第164話 巨大な暴君
翌日、鈍った身体を動かす目的でギルドの討伐依頼を受けた。
山間をうろついている魔物なのでチェドックを預かって索敵してもらう。
「大丈夫?」
「ああ。さすがに戦闘前からはへばらんよ」
「クゥン」
「お、なんだ?」
「ワン!」
「何か見つけたのね」
チェドックの後を追ってしばらく進むと、木を薙ぎ倒すような音が聞こえてきた。まだ距離はあるが、今回の討伐対象に違いないだろう。
一時間ほど歩いただろうか、ようやくその姿を拝むことが出来た。
「対象は一体だけじゃなかったの?」
「よく見ろ。暴れてるヤツ以外はサイクロプスだ」
「ほんとだ。じゃあ行こうか」
「ああ。ほれ、お前さんは此処に居な」
討伐対象はタイラントニックと呼ばれる巨兵タイプで、サイクロプスを配下にしている。亜人であるタイタンと異なり、その暴君を振り撒いている。
「先にサイクロプスをやる。掴まれ」
「りょーかい」
シュヴェーラを喚び出してからアイを掴んで奴等の近くへと転移し、一番近くにいたサイクロプスの眼に狙いを定めて長剣を飛ばした。アイも近くのヤツの眼に雷の矢を数本撃ち込んだ。
俺達は同時に2体のサイクロプスを倒すと、タイラントニックが駆け寄ってきた。
残された2体のサイクロプスから光線が放たれ、アイは盾と防御魔法で、俺は転移で避けつつ1体の真下へと来ると、首許に数本舞わして突き付けた。
更に数を増やすと、重さに耐えられなくなった頭が胴体から千切れ落ちてくる。
タイラントニックはサイクロプスの攻撃を防いでいるアイへと近付いていた。
サイクロプスを倒した俺は、ヤツの頭へと転移し、バスターソードを振りかざすと走りを止めた。
「アイ!サイクロプスは任せたぞ!」
「任しといて!」
流石に一撃では倒れず、俺を振り落とそうと身体を大きく揺すっている。だが、コイツの顔の前へと飛び、舞っている剣7本を顔面へと突き刺した。
それでも倒れず、腕を降り下ろしてきた所を転移で避けて再び目前へ跳ぶと、銃を取り出して大きく開けた口の中に魔力弾を放った。
怯むタイラントニックの頭上に転移して重力と重さを生かしたバスターソードの一撃を与えると、ようやく沈黙した。
そのまま前に倒れていくので、慌ててアイの元へ転移した。
アイはすでにサイクロプスを片付けていた。
「凄い魔力が上がってる」
「ほんと凄かったよ!アーシェのお兄さんみたいにポンポン転移魔法使えるなんて」
「輝竜様々だな。治してくれただけじゃなく、魔力まで上がるなんて」
「これで少しは楽出来るでしょ」
「ああ、馴れればな。数回使うのがやっとだが、まだ魔力が残ってる」
アイに比べてかなり少なかった俺の魔力は今やアイを超えているかもしれない。
魔力はあるが使える魔法の少ない俺に取っては転移に振り割るのが一番だと思った。
討伐依頼の証拠とチェドックを回収して街へと戻った。
[タイラントニック]
巨兵タイプの魔物。大型で、素手による格闘戦を得意とする。
温厚なタイタンと比べると真逆の性格で、何故かいつも怒っている。




