第285話 アルカンシエル
「ケテル、まるで赤子いや、地蔵じゃないか」
城のある王都まではかなりの距離があるのだがここからでもハッキリと分かる巨大さ、その姿は故郷の地蔵菩薩を彷彿とさせる。
「悪魔王ケテル…あんなに大きいなんて異常です。それに多様な魔力を感じます」
「色々取り込んでるって話だったな」
「そのようで。マスター!あれを」
「ん?何か喚び出そうとしているのか」
空に魔法陣が浮かび上がると、そこから一体の竜が地上へ降り立つ。いや、一体と言って良いのかどうか、むしろ竜と呼んで良いのか分からない姿。
かつて倒した悪魔達の召喚獣が入り交じった十もの首を持つ巨躯の魔物がケテルと並び立った。
「アルカンシエル」
「なんだジャンヌ、そのなんとかシエルって」
「融合竜の総称です。生命の理に反した魔物とも生物とも言えぬ悪魔によって産み出された産物ですが…それ故に力は未知数なのです」
「キメラみたいなモノか、ジル達に倒せそうか?」
「それはなんとも…」
「サキ!」
俺達の元へアイとアーシェが駆け寄ってきた。
「やろうよ。クリスの仇、討とう」
「そうだな、ここで話してても埒があかん。アイ、ブランを」
「わかった!」
「サキさん、私も」
「頼む!」
俺はバルディエル、アイはブラン、アーシェはアルバスを召喚して続けてカルテスを喚び出して準備を整えると、ジルコートへ念話を送る。
『ジル、増援を送った。あのキメラ、任せたぞ』
『やれるだけのことはやってみるわ』
『気を付けてな』
『ええ、マスターも』
ジルコート、バルディエル、ノワルヴァーデ、ブラン、カルテス、ニエーバ、アルバス、エリュテイアがアルカンシエルへ向けて飛び立つ。
既にソイツに目をつけていたロイとセシルは揚陸艦と精霊王クラルハイトを向かわせていた。
「一先ず俺達はこの雑魚共を片付けるか。手傷は負うなよ」
「御意!」「うん!」
「堕落王め、アルカンシエルたぁやってくれるな」
「あら、赤は怖じ気づいたのかしら?」
『怖いの?』
「銀も黒もうるせぇー!人使いが荒いことに嘆いてるだけだ」
「仕方ありません。根源はあのケテルですから」
「それは分かってるんだけどよぉ、白」
『おい、無駄口を叩いていて良いのか?見ろ。艦が撃沈されたぞ』
アルバスが言う方を見ると、ロイが召喚した強襲揚陸艦キア・リシャールはアルカンシエルのブレスを浴びて燃え行く最中だった。
先行していたキア・リシャールはアンチマジック爆雷を前面に射出していたが、放たれたたったの一撃のブレスによって轟沈されてしまったのだ。
キア・リシャールに続いていた精霊王クラルハイトもそれを目の当たりにして自らの配下である各帝を喚び出し、アルカンシエルの注意を引き付けている間に魔法を撃ち込もうと試みていると、ケテルの周囲を飛んでいた覚醒済みの上級種によって6人の帝は足止めを喰らう羽目になってしまう。
そしてクラルハイトにも一体の悪魔が接近し槍を突き立て、それを右手で貼った防御魔法で防ぐ。
『精霊王、貴方まで邪魔伊達するか』
『ガブリエル…いや、メタトロンか。我は 戦友 の頼みを聞いているだけだ』
『よく見破ったな』
子供の容姿をしたガブリエルから本来の女型であるメタトロンの姿へと戻った。
『貴方に頼み事が出来る程の者なのか』
『それにお主らのいう邪魔者は我々だけではない』
『なに?』
攻防を続けているクラルハイトとメタトロンの横を冥府の竜に乗った男が通りすぎて行く。
「クラルハイト、早く来いよ」
『分かっておる』
『冥庭竜に奈落王、冥界までも敵に回るというのか』
『逆だということが解らぬのか』
『我々は王の意志を尊重するのみ!!まずは精霊王クラルハイト、貴方を排除する』
『一天使、いや一悪魔が出来るとでも?』
メタトロンは覚醒態とはいえ自分を打ち負かすなど出来ぬと考えていたクラルハイトだったが、何も相手がメタトロンだけとは限らなかった。
背後から大剣で貫かれたクラルハイトは、その姿を見ようと振り向いた時には己の首は既に地上へと転がっていた。
『…ぬかった…ミトラと契約していたとわな…すまぬ、セシルよ…』
『去らばだ、精霊王よ。もう己を偽るのも頃合いだ。ミトラよ、此方に迫る竜達の相手を任せる』
『了解した』
ミトラと呼ばれた巨神の召喚獣は、メタトロンの命を受けてジルコート達の前に立ち塞がった。
[融合竜]
総称してアルカンシエルと呼ばれる造られた魔物。
魔王ケテルが喚んだアルカンシエルは、かつて悪魔達が契約していた召喚獣が入り交じった姿をしており、ヤマタノリュウ程の全長を誇る。
その力は大竜を超えている可能性が高い。
[ミトラ・マズダーラ]
闇を打ち消す光の軍神とも呼ばれていた巨神族。
今や光の敵となり、聖剣もかつての面影を無くし魔剣へと成り果てた。




