っ飛んでいるし、クー助がタコ野郎の光線を食べているときに癒してなければどうなっていたかわからない。
「じゃあ……ご褒美、欲しいんだけど」
「俺に出来ることがあればなんでも」
「……キス、して」
「……もう一回言ってもらっっても?」
もしかしたら聞き間違いかもしれないし
「あたし、あんたとキスがしたいのよ」
聞き間違いじゃなかった。
だくだく