第70話 天使
あの町を出て2日目の昼下がりだった。
「サキ!後ろに!」
「すまない!」
その者の毒を帯びたブレスが俺達を襲う。それはアイによって防がれたが、互いに満身創痍である。
アイに守られながら口上を唱え、ジルコートを召喚した。
「アイは一旦下がってくれ。体勢を立て直すぞ」
「うん!」
「紫毒ね」
「ああ。あの竜、突如襲って来やがった」
「厄介な者に目をつけられたわね」
「ただ街道を歩いてただけなんだが。それに紫毒竜なんて初めて見たぞ」
俺達は空から降り注いで来た紫毒竜に襲われていた。
上級竜と聞いていたので、言葉も通じるだろうと投げ掛けたが応じるつもりはないようだ。
「ジル、相手は任せたぞ!俺も援護する」
「ええ。よろしくね、マスター」
ジルは舞い上がった。それに釣られるように紫毒竜も高度を上げた。
二体の竜が上空でブレスを吐きあっている。両者はそれをかわしながら距離を詰め、爪による攻撃へと移行した。
鏡のような同じモーションで同じ攻撃をしている。まるでジルコートに合わせているかのようだ。
「サキ」
「息は整ったか?」
「うん。私もノワを喚ぶね」
「頼んだ。此処からじゃ銃も当てられない」
アイはノワルヴァーデを喚び出し、加勢に行かせた。
二体を相手どっている紫毒竜は余裕が無くなったのか、先程とは動きが変わり中距離での攻撃を主としていた。
しかし隙を突かれ、ジルコートの球体のブレスが直撃し、怯んだところをノワルヴァーデによって叩き落とされた。
その途中姿を消した。
「何処行ったの?あの光りってまさか」
「ああ。召喚獣だったようだ」
『主、何か来る』
「マスター、下がって」
俺達の前へ二体が降りてきた。
二体が見上げていた先の空から突然、一人の黒い翼を持った男が現れた。
『噂以上の実力ですね。私のアレスを退けるとは、何とも頼もしい』
「天使」
「え?ジル、天使って翼が白いんじゃないの?」
『主、それは何百年も前の話』
「そーなの?」
「俺も初めて見たからわからん」
『挨拶がまだでしたね。私はアドラメレクと申します。お見知り置きを』
[紫毒竜]
アレスドラゴン。
上級種で毒竜の中でも3本の指に入る実力をもっている。
一般的な竜種と同じ形状。カスミ色の鱗をもち、ブレスによる緑の炎は毒を帯びており、燃やすだけだはなく腐蝕もさせる。




