第261話 対翡翠竜
悪魔が居なくなったことにより、これまで上位精霊達を薙ぎ払っていたジェイダの思考が徐々に戻ってきていた。
だがその呪縛は完全には解けないようで、近付こうとする者は敵と見なしてしまうようだ。
「クッ!」
『すまない、サキ』
「もうすぐだ、もうすぐでお前を助け出せる」
「ジェイダ、我慢してね」
『その姿、主に見せたかった』
アイの氷魔法が片翼を硬め、ジャンヌがもう片翼を斬り落として飛ぶことを不可能とさせ、上位精霊達は脚を狙って立たせようともしなかった。
「ジェイダ、お前の意思を、気持ちを聞かせてくれ!お前はどうしたいんだ?」
『…』
「俺達と来い!また一緒に旅をしよう!」
『…また一緒に』
「そうよ!ジェイダ、行こう!」
『…そう願う、サキ、アイ。一緒に』
「よく言った!ジャンヌ、手を貸せ!」
「御意!アナタもマスターに愛されてますね。嫉妬してしまいます」
『…』
上位精霊達が押さえつけている間に、俺とジャンヌはジェイダの背中に転移して聖剣を突き刺し、セシルに合図を送る。
「セシル!」
「汝の真の名を解き放ち、在るべき所へ還りなさい。ディ・カース」
セシルの魔法がジェイダを呪縛から解き放とうとしている。
必死に祈りを捧げるセシルに俺達はただ願うことしか出来なかった。
「だ、ダメ…諦めてはなりません」
『もう良い。お主が思っている以上に私の魂は蝕まれている。それに、こんなにも私を思ってくれている者がいるのだ。良き人生だった…』
「ジェイダ!諦めるな!助けると約束したろ!」
「お願い!私達と行くんでしょ!?」
『サキ…アイ…有難う。願うことなら一緒に歩みたかった…だが、もう遅いのだ』
「ジェイダ…」
「アナタは自分勝手です!こんなにもマスターを悲しませて…」
『己の身は己が良く知っている。さぁ、トドメを刺してくれ』
「嫌だ!」
「サキさん、もう、持ちません」
『大丈夫。主の所へ行くだけ、なにも悲しいことはない。煉獄よ、私を送ってくれ』
ジャンヌは今にも泣きそうな顔で俺を見てきた。
アイは既に泣いていたが、俺も目に涙を浮かべているのが良く分かる。
『さぁ私が私であるうちに』
「…分かった。ジャンヌ、嫌な役を頼むが許してくれ…」
「…御意」
額に打ち付けられた聖剣によって、ジェイダは静かに眼を閉じて青い炎に包まれると、その灰は天へと昇っていった。
『有難う…主と共に見守ると約束しよう』
礼を言われる筋合いはない。
師匠と共に虚悪の召喚獣に立ち向かう中、俺達は逃げることしか出来なかったのに。
今になって助けるなんてほざいて結局の所何もしてやれなかったのだ。
礼も謝罪も言うのは俺の方だ。自由にさせてやれずすまないジェイダ、天から行く末を見守っていてくれ。
その後、セシルに謝られたがむしろセシルのお陰でジェイダを救うことが叶ったのだから謝罪されても困ってしまうのでその事を伝えて礼を言った。
彼女曰く、意思を取り戻すことは出来たが悪魔の楔が魂に打ち込まれているせいで契約解除が出来なかったのだとか。
早い段階なら可能性はあったが、ジェイダの場合すでに侵食が進んだ状態だったので魂の淀みを軽減するのが精一杯だったみたいだ。
「気にしないでセシル。ジェイダはちゃんと師匠の所へ還ったよ。ありがとう」
「そうだな。今度は天を二人で旅するだろ」
「はい」
「マスター!アーシェさんどうします?」
どうやらスタミナを使いきったアーシェは気絶しており、ジャンヌに抱き抱えられていた。
少し休もうと提案して木陰に身を下ろして回復を待った。
「ん…」
「気がついた?」
「あ、気を失っていたのね。ごめんなさい」
「いいんだよ。アーシェ凄い頑張ってたもんね」
「そうだぞ。倒れるまで無理するなんて今回だけにしとけよ」
「悪魔を退治したのはアーシェさんですし」
「ありがとう。もう大丈夫よ」
「ほんとに?ゆっくり休めるから無理しなくていいよ」
「ううん、平気。これからどうするのかしら?」
「あの2竜の屍を片付けてから一旦街に戻ろう」
「あんなデカイの燃やすの?」
「それなら任せて下さい。私の浄化魔法で還します」
セシルの魔法でルシフェルとティアマトの亡骸は無に還って行き、復活したとしても二度と過ちを繰り返さないだろうと
セシルは言う。
街に戻る道中、アーシェはジェイダの事を聞いて来なかった。
多分始終を見てから気絶したのだろう、気を使ってくれてその後も何も聞いて来ようとはしなかった。




