第292話 召喚師
最終話となります。
新世界竜のブレス攻撃に対してジルコートは防御魔法では砕かれると感じて回避に専念していると、懐かしい気配を察知してふと振り返った。
「霧…」
『その魂を託し、その者の命を返り咲かせるか、この危機を脱するか、如何様にする?』
現れた里霧竜は俺の魂と引き換えに二つの選択肢を与えてくる。
その一つはアイの蘇生を行えるというものだ。
「アイを、世界を救えるのか?琥珀竜に敗けたお前が?」
『真の名を解き放てばの話、それには竜の魂が必要なのだ。だが二つに一つ、その者か世界か、私にはどちらかしか出来ない』
「アイか、世界か…」
アイのいない世界など救う必要がないと思った。
しかし、それはアイの、何より自分の本心ではないのだろう、再び口を開いた時には。
「己の命などどうでも良い。どんな犠牲を払おうとも彼奴等を、悪魔を滅ぼす為なら!くれてやる!世界を、魂を託すぞ!里霧竜!!」
『良く言った』
世界を選択した俺の身体は内側から青い光りを発し、心地良い暖かさに包まれていく。
「ダメ!サキさん!!」
「師匠!!」
「マスター!!私を、私を置いていくのですか!?」
「すまんなジャンヌ。アーシェ、ギアス、俺の相棒達を頼む。後は任せたぞ」
「「サキさん!!!」」「マスタァァー!!!」
アーシェ達の叫ぶ声が遠ざかって行き、俺の意識は途絶えた。
(里霧竜。ジルに、今まで有難うと伝えてくれ)
『承知した』
竜 の魂を肉体ごと取り込んだ里霧竜は咆哮を上げて空高くへと舞い上がると、その身を破って広大に広がる白き霞へと変わり真の姿を現す。
新世界竜によって地上へ叩きつけられて朦朧とするジルコートは首を上げて里霧竜の解放された姿を見る。
「…霧からマスターの鼓動が」
『銀竜、伝言がある。「今まで有難う」と』
「マスター…貴方は、何を勝手に…」
『あの者から託された地上の運命、私に委ねてくれ』
「霧…」
里霧竜改め 理竜は新世界竜と対峙する。
新世界竜のブレスが理竜を襲うも、実態の無い理竜には通用するはずもなく、ブレスはすり抜けて反撃の最上級水魔法を受けて怯む新世界竜。
続けざまに理竜のブレスが放たれて回避しようとする新世界竜だが拡散したブレスに為す術なく1発、2発と背に喰らい「ガァァァッ!!」と叫びながら振り向くと、最上級光魔法を放った。
『ッ!流石は神竜、だがしかし』
光魔法が直撃した理竜はブレスと違ってダメージを受けたようだが、新世界竜渾身の魔法に見えた魔法でも深傷には至らずに、最上級氷魔法を返しに放つ。
『終焉まで凍っていると良い。 絶対零度』
凍てついた空気が周囲を包み、アーシェ達の吐く息が白くなる。
新世界竜は吹きさす風に身が削れ、その巨躯は氷の結晶となり空へ舞っていく。
「終わりました…」
セシルの一言で二竜の戦闘を見ていたジャンヌは剣を降ろし、アーシェは膝を付いてアイの亡骸を抱え涙を流し。
「やったわよ。アイさん、サキさん。此方側の勝利だわ」
その横に立っていたギアスもまたうつ向きながら肩を震わせていた。
『そんな…バカな……』
『シャングリラまでもが』
『本当に、ホントーっに面白くない!!邪魔ばっかしてくれちゃってさー!!』
高みの見物をしていたヨフィエルとカマエルは怒りに震える。
『時間がない。約束を果たすためにその命もらい受ける』
その二人を見上げて理竜は言い放つと、再び水魔法を繰り出す。
『カマエル!』
『リリス頼む』
「はーい。盾になりなさいアダム」
二人の悪魔の前に立ったアダムと呼ばれる竜は、理竜の魔法によって沈んだのだが二人もとい三人は無傷であった。
『邪魔するのか、現天使リリス』
「ナトゥーラもお人好しね。そんな連中守ってどうするの?」
『それは此方の台詞だ。何故悪魔の肩を持つ』
「利害が一致したのよ。それだけのこと」
『サタンを裏切るのか?』
「あら、アタシだけじゃなくてよ。ね、エーイリー」
「おうよ。あの二人に挨拶したかったが、死んでしまったか」
『エーイリー、お主までもか』
「ナトゥーラよ、王はこの事に関与してないからな。念のために言っておく」
『独断と言うことか』
「そうよー、もう限界の近いアナタにアタシ達四人の相手は務まるのかしらね」
「来い、ケツァルコアトル」
『たぎってきた笑これなら勝てる』
『油断するな』
『わかってるってー。行くよ!』
エーイリーが召喚したケツァルコアトルを含めて5対1の理竜。
実態の無い理竜の身体が徐々に小さくなっていき、更に薄く透き通ってきておりリリスの言う時間がないとは消えかかってるとのことなのだろう。
「いけない!」と身を起こそうとするジルコートだったが。
『この身尽きようとも果たしてみせよう。さらばだ、地上の勇者達よ』
迫り来る五体に対し、広大な翼を織り成して天使達を包みこむ理竜。
『な、なにこれー!!?』
『ッ!』
「う、動けない!エーイリー!」
「くッ!!何を」
『守りぬいたぞ、召喚士よ』
