第288話 大御神
アーシェを残してジルコートや残った召喚獣に股がり進行を開始する俺達、そこへギアスもバハムートのルティに乗ってやってきた。
「皆さんご無事で何よりです」
「ギアスも無事だったんだな」
「はい。ルティを温存しておけとのこと指揮者に言われて後方で待機していましたので」
「だから見かけなかったのか。その指揮者は優秀だな」
「アーシェさんやクリスさん達は残してきたんですか?」
「アーシェはな」
「アーシェさんだけ?ほか『察してやれ。この戦、人間には生き残る事の方が苦であろう』
「ルティの言う通りだ。クリスとダールを含む数多くの同胞が死んだよ」
「すみません。もっと深く考えるべきでした」
「いいさ、今はこの下らない戦を早く終わらせる事を考えよう」
「そして生き残ることもね」
「アイさん…分かりました!微力ながらお力になります」
飛翔出来る召喚獣達はもう間もなくケテル率いる悪魔と戦闘可能中域へ突入する。
ケテルの足許で巨人のアルビオンと攻防を繰り広げるズクとタルタロス、その周囲に悪魔と二体の見慣れない召喚獣の姿がある。
「あれはなんだ?」
「ヘカトンケイルかと思われます」
俺と一緒にジルコートに股がっていたジャンヌが教えてくれた。
ヘカトンケイル、百腕巨兵と呼ばれるソイツ等は地上の召喚獣ではないことは一目瞭然だが一体誰が喚び出したのか、タルタロスかと思ったが共闘するようにゴーレムも居ることからあの持ち主なのだろう。
どっちにしろかなりの戦力であることには変わりないので気にしないことにしてケテルと創初竜を見やると、創初竜に睨まれていながら笑みとも取れる余裕の表情を浮かべているケテル。
「あの余裕はなんなんだ。ジル、距離は取っておけよ」
「分かったわ。でもそろそろ降りた方が良いんじゃない?」
「まぁ、俺達が行っても邪魔にしかならなそうだしな」
ケテルへ接近するのは召喚獣に任せて、俺達は城下町の端へと下ろしてもらう。
俺とアイ、ジャンヌ、ギアスを含む三十人と数は乏しいが悪魔相手に無双していた連中ばかりなので心強い。
「西と東の連合も進出してきたか」
「そうみたいだね。これからどうするの?」
「あんなのに人の力が及ぶと思うか?」
「無理だよねぇ」
「なら町中に散らばる悪魔退治に専念しようぜ」
「うん」
「ならば我々も銀翼殿に賛同しましょう」「確かにな。あんな化け物の相手なんか出来ねーからな」「いざというときの為に道は切り開いておくぞ!」
他の連れも同じ考えに至ってくれたようで、俺達は市街地戦の準備に取り掛かる。
その頃アルビオンを相手にするズクとタルタロスは、タルタロスの鎖と呼ばれる奈落王秘蔵の神具でアルビオンの動きを止め、ズクと三体目のヘカトンケイルで打撃を与えてタルタロスの剣がアルビオンの喉元を引き裂いてトドメを刺した。
「良くやったな、ズク、コットス」
「いえ、鎖が無ければこのように行きませんでした」
『そうそう、主が勝機を見出だしてくれたんだぜ』
「照れること言ってくれるな。後はコイツだけだが、何故動かない」
『創初にビビってんじゃねーのか?』
「それにしては笑みを浮かべていますが」
「何か呟いている…召喚口上か!!止めるぞ二人共!」
「『了解!』」
『邪魔はさせない!!エノク!!』
ケテルが唱えているのは正しく召喚口上だった。
それを止めるべくズク、タルタロス、コットスはケテルへ斬りかかろうとすると、メタトロンとエノクそれに覚醒悪魔四体が邪魔に入った。
メタトロン達に阻まれたズク達はケテルに召喚を許してしまい、魔法陣が空を覆うと白金に輝く兜鎧を纏った人間サイズの召喚獣を喚び出した。
それは自在に宙を舞い、腰から引き抜いた金色に光る拵えを構えて創初竜へ飛び込んでいく。
ケテルの喚んだ召喚獣に対して覚醒悪魔と剣を交えていたタルタロスは驚く。
「天照 だと!?何故軍神がケテルに付いている!?」
『ンフフフ、奈落の王ともあろうお方が知らぬとは、もっと外へ目を向けるべきだったな』
「ふん!今更だな!どう足掻こうがお前達魔界に地上は落とせんぞ」
『虚勢を張るのも今のうちだ。例え天照様が墜ちても切り札はある』
「ジョーカーを切る前にケテルを斬れば良いだけだ」
『やれるものならやってみるがよい』
「上等だ」
タルタロスは覚醒悪魔の懐に飛び込んで肩で体当たりをかまして怯んだ所に胸元へ剣を突き立て息の根を止めた。
次に相手するのはメタトロンの召喚獣エノク、ソイツはタルタロスが戦闘を終えるのを待っていたのだろう、空中から即座に光りの魔法弾を浴びせてタルタロスをケテルの下から追いやっていく。
その間にも天照と創初竜は剣とブレス、魔法を打ち合ってた。
「名無 が今更口出しなどどう言うことか?」
『呼ばれたから来ただけの事。それを言うならお主こそ何ゆえ愚王の味方をする』
「知れたこと。与えた恩恵を忘れた人間に畏怖を与える為、手を貸しているだけだ」
『小さい、小さいぞ天照よ。それでも神と崇められる存在か』
「黙れ!貴殿には解らんだろう。全てから忘れ去られた苦しみが解るはずがない」
先程にも増した天照の力は、体格差を物ともせずに創初竜を圧していく。
『グッ!!民を見守るのが役目であろうに。何も望むな、何も与えるな、そして何も残すな、お主達の親が教えたことだろう。それを「黙れ黙れ黙れ!!名無しが!これ以上親父の台詞を喋るなぁーーー!!」
キレた天照は自身のスピードを活かして創初竜を翻弄して各部に刀傷を与えて行き、創初竜の爪撃をかわした瞬間、延びきった右腕に刀身を当てて切り落とした。
右腕を失った創初竜だが、気にも止めずに天照の背後からブレスを吹くも、ブレスごと頭部を斬り裂いて逆に背後に憑かれてしまう。
「たかだか一体の竜が神に勝てると思うな。分を弁えろ!!」
天照は創初竜の背後から心臓を貫いて胸部から出ると、仕留めたことを確認しようと血塗れとなった姿で振り返った。
「なん…だと…」
心臓を失いながらも振るった左腕の爪は天照を切り裂き、双方の命が尽きたことが竜達の感知によって知らされた。
『愚王は、任すぞ…』
最後の言葉は俺達に送られ、創初竜はみるみる小さくなり最後は一粒の種となって姿を消した。
[天照大軍神]
アマテラスオオミカミは極東に伝えられる戦神。
その姿は人と変わらないという。
兜で見えにくいが素顔は女性であり、女性からしてもケチの付けようがない美貌をもっているが、性格は難あり。




