102 レクリエーション
ソフトクリームの日なので初投稿です
装備を新しくしてから数日後、俺達は風切りの洞穴に向かうための乗合馬車に揺られていた。馬車の中は歴戦の強者をそのまま形にしたような男から金髪イケメンの若者まで色とりどりだ。
「ふむ、竜種の迷宮だけあって手練ればかりだな」
「あんた見ただけで分かるの?」
「雰囲気だけで言ってる」
思いっきり肩を叩かれた、痛いじゃないか。
「言ってることは間違ってはいないよ。これから挑むのは迷宮の中でも特級だからね、、挑めるのも上級ランクの冒険者でも一握りさ」
「特級?上位じゃないのか」
「七竜の迷宮はその難易度や特異性から特級クラスに分類されているのさ、赤竜の『不死の火山』、青竜の『海上神殿』に黄竜の『水晶の森』、そして緑竜の『風切りの洞穴』この四つの迷宮を称して四大迷宮とも言われているんだ」
「残りの竜種はどうしてるんだ?あと2匹いるだろ」
魔素の竜種は置いといて、色で言うなら白と黒か。クー助はどれなんだろうか。
「白竜と黒竜だね、白竜は教国にいるよ」
「へえ、教国のどの辺りなんだ」
「だから教国にいるんだ」
「どういう事?」
「そのままの意味さ、教国の首都『白亜の城』はその全てが白竜の迷宮なんだ。教徒の人達は迷宮ではなく聖地と呼んでいるらしいけどね」
街そのものが迷宮かあ、魔物はどうしているんだろうか。
「あとは黒竜の方だけど魔界にあると言われているね」
「魔界?それってどこにあるの?」
「ほら、あっちに山脈が見えるだろう」
「あぁ、あの雪山」
東の方角に見える連峰だ、北から南に向かって伸びていて、他の山よりも倍近い大きさに見える。
「あれが断絶の山脈と呼ばれている十二の山、オリュンポス山脈さ」
オリュンポス、ギリシャ神話に出てくる神々が住む山の名前だ……山であって山脈では無かった気がする。
しかし魔界かあ、気になる。今まで人の形をした魔物に出会ってはいないので居ないと思っていたが、もしかしたら魔界にいるのかもしれない。
「オイオイ、いつからここはピクニック行きの馬車になったんだ?」
「おい、やめとけよ……」
「今から行くのはあの緑竜の迷宮だぜ、こんな中級になりたての様なガキどもを連れていかなきゃ行けないなんてそろそろイースガルドの冒険者ギルドもおしまいだな」
向かいの席から傷跡だらけの男が大声でこっちに向かって喋る。隣に座っている線の細いが諌めるも言うのをやめない。
「ガキは大人しく薬草でも集めてな」
「何よあんたら……!」
「クレアストップ」
「あんたも、こんな奴らいい様に言われてなんとも思わないの!?」
クレアの言いたいことも分かる。だからといって無駄な争いはしたくない、見た目で言えばこっちは少年少女の集団だ。下級クラスの冒険者を見れば何処にでもいる。
「こんな奴らだからこそ言い争ってもこっちの格が落ちるだけだ」
「なんだと小僧!」
この世界は舐められたら負けだ、なので売られた以上買って叩き返すのが流儀だ。
「だからやめろって、今回はギルド長も来てるって話だぞ」
「はっ、だからどうしたって言うんだ。先代の孫か知らねえがあんなお飾りに何が出来るんだよ」
「そうだね、君たちの喧嘩の審判をすることができるよ」
「ギルド長?!」
「エリちゃん様、なぜ御者台に?」
「経費削減ってやつだよ。何せここまで大きな作戦だからね、少しでも節約しないと皆に払うお金が無くなっちゃう」
御者台から唐突にエリちゃんが入ってくる。
「さて、流石に馬車の中で暴れられたら御者の人にも迷惑がかかるから、決着は迷宮の入り口についてからにしようか」
「分かった」
「いいぜ、可愛がってやるよ」
エリちゃんがこの場を収めてくれたお陰で道中静かになってくれた。夕方になって馬車が停まる、どうやらついたようだ。マッスル氏とエリちゃんが前に出てくる。
「ギルド長からお言葉がある、皆静聴するように」
「やあやあ、よく集まってくれたね。みんなも噂には聞いてると思うけど今各地の竜種の迷宮の魔物が活発になっている。何かの予兆とも言われているけど何もしなければ魔物氾濫が起きてしまうのも事実、皆気を引き締めてほしい。とは言えこの迷宮は貴重な素材が集まる場所でもあるし、存分に素材集めをして欲しい。中級冒険者もこの貴重な機会に上級がどういうところなのか学んでいって欲しい」
冒険者達からまばらな拍手が出る。あの冒険者の言う通りエリちゃんはあまり人望が無いのだろうか。
「それでは今日はここで野営を行う。迷宮攻略は明朝からだ。皆今日はしっかり休んで明日に備えるようにそれでは……」
「あーちょっといい?」
「ギルド長?いかがなさいましたか」
「いやね、今回の迷宮の攻略メンバー、特に上級クラスに不満がある人が居るみたいだから、一度ちゃんと紹介をしておいた方がいいと思ってね」
「そうですか、それでは今回の上級クラスのパーティを紹介していく。まずは我がクラン『鋼の肉体』から……」
マッチョ氏が上級冒険者を紹介していく。俺達に喧嘩を売ってきた連中も紹介された。
「そして最後、つい最近上級クラスになったクラン未所属、パーティ名『迅雷』だ」
「どうも、よろしく」
呼ばれたので返事をすると、周りの冒険者から騒めきが聞こえる。
「はいはい、静かに。彼らは上級クラスになりたてで、その実力を疑問視してる人もいるね。そう言うわけで彼らの実力を知るためにも希望者と代表者同士で試合をしてもらおうと思う。相手は……」
「俺だ、俺がやろう」
手をあげたのは喧嘩を売ってきた傷だらけの男だ。仲間と思われる線の細い男はもはや諦めた顔をしている。
「では対戦相手は『牙折り』のジェシーズに、君達は誰が出る?」
「じゃあ俺が……」
「ご主人様、ここはワタシにお任せください」
「アリス?」
「あの方はご主人様を侮辱しました。それだけじゃなくエリちゃん様、ワタシの友人もです」
なんだかどんどん空気の温度が下がっている気がする。
「ご主人様、ワタシ、初めてです。こんなに気持ちが昂っているなんて。これが怒りなのでしょうか」
「そ、そうか……それじゃあアリスに任せよう。殺さないようにね」
「理解しています。しかし相手は上級クラス、手加減できるか分かりません」
大丈夫かなこれ。
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