第257話 対源海竜
『妖精は謳い 精霊は踊る 地上の民に色無き王の祝福を 悪しき民に鉄槌を下す為 降臨しなさい 精霊王クラルハイト』
「これが精霊王…」
「セシルさんの召喚獣」
「精霊王とはギルドトップは伊達じゃないな」
セシルが喚び出した精霊王クラルハイトは神々しい輝きを纏い、俺達の前に顕現した。
負けてはいられないと俺達は頷き、それぞれ召喚口上を唱え始める。
『大いなる翼が奏でし二重奏と伴に 降臨せよ 白金竜ジルコート!』
『黒き翼を翻し 奏でよ焔の夜想曲 おいで 宵闇竜ノワルヴァーデ!』
『大地を貫く剣となり 空を護る盾となれ 来なさい 羊竜カルテス』
「まだよ」
『青き清浄なる空に羽ばたく蒼天よ 我が元へ来なさい 蒼天竜ニエーバ』
『大火が奏でる破滅の鎮魂歌 水面に響かせ顕れなさい 青竜アルバス』
総勢6体の召喚獣が召喚されると、悪魔は興奮したようにはしゃいでいた。
『精霊王に見たこともないドラゴンが2体、それにブルーにスカイ、珍しいハルーフまで!欲しい!欲しすぎる!』
「圧巻ですが、これでも心許ないですね。クラルハイト、お願いします」
クラルハイトに何かを命じると、驚くことに更に6体の精霊が召喚されたのだ。
光の帝リヒト、炎の帝ジャーマ、水の帝ヴァダー、風の帝ビエント、地の帝テーレ、雷の帝オスカーの最上位精霊が俺達を取り巻く。
まさか召喚獣が召喚出来るとは思ってもみなかったが、これで希望が湧いてきた。
だめ押しにアイが幻想召喚でブランを造り出したが、指輪の影響なのか前よりも輪郭がはっきりとしている。
「ようやくマスターの顔が見れたと思ったのにまた大竜の相手なんて酷い主ね」
「ごめんな、ジル。悪さする奴ばかりでな、掃除しなきゃならんくて」
「フフ、良いわよ。今回はやられる気ないわ」
「頼んだぞ」
始めに仕掛けたのは源海竜ティアマトだった。
放とうとするブレスだけでも身震いするほどおぞましく感じ、それが放たれると人間の正気など一瞬にして狂わせてしまう程の禍々しさだ。
俺達はクラルハイトのお陰で保っていられ、光の帝がスキルでそのブレスをかき消した。
セシル曰く、光の帝は守りに特化しているが攻撃手段は持ち合わせていないのだとか。
その為、光の帝は俺達の護衛に回り、クラルハイト、炎の帝、風の帝でティアマトに挑んでいく。
『ちゃっちゃとやっちゃってよね。僕は精霊王が欲しいんだから』
『…』
『汝、我が欲しいのか』
『もちろん!他のドラゴンも欲しいけど君が一番欲しい!』
『ならば賭けてみよ。その魂を』
炎と風の帝による合わせ技で、ティアマトを炎の渦に閉じ込めると、クラルハイトは天から隕石を降り注いだ。
隕石が落下した衝撃で炎の渦が弱まり徐々に消えて行くと、直撃していたはずのティアマトはほぼ無傷の状態で平然と立っていた。
『流石は精霊王ですね。楽に勝てそうにありません』
『我も舐められたものだな』
『今度は私の番です』
2体の帝による炎と風の攻撃を飛翔して回避すると、炎の帝に急接近して胴体を爪で貫き、そのまま切り裂かれてしまった。
炎の帝は消え行く前に自信の配下である炎系上位精霊イフリートを喚び、力尽きてしまう。
イフリートが突如現れたことで、体勢を整える前に炎攻撃を受け、加えて風の帝の追撃を浴びたティアマトだったが、地面に脚が着くとそれを軸にしてイフリートを尾で薙ぎ払った。
物凄い勢いで飛ばされたしまったが、光の帝が衝撃を緩和してくれたようでイフリートは無事に済んだ。
攻撃後のティアマトの隙を見逃さなかったクラルハイトは、闇以外の全属性が混ざった攻撃をぶつけ、怯んだ所に追い討ちをかけるよう地面から生やした氷柱で腹部から背まで貫いて致命傷を与えたが、自らその氷柱を砕いて反撃を放った。
闇魔法を避けるクラルハイトにブレスが襲いかかり避けきれずに半身を失うも、ティアマトも既に限界が近いようでこの場所にいる全てを巻き込もうと最大級の闇魔法を射とうとしている。
『わ、たしの力は…まだ!リューゲシャローム』
『我が全霊。エターナルフリーデン』
ティアマトは周囲を暗黒に包もうとし、クラルハイトは周囲を輝きに包むと、二つが交わり辺り一面を白一色に変える。
白き世界が晴れた時、ティアマトとクラルハイトは、風の帝とイフリートを巻き込み共に崩れ落ちて行きその戦いは決した。
[精霊王クラルハイト]
全精霊を統べる王。
あまり争いを好まず平和を求めているが、必要に応じて自らもその強大な力を振るう。
光炎風水雷地の帝を従え、更に帝達の配下には上位精霊が控えている。
セシルとはウン百年前に気が合い友と呼ぶ仲になった直後、命の危機がセシルに迫り、助ける為に契約を結んだとのこと。




