第232話 対怒業竜
「そろそろ着くぞ」
ムアンは竜の姿へと戻り、俺達を乗せて例の森へ向かっている。
ベナフの親父さんだからてっきり同じ竜胆竜かと思ったが、竜の姿になってビックリ。
紫水竜に似ているが系統としては竜胆である灰簾竜だった。
ベナフが言うには、生まれた時から灰簾だったと聞いたらしい。
「親父ー、ホントに大竜とやり合うのかよ?」
「ああ?このまま放っとく訳にもいかんだろ」
「そーだけどさぁ、アイツ等は神、神って聞く耳もたねーし。それにサキ達が居ても勝てるかどうかわかんねーぞ?」
「それでもだ。奴等は地上全てを無に還そうとするぞ。腹を括れ」
「わかったよ、やるよ。サキ、俺が死んだら骨は拾ってくれな」
「売れるしな。任せとけ」
「酷くね?」
そうこうしていると、目的地の上空へ来たのだが気配を感じないようだ。
木がなぎ倒された所にひとまず降りたってみると、切り株の上に人影があった。いや。
『何用か?』
「悪魔!怒業竜を喚んだのは貴様か!?」
『違うと言えば違う、そうであると言えばそうだな。だとしたらなんだ?』
「討伐させてもらう」
悪魔は俺の問いに答えたが、もどかしい返事をした。
俺はハンドガンを悪魔の額に目掛けて引き金を引いた。
実弾は頭に命中して首を反りかえしたが、何事もなかったように頭を起こした。
続くアイの放った炎魔法は悪魔に纏わりついだが、すぐに吹き飛ばされた。
『落ち着け。お前達の目的はコイツだろ?好きにしろ』
悪魔を中心に魔法陣が描かれると、山と言っていいほどの何かが這い出てくる。
俺達は距離を取り、それぞれ戦闘体勢に入った。
「ベナフ、人化を解け」
「わかったよ」
ムアンに促されて竜の姿へと戻り、二人で上空に上がった。
「二人共、離れてくれ!召喚獣を出すぞ」
俺はベナフ達を後方に行かすと、口上を唱えてティリンス・アクロポリスを喚び出した。
山に向かって降り注ぐ無数の大剣、それに対して上に向かってブレスを放ち、全てを払いのけてしまった。
ブレスを避けたアクロポリスはソレの額に、手にした大剣を叩き込もうとしたのだが、いつの間にか張られた防壁に刃を通すことが出来なかった。
『若造が。ワシとの力量も測れぬとは愚かな』
再び放たれたブレスの直撃を受けてアクロポリスは消えて行く。
「そんな…アクロポリスが通じないなんて」
「怒業竜、噂以上ね」
「アーシェ、頼むぞ」
「ええ。アイさん、手を貸して貰えるかしら?」
「いくらでもどうぞ」
アイと手を繋ぎ、力を借りて衛星兵器であるサテライトシャルウルを喚び、天空からその一撃を放った。
『古の産物など。大地の怒りを受けるが良い。大地の災厄!』
怒業竜の攻撃は、大地を揺らし空高くに幾本もの極太の支柱をそびえ建たせると、シャルウルの光りを防ぎきってしまったのだ。
俺達にも襲いかかってきたが、ベナフとムアンに助けられ、地上を離れた。
「助かったよ。アーシェ、少し休んでろ。アイはまだ行けるか?」
「余裕、アーシェの代わりに働くよ」
「皆、ごめんなさい」
「何言ってんだ!嬢ちゃんが謝る必要ないぜ。後は俺達に任せな」
揺れが収まったのを確認し、俺達を地上へ降ろして2人の竜は挑んで行った。
[灰簾竜]
タンザナイトドラゴンとも呼ばれる竜で、竜胆竜が進化、或いは変異した竜だと云われている。
6メーター程の身体に青紫の宝石のような鱗が特徴。
怒業竜との話、終わらずに申し訳ありません。




