第281話 狂戦士と聖戦士
ブレスを吐き終わったエデンの次なる攻撃は光魔法による無数の玉、それを回避していく 石榴竜からは余裕すら感じあっという間に上を取ってしまい、 反撃のブレスを後頭部へとぶつけた。
「効いたのか!?」
体躯差が何十倍もあるにも拘わらず石榴竜の攻撃に怯む様子を見せたエデンに、石榴竜は更に連続攻撃を繰り出してダメージを積もらせていく。
『さぁ、刻んでこい』
『『若者よ、今呼び覚まそう。竜の魂を。身を委ねよ狂戦士へ』』
「狂戦士…」
バイデントの言葉が頭へ届けられてから先の記憶は殆んどない。
辛うじて保っていた一欠片の記憶は俺であり俺ではない何かが双魔剣でエデンを翻弄し、翼を切り落とす腕力を有し、更には炎をエンチャントして肉の深くを抉っていき、墜ちていくエデンに対して二又の槍へ姿を換えたバイデントを振るい下ろして首根に突き刺すと、俺の意識は無くなってしまった。
これが狂戦士へ導くバイデントの力、よもや俺では断然有り得なかった攻撃力、俊敏性。
気付いたら返り血を浴び、倒れたエデンの上に立っていた。
後にロイから聞いた話だが、落下したエデンは力を振り絞るかのように咆哮をあげたが、アイアコスの鉄槌が振り下ろされてトドメを刺したという。
最後に発せられた咆哮は魅了してしまう程美しいモノだったと。
「倒せた…のか?」
『『実に見事。我も暴れられて満足だ、礼を言おう』』
『私は暴れられてないがな。良いところを持っていったアイアコス、赦さんぞ』
『…還るとしよう。仕事が残っている』
「すまない。アンタ達がいなかったらエデンを倒す所か止めることすら出来なかった。ありがとう」
『気にするな。元はと言えば…まぁいいか。では達者でな』
『…』(軽く会釈するアイアコス)
『『またその身を委ねる時が来るやも知れんな。その時まで死ぬでないぞ』』
「ああ、互いにな」
この死体どうするんだよと思っていたらどんどんと液状と化していき、俺は最後の力を振り絞って慌てて駆け出した。
ロイの手を借りてなんとか巻き込まれずに済んだが、エデンの亡骸は湖へと変わった。
「危なかった…助かりました」
「良いってことよ。取り合えずお疲れさん!一段落だな」
「はい…ちょっと休みます」
「警戒は任せてゆっくり寝ていな!」
俺は倒れるように眠りについた。
一方で北側に現れた巨竜[八俣遠呂智]は、金皇竜とケルベロスによって3本の首をもがれていた。
他の召喚獣達は既に倒されたのであろう、その二組しか姿がなかった。
金皇竜クリュスの背に乗る男もまた攻撃に加わり、八俣遠呂智の攻撃に対して金皇竜に的確な指示を出して回避させていき、隙を突いてブレスや魔法攻撃を行う。
『あの人間、なかなかやるな』『負けてはおれん』『一つ手合わせを頼みたいところだ』
「一番右の頭からブレスが来る。避けながら近づいて」
「分かった」
男の指示通りクリュスはブレスを回避しながら右の頭へ接近して死角へと回り込むと、男の持つ槍から一筋の光りが放たれて具現化した光りは刃を形成し、それを振るって1本の首を切り裂いた。
「後4つだよ」
「踏ん張り所だね、クリュス」
『ほう、見事な手腕だ』『はよせんか』『来るぞ!!』
三つ首のケルベロスは、防御に特化した左頭で防御魔法を張りながら右頭で魔法による砲撃を行い、八俣遠呂智を怯ませて中頭の接近特化の斬撃魔法でまた1本、首を落とす。
そして最後の1本となり追い詰められた と思われた八俣遠呂智だが、突如として切り口から新たな首が生えて瞬く間に元通りの八ッ首へと戻ってしまい、それを目の当たりにした金皇竜は動揺してしまった。
いや、それは男もケルベロスも同じであった。
「まさか再生持ちとは…」
「イルレア、どうしよう」
『コケにしおって』『八俣遠呂智め、生意気な』『ならば』『さすれば『『全てを切り離すまでよ』』』
「クリュス、ケルベロスに合わせるよ」
「うん!任せて」
ケルベロスはみるみると大きくなっていき、八俣遠呂智の5分の1程度のサイズだったのが今や半分程の大きさにまでなった。5分の1と言えどかなりの大きさを誇っていたが。
勿論、身体だけではなく魔力も攻撃力も相応に増しており、放った風魔法の刃は八俣遠呂智の首を6本同時に奪ってみせる。
ケルベロスに合わせて金皇竜もブレスを吹きながら接近し、先程と同様に男が1本の首を切り取る…だが残った1本が金皇竜と男目掛けて牙を立てて。
「イルレア!ごめん!」
振り落とされた男は金皇竜の全身が口の中に飲み込まれて血渋きをあげて消失したのが目についてしまう。
「クリュスー!!!」
転移魔法で落下は免れた男だが、相方を失い魔力もこの転移でそこをついて虚無感に襲われる。
『上出来だ』『後はこの通り』『すぐ終わる』
「ケルベロス…」
『休んでいろ』
男の前に出たケルベロスは、再び生え揃った八俣遠呂智の首を二撃で全てを消し飛ばして胴体目掛けて周囲一帯を凍てつかせる氷魔法を浴びせると、氷った首無し竜を爪斬撃にて粉々に砕いたのだった。
『楽しませてもらった』『なかなか『『!!?』』』
勝利したかと思われた時、切り離されて転がっていた8本の頭がケルベロスを襲い最後の悪足掻きを行った。
対応が遅れたケルベロスは力付き、八俣遠呂智と相討ちという形でこの戦闘の幕を下ろした。
『…抜かったな』『油断大敵か』『先に戻るぞ、ズク…タルタロス…』




