帰郷
私達の故郷は、日に日に鮮やかになっていった。
でも、彼女はよく言った。
「席は一つだけ、私だけなんだから、貴女じゃないのよ」
彼女はもう、昔の様な人じゃなかった。
私は、そうねとしか言えなかった。
彼女は、才能があって、美しく、優しかった。
私は、何も言えなかった。
そして、選別の日は突然に来た。
いつものように二人で学校から帰ってくる途中だった。見た事も無いような美しい人が立っていた。驚くべきことに、彼女には立派な純白の翼があった。
豊かな紺の髪、白いワンピース。彼女は、こちらを見て微笑んで近付いてきた。
「あら…随分とこちらの毒の様な空気をお召しになったのですね…」
鈴の様な声。「神様」なのだ、そう悟るのに時間はかからなかった。
その瞬間、私は突き飛ばされた。
「私!!私なのよ!!わかる?!待ってたの!!さぁ、故郷へ連れてって!!」
彼女だった。彼女は必死に彼女に訴える。髪を振り乱し、目を見開いていた。
しかし、彼女は微笑んだまま首を傾げた。
「あら?見えるの…あぁ、貴女も元々はこちらだったのね…でも駄目ねぇ」
そう、やはり微笑んだまま呟いた。
「…え?」
「均衡を保つ為、消さなくちゃ」
そう言って戸惑う彼女に指を指す。
彼女は、消えた。
崩れ落ちる私を尻目に、やはり彼女は微笑んでいた。
「とんだハプニング?があったけれど…さぁ、帰りましょう。私の子よ」
呆然とする私を抱き抱えて微笑む彼女。
そして、私も微笑んだ。
わかっていた。
彼女は、違うと。
元々は、こちらだったけど、彼女は汚れ過ぎた。
その証拠に…天使を、突き飛ばすなんて。
私は羽を伸ばした。
もうここには、用はない。