第227話 覗く者
「同胞を手にかけていくのは心苦しいが…余の為、何よりエヘイエー様の、いや、マルクトの為」
その者は口許を吊り上げて笑いを堪えているように見える。
「後3つ…人間達には頑張って貰わなければ」
「王よ。恐れながら申し上げますが、ガブリエルのヤツならまだしも、他の2名を人間が狩れるとは思いません。それにバエル様は未だに賛成しておりませぬ」
近くに控えていた女性がその者の前で跪き、異を唱えた。
すると、目の前の男は笑いながら言い放つ。
「アイツ等は余の忠実な下僕、死ねと言われたら喜んで死ぬだろう。なんなら君が行って始末しても良い」
「ご命令とあらば」
「冗談だ。バエルのことは放っとけばよい」
「しかし、あの勢力は我等にとって危うき存在です。残った真意も解らぬままで…」
「真意などどうでも良い。今の余に勝るとも思えぬ。見よ、同胞を糧に抑えても溢れ出る程の魔力を。もうエヘイエー様のように同じ轍は踏まん」
「今や貴方様は最強で御座います。我が意見を聞いて頂き感謝申しあげます」
女性は立ち上がり一礼すると、その場を後にした。
(嘘までついて同胞の魂を取り込むなど、まるで悪魔その物ではないか!…弟を手にかけた私が言えた義理ではないが)
「今や貴女方も悪魔ですよ」
「!?ダンタリオン殿。勝手に心を読むのは止めて頂きたい」
「これは失礼。癖みたいなモノなのです」
「はぁ。それで何用か?」
「用などありません。通りすがっただけですよ。ただ…」
「ただ?」
「空下に送り出した者の中で数名覚醒しています。このままでは前戦の二の舞になってしまいますよ」
「覚醒?二の舞ってやはり貴方方も敵対するおつもりか!?」
「おっと、口が滑り過ぎてしまいましたね。これは助言ですよ。ワタシはいつでも貴女の味方になりますよ。では」
「待たれよ!っクソ!なんだというのだ!」
男は女性の前から一瞬にして姿を消し、取り残された女性は考え込んだ。
しかし、考えた所で、教えた所で行く末は変わらぬだろうと結論に至り、自分の中でこの話はなかったことにした。
(良い子ではありませんか。やはり馬鹿正直な者は隙が多すぎますね)
『ダンタリオン、何をしている?持ち場へ戻れ』
『はっ!申し訳ありません。只今』
ダンタリオンは何者かに諭され、自分の在るべき場所へと帰って行った。
(楽しくなってきましたね。そろそろ味方殺しと神殺しも目覚める頃。忙しくなりますな)