自身と共に五体を凍りつかせて全てを終わらした理竜だったのだが、エーイリーは最後の最後でかつて人間が造り出した人造体を呼び出した。
「ただでは…やらせん…その努力無駄にしてやろ…う」
歯車が稼働する翼、作られた微笑みを浮かべる顔の機械天使が空を埋め尽くす。
その光景に誰しもが終わりを悟って武器を握る手に力が入らずカシャンカシャンと地面に落とし立ち尽くす者が殆どであった。
そんな中、遅れてやってきた一人の男が声を張った。
「まだ希望はある!!皆さん!諦めてはダメだ!」
双槍を持つ金皇竜の相方イルレア、先の戦闘で金皇竜が敗れた為歩いてここまでやってきたのだ。
「僕には切り札がある!それには皆さんの力が必要だ!召喚士の皆さん!どうか、僕に力を貸して下さい!」
イルレアは連合軍に向かって頭を下げた。
ざわつく中、それを聞いていたセシル、アーシェ、ギアスが名乗りを上げると、釣られたように俺も私もとイルレアの元へ集まっていく。
「貴方に残りの力を与えるかわりに、打破しないと許さないわよ」
目を赤くしたアーシェはイルレアを睨むように言った。
対してイルレアは頷いてみせ、両手を差し出すと。
「ありがとう。勝つのは僕達だ」
差し出された両手に召喚士達は手を置いて残った僅かな希望を託した。
「ジャンヌ、双子達、時間を稼ぎましょう」
「ジル…」
「なに?」
「ううん、御意!」
イルレアが口上を唱えてる間、ジルコート達は無数に飛ぶ機械天使の進行を食い止めるべく最後の力を振るった。
『人類の希望と科学の結晶が交わりし時 世界を護る砦が築かれ巨悪に太刀打つ者に力を 悪には無限の砲撃を与えよ 我を糧とし顕れよ 難攻不落の機動要塞 バルデ・N・ヴァードフース 』
足許に広がるとてつもなくデカイ魔法陣から街をすり抜け連合軍達を乗せて空へ上がっていく要塞、全方には数え切れない程の大砲や機銃が備え付けられており、それらは全て自動で機械天使に照準を合わせ銃撃を開始した。
気を失ったイルレア、アーシェ達召喚士が目覚めた時には全てが終わり、喜びの中で失われていった者達を想い複雑な感情を抱いた。
魔天戦争と呼ばれたこの戦で特に秀でた召喚士の中からアーシェとセシルが選ばれて故人であるサキを含め三人は師の称号を与えられ、歴史に名を残すこととなる。
イルレアはギルドに未介入だった為、師どころか召喚士ですらなかったがその名を知らない者がいないほど有名となった。
魔界では新たにバエルが王の座に付き悪魔達を統率して再建がなされ、天界では先の戦争で悪魔に加担した者達を出してしまった責任からサタンは王の座をバチカルへ譲り隠居する事を全総界に知らせ、ちゃっかり還ってきたタルタロスとハーデスは盃を交わしながら一時の平和を楽しんだという。
「ジル、ジャンヌ、ふつつか者だけど宜しくね」
「マスターの、いえ、サキの仲間なら何処までもお供するわ」
「私もです。愛するマスターを守りきれなかった分、アーシェさんを必ずやお守りしてみせます」
「フフ、泣きながら言われてもね。これからどうしようかしら。取り合えず東に行ってみよましょ」
「了解」「御意」
平和が訪れた地上では冒険者の仕事が雑用ばかりとなり、暇をもて余したアーシェは東にある島国を目指しジルコート達と共に空へ飛び立つ。
(折角助けてあげたのに、バカサキ)
(すまんなアイ、お前がいない世界で生きてもな)
(全く!)
(アイ)
(なに?)
(愛してるよ)
(やっと言ってくれた。こんなにも待たせて酷い人だね)
(すまん)
(アハハ、私もだよ、サキ。大好き)
(何よりも嬉しい言葉だな、有難うアイ)
[理竜]
ナトゥーラドラゴンとも呼ばれる実態なき竜。
ミストドラゴンが失っていた力を一時的に取り戻した事によって現れて神竜を凌駕した。
混沌とは対となる存在で、遥か昔に力の大半を混沌との戦いで失ってしまい、再び力が戻るのは上級種の魂を取り込んだ時だけとなる。
[アダム]
土人竜と呼ばれる神が造った竜としか伝えられていない。
[リリス、エーイリー]
現天使の二人は、サタンが統制する天界に飽きてヨフィエル達と手を組んで地上を引っ掻き回そうなどと暇潰しを考えた。
[カマエル、ヨフィエル]
神殺しと味方殺しと呼ばれる旧天使。
実力は悪魔の中では群を抜いている二人だが、魔界で度が過ぎた悪戯をした為牢獄された。
[ 要塞型全領域航行母艦バルデNヴァードフース]
全長20000メーターにも及ぶ16角形の艦。
現状の出力では成層圏まで上がれないが、宇宙飛行も想定されて設計されているため全領域航行とされている。
武装はガトリング、対空砲、対地ミサイル、魚雷、エネルギー砲等が無数に設置されそれら全てがフルオートで艦の脳が担ってくれ、防御に関しても強固な防壁に加えて実弾、魔法を弾く全面展開式フィールドを貼る事が出来る。
但し、これを喚ぶ為には複数の有力な召喚士が必要である。
最後までお読みいただいてくれた皆様、誠に有難う御座いました。
紹介等の話は更新すると思いますが話はこれで終わりです。
お付き合いいただき本当に有難う御座いました。




