第237話 母国
冒険者になると決めてこの国を出て以来初めてだ。
東の島国[ヒノモト]、俺とアイの故郷であると共に、忌まわしい記憶が残っている場所。
「久しぶりだね」
「ああ」
「アナタ達の故郷なのね」
「そうだよ。アーシェは来たことある?」
「ないわ。大陸から船だと時間掛かるし、来る用事もなかったもの」
「だよね、何もない所だから」
俺はブランに無理をお願いして生まれ育った町だった所へ行ってもらった。
今や平地が広がり、かつて町があったとは思えない光景だった。
いや、よく見ると、草に埋もれた墓石がちらほらと見える。どれも苔まみれで朽ちそうになってはいるが。
「これでは可哀想ですね」
それを見たブランが、魔法によるものなのか分からないけど辺り一面生い茂った草と墓石の苔を綺麗に取り除いてくれた。
「ありがとうブラン」
「ありがとう。少しは報われたかもな」
かつての町を後に、大竜と対峙した場所へと移動する。
「湖が出来てる…」
「これも大洪のせいです、主」
結構大きな街が在ったはずなのに、その街は湖と化していた。
端へ降り立った俺達に何処からともなく笑い声が響いてきた。
『アーハハハハハッ!性懲りもなくまた来たのか白竜よ』
「ええ、今度は敗けません」
『あの2体同様、お前も氾濫竜のエサになってもらう。ついでにそこの蒼天竜と人間もな』
この間のとは違う新手の悪魔は笑いながら氾濫竜を召喚する。
その大きさは西竜型なのにニーズヘッグと同等のデカさ有している。
更に驚いたことに、氾濫竜は自分の取り巻きである暗礁竜と呼ばれる者達を十数体喚びだしたのだ。
「大竜1体でも厳しいのに取り巻き付きとはな…」
「サキさん、諦めないで」
「そうよ!アーシェの言う通り、やるだけやろう」
「やってみせるさ。頼む、バルディエル。応えてくれ!」
バルディエルは先の戦闘で維持不可能まで陥られてしまったが、あれから時間が経っているのでその可能性を信じて召喚口上を唱えると、俺の気持ちに応えてくれて喚び出す事が出来た。
いつものパンツァーパックを装備した状態で、身体の半分が水に漬かりながら召喚されると、背部のミサイルを飛んでいるソイツ等に向けて全弾ぶっぱなした。
バルディエルの攻撃で沈んだのはたった2体の暗礁竜だけ。
『その程度か、古の機械も大したことないようだな』
氾濫竜は俺達を見下ろしながら呟いた。
次はこちらの番と言わんばかりに、暗礁竜達を襲いかからして来ると。
『なんだ?』
『どうした?ん?』
悪魔達が見ているのは俺達の後方、何があるんだと振り向くと、そこには6機の機械兵と、山や森の奥でたまに朽ちた姿が見られるファイター何十機にも及ぶ編隊が向かってきたのだ。
「識別コード確認。FPa―4、AcF53共に友軍機であると判明。」
「味方なのか?」
「味方なら希望が湧いたわ。敵なら絶望しかないわね」
「バルディエルが言うことだから間違いないよ」
敵か味方、どちらにしてもこの戦局は大きく変わる。
[FPa―4 ハリアーⅣ]
小隊での作戦行動、艦への搭載を主目に開発された機体であり、全長10メーターと小さめ。
装甲も軽くする為に薄くなっており、その代わりアンチマジックコーティングが施されている。
武装は、エネルギーライフルとシールド、フライトユニットの翼部に装備されたミサイルとシンプルである。
因みに、アルファベットのFは飛行ユニット装備型、Paは量産機の意味。
[AcF―53 ナイトシーカー]
艦上戦闘機として開発されたAcFシリーズで最も汎用性に長けた機体。
特徴がないのが特徴と良くも悪くも言われていた。
武装は、20㎜バルカン砲、空対空ミサイル、空対地ミサイル、各隊の僚機(狭義)にはカートリッジ式ビーム砲が加えられている。
Acはオートコントロール、Fは戦闘機の意味である。




