第211話 果ての深淵
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「影法師? 笑止!!」
クククッと笑いながらその影は言葉を発した。
「そう呼ばれていた頃もあったが、今の我は影王となったのだ!果てにたどり着き、深淵に触れ、望みの姿へと進化したのだ。
見よ、我の真の姿を」
影王と名乗る黒い影は形を成形していき、巨大な竜へと姿を変えた。
「ドラゴン…ニエーバ、影法師って言ったけど…」
アイはニエーバに尋ねるように呟いた。
『わからない。本当に果てへ行ったのかもしれない…』
[果て]とは死の間際にさ迷い、たどり着くとされる場所である。
その場所は正気を保つことが出来ないと言われており、果てに赴いた者の殆どが狂ったように死んでいくとされるが、その最奥に[深淵]と呼ばれる深く巨大な穴が空いている。深淵に近づくことが出来れば思いの姿へと変わることが出来るのだが、それこそが悪魔の誘いでありたどり着けたとしても悪魔にされてしまうのだ。
この竜のように願いが叶うなど本当の一握りである。
だがそれよりも気になることがある。
俺が口に出そうとしたときアーシェが先に影王へ質問をした。
「兄は?兄はどうしたの?」
「兄とはこの苗床の人間か?」
影王はそう返した。
アーシェは目を細め、拳を握って一つ溜め息をつくと。
「そう。貴方が言う苗床の人間はどうなったのかしら?」
「この人間は我を操れると思っておったようだが、いや、確かに復活を果たした時は力はなかった。しかし、今や十分な力を手に入れた」
影王の口許がニヤリと笑ったように見え、続けざまに。
「人間の癖に我を満足させるほどの魔力を有していたとは。そこの兄妹よ、安心するがいい。この人間の志は我も同じ故、我が味わった苦痛を悪魔共に返すのだ!」
「醜いものね」
『本当』
『同感ね』
竜3人が呟いた。
「醜いだと!?良かろう、貴様ら劣等種から食い殺してやろう!」
影王はジルコート達に牙を向けた。
[影王竜]
アビスドラゴン。
元々は影法師竜と呼ばれる上級種だったが、深淵に触れて進化を果たした。
死の淵から生き返った影王竜はアーシェの兄と契約を交わして魔力と魔素を徐々に取り込んで行き力を蓄えていた。
自由自在に形を変えることが出来、触れたものを胎内へ取り込む。




