第259話 仇の召喚獣と遺言の竜
2竜が倒されたことで姿を消していた悪魔が現れ、屍を見つめて怒りと悲しみが混じったような表情を浮かべていた。
『こんなにも役に立たないなんて、がっかりだよ』
「後はお前だけだぞ」
『そうかな?僕にはまだ召喚獣はいるんだよ』
「やらすかよ!アゲート!」
召喚しようとしていた悪魔に転移魔法で急接近して長剣を振るって捉えたと思ったが、影を切ったように手応えがなかった。
どうやらスキルで残像を残して後方に逃げたようだ。
『君じゃ僕を捕らえられないよ。行きな、フレースヴェルグ』
そう喚び出したのは以前にも戦ったデカブツの召喚獣。ソイツは師匠の仇でもある。
「あれはフレースヴェルグですね…厄介な相手を喚んだものです」
「うん。私達の師匠をやったのもアイツ」
「そんな事があったの」
「性懲りもなくまた現れたな、デカブツ!」
「グォォォッ!!」
『この前は君達にやられたみたいだけどね。今回はそんな力が残ってるかな?』
煽るように尋ねてくる悪魔に、アイとアーシェが1歩前に出て手を取り合い反論するかのように言い放った。
「残念ながら余裕だわ」
「また送ってあげる。二度と現れないように」
『 天駆ける星の導きに全てを捧げます。地を這う者に神の鉄槌を!轟かせ、召喚獣、サテライトシャルウル 』
アイの力を借りてアーシェは衛星兵器シャルウルを喚び、天から一撃の光りをフレースヴェルグ目掛けて降り注ぐと、地中を貫き跡形もなく消し去った。
『前回といい、どんだけ使えないだ!もう怒ったよ。僕を怒らせたこと、後悔させてあげる』
すると、悪魔は姿を消して3つの魔法陣が空に浮かんだ。
2つの魔法陣からは翡翠竜と邪竜神を召喚し、中央に広がった特大の魔法陣からは、古より生きる太古の竜、エンシェントドラゴンを喚び出したのだ。
「ジェイダ…」
『サキ…アイ…』
「今助けるからな、待っててくれ」
『助ける?世迷い言を。小僧、儂が見えぬのか?』
「古竜よ、お前の相手は俺じゃない。アイ!アーシェ!竜の珠を!」
「ええ!」「りょーかい!」
二人はアイテムボックスに手を突っ込んで、ピラミッドで手に入れた竜の珠を放り投げる。
輝く珠から現れたのは空を覆い尽くす程の巨躯と、俺達が焦げそうな熱量をもつ太陽竜、淡い珠からは太陽竜程ではないにしろ、巨大で月光の輝きを放つ夜月竜が姿を表した。
どちらも神話にしか登場しない伝説の竜、それが今俺達の前にいる。
『ほう、古竜に邪竜とは面白い相手だ』
『油断しないでね』
『当たり前だ、月よ。些か退屈していた所だ。全力でやらせてもらう』
『それもダメ。地上に悪影響』
『ぐっ…なら半分だ』
『それならいいわ』
『人間よ。後は任すがよい』
「頼んだぞ。翡翠竜だけは俺達がやる」
太陽竜は古竜に、夜月竜は邪竜神へそれぞれ向かっていく。
俺はジャンヌを喚び、アイもやってきて俺達はジェイダに剣先を向けた。
「さぁ、ジェイダ!俺達が相手だ」
『…』
「私も参加させて貰います。行きなさい精霊達」
「アーシェは休んでてくれ」
「ごめんなさい」
上位精霊とジャンヌの相手をしているジェイダを見ながらどうやったら悪魔との契約を切ることが出来るのか考えていると。
「サキさん。あのネフリティスも奪われた竜なんですよね?」
「ん?ああ。元は師匠の竜だったが」
「それなら私の魔法で解除出来ますよ」
「本当か!?」
「それならセシル、お願い!」
「はい、ただ弱らせなければ効き目がありません」
「それなら任せてくれ、アイ、行くぞ」
「うん!」
俺達もジェイダの元へ駆け寄った。
[古竜]
太古の昔から存在するエンシェントドラゴンと呼ばれる古の竜。
全長は50メーターを超え、豊富な魔力と力で破壊の限りを尽くしていたが、歳をとって疲労が増してきたのか近年では大人しくなっていた。
しかし、悪魔との契約によって若き日のように活力が漲っている。
[太陽竜]
またはソレイユドラゴンと呼ばれた神話でしか見ない伝説の竜。
古竜の倍はあろう巨躯に、全身が橙色に燃え盛って近くにいるだけでも焼けそうなほど熱い。
神話では、邪悪な神と死闘を繰り広げて大地を焼き、邪神を倒すと復活せぬように星の中に亡骸を閉じ込め、永遠に燃える炎でその星を覆ったとされる。これが太陽竜の成した功績と太陽が誕生した物語として受け継がれている。
[夜月竜]
セレーネドラゴン。
太陽竜程ではないが、同じように巨大で月のように淡く輝く身体をしている。
夜月竜も神話でのみ語り継がれ、太陽竜と邪神が戦った星から生命を他の星に逃がしたとされる。
そして太陽を見守るようにと伝え去っていき、太陽を見守るその星を見守る星、今の月を作り出したと物語は語っている。




