101 準備完了
奇跡の人の日なので初投稿です
元の世界においてオリハルコンは古代ギリシャ語で銅の山を意味する言葉だ。実際は青銅とも赤銅といわれ、古代ローマにおいてはハッキリと真鍮の事だと分かっている。
つまり、大昔の人々は銅を使った合金の事をオリハルコンと呼んでいたのだ。
「知識で知っていたとしても、これは……」
「綺麗、です」
「不思議な魅力を感じるね」
淡く光っているようにすら見える光沢に目を奪われてしまう。
「これって伝説とまで言われてる金属なのよね?一体いくらするのかしら」
クレアの俗っぽい言葉で現実に戻る、いかんなこのナイフ見てるだけで時間を溶かしてしまう。
それにここまで綺麗な青白い輝きだと俺としては別の危機を感じてしまうな。チェレンコフ光とか。
「確か聞いた話じゃナイフ1本で中央都市の一等地を10軒買えるらしいが」
「そんなにするの?!」
「レーヴェン国でしか採れないし、国自体も外に流したくないのかありえないほどの関税をかけているらしい。おかげでほぼ独占状態さ」
「アリスはこのナイフいつから持っていたんだ?」
「教会に捨てられていた時にお金と一緒に入っていたとシスターから聞いたことがあります」
確かアリスの出身はイースガルドから更に東に行った大森林の近くと聞いた。そんなところに赤子と一緒に魔金剛のナイフを入れた人物とは何者なのだろうか。レーヴェン以外では滅多に流通していないというし、もしやアリスはレーヴェン貴族の子供なのかもしれない。
そうなればもしレーヴェンの貴族がやってきてアリスを連れて行こうとしたら、それにアリスが同意したのなら俺は……。
「ご主人様、たとえワタシがどのような産まれであったとしても、これからもご主人様の従者でございます」
「……そうだな、アリスがそう決めたのなら、俺は何も言わないよ」
俺の考えが分かるようなタイミングでアリスが意思を俺に伝える。そうだ、いつだってアリスは俺の為に働いてくれる、なら俺はアリスの理想のご主人様になると決めたじゃないか。
「とりあえず、このナイフは今まで通り隠しておいた方がいいかもね」
「自慢して厄介事に巻き込まれたくないものね」
「そうでございますね。どうしてもお金が必要になった時に換金いたしましょう。それまではご主人様が……」
「いや、アリスが持っていてくれ」
「ですが、こんな高価なものを従者であるワタシが……」
「それはアリスの物だ。いくら主従の関係でも従者の物を奪っていい訳じゃないからな。そもそもアリスの武器なんだしアリスが持ってないと意味ないだろ?」
「畏まりました」
納得してくれたのかダミーの刃を魔金剛のナイフにかぶせる。カチッと音が鳴り、元のナイフに戻った。改めて見ても隠しナイフが入っているように見えないな。
「ナイフの件はさておき各々の装備を整えておきたい。という訳であのタコの戦利品から作った装備を武器屋に回収しに行こう」
テンチョーから装備が出来たと連絡が来たので全員で確認しに行く。店に行けば褐色の少女、ヴニュも居た。
「いよう!スーパーウルトラカリバーンの調子はどうだい?」
「今までの中で最高の出来だ。水属性の付加をかけた時なんかは凄まじいの一言だぞ」
「へへっ、そうだろそうだろ!なんてたってこの超鍛冶師ヴニュの現時点最高傑作だからなあ!」
「あぁ、この調子でもう一つの方も頼む」
「応よ!お前さんが素材を持ってくればいつでも作ってやるからな!」
「ありがとう……テンチョー、実際ヴニュの腕前ってどうなんです?」
「親父の鍛冶を見て技術を盗んだと言っていただけあって呑み込みが早いな、鍛冶職人の連中が知らねえ技も知っていて今この街の武具の性能は格段に向上しているぜ」
それってヴニュの家が培ってきた技術だったりしないのだろうか。心配だがこの街の鍛冶職人の腕が上がれば武器防具も高性能な物が出来上がる。
「そうそう、お前さんが持ってきたあの素材で防具も作ったんだ」
「防具も?」
「あぁ、剣の素材に使いはしたが皮だからな、防具に使った方がいいんじゃないかと思って知り合いの革職人に頼んだんだ」
「そこまでするなんてテンチョー顔が広いな」
「なんてったって、ここは来れば装備すべてが揃うと言われてるギルド公認店『モノノフ』その主人だぜ。そんじょそこらの店とはココが違うのよ」
腕を叩くテンチョー、そのジェスチャーはこっちでもやるんだな。丁稚らしき小坊主が色々持ってくる。革製の盾に胸当て、ベストにローブと様々だ。
「こんなにも?」
「あぁ、大分古い皮だったが水に付けたら倍以上に膨れ上がってな。そこから鞣したらいろんな革ができたもんで革職人が張り切ってこうなっちまった」
革の盾を持ってみる、魔鉄製の枠組みに腕に取り付ける用の取っ手と補強するための骨組みが数本しかない。
「こんなのでちゃんと防げるのか?」
「それは革の外側で作ったヤツだ、そんな見た目だが魔鉄製より硬いぞ。胸当ても同様だ」
「ではこちらのベストとローブは?」
「その2つは革の内側だ。柔軟性が段違いで職人たちが四苦八苦して加工した一品だ。ちょっと見てな」
そう言うとベストを床に置いてその上に回復薬のガラス瓶を叩きつけた。
「うおっ……割れてない?」
「とまあこんな感じでどんな打撃も吸収しちまうんだ、お前さんが前にお嬢ちゃんに買った魔法の施した修道服より防御力あるぜ」
「そいつは凄いな……全部でいくらだ?」
「これくらいだ」
提示された金額は一般的な革装備よりも安かった。
「金額の桁間違えてないか?」
「それであってるんだ。実は革職人の連中があの革を寄越せと五月蝿くてな。普通は余った素材は提供者に返すんだが連中ゴネにゴネまくって、とりあえず提供者に確認とる事で手を打ったんだ」
「なるほど、それでその革装備をただ同然で押し付けられたんだね」
「嬢ちゃんの言う通りだ」
ソフィーの言葉に同意するテンチョー。防具の性能を聞く限りだと魔鉄装備以上の金額を請求されてもおかしくない、よほどあの皮に興味があるのか。
「いいぜ、あの皮は職人に提供しよう」
「良いのか?ギルドに持って行けばこの装備を買ったって余るぐらいの金が手に入るぞ?」
「でも、テンチョーが職人達の要求を突っぱねずに俺に聞いてきたって事はそれが利益につながると思ったからだろ?」
「そりゃあ、でもそれは俺の利益だ。お前さん達からすれば……」
「ならそれでいいよ。テンチョーにはお世話になっているし。職人達に恩を売っておけば今後何か無茶振りしやすくなるしな」
「……全く、分かった!職人共にはお前さんの恩をふっかけておくぜ!」
「頼んだぜ……じゃあ行くか、次の行く場所は竜種の迷宮、風切りの大空洞だ!」
新しい装備を身に纏った俺たちは店を後にした。
キャンプファイアー(アーカイブ)