第152話 翼無き者
「どうするの?今から行ってみる?」
「んー。気になると言えば気になるが、胡散臭すぎないか?」
「そりゃーねぇ」
「危険かもしれんが行くか?」
「サキが行くなら付いてくよ」
「なら行こう」
見えていてもこの距離を歩くとなると夜中になってしまう為、ジルコートを喚んで乗せていって貰うことにした。
「と言う訳なんだ。頼めるか?」
「良いわよ。でもあそこから何か感じるって事もないわ」
「どっちにしろ寄るんだから行こう」
「ジル宜しくね」
「ええ。じゃあ掴まっててね」
ジルコートの背に乗り、あっという間に街へ着いたのだが、日が落ちたというのに灯りが一切無かった。それどころか人の気配すらない。もちろん外に居る者も見かけない。
飯屋に入ってみると、テーブルには食べかけの皿、コップが置いてあって悪臭を放っていた。
「なんで誰もいないの?」
「居たのは確かだが。ジル、何か解るか?」
人化して後を付いてきたジルコートは神妙な面持ちで口を開いた。
「昔、グラシャ=ラボラスと呼ばれる悪魔が住民のみを消し去った話を聞いたことがあるわ。天使によって殺されたとも」
「もしかするとソイツが引き起こしたかも知れないのか」
「昔の悪魔ってどっちのこと?」
「翼無き者って聞いたことあるかしら?」
「いや、聞いたことないな」
「私も」
「戦争で勝利した悪魔が天界に行った時、取り残された者も居るの。その者達をそう呼ぶのよ」
「グラシャなんとかもその一体だと?」
「魔界の王も数名は残されたと聞いたわ。バエルと呼ばれる王も残されてその配下であるアスタロトが居てもおかしくないの」
「ん?」
「えーと…アスタロトの配下にはネビロス、その下にグラシャ=ラボラスが居るのよ。もし、今回の事がグラシャ=ラボラスによるモノだったらアスタロトかバエルが絡んでいる事になるわ」
「生粋の悪魔って奴か」
今までも悪魔とは違う悪魔とやり合ったことは何度もあった。魔物でも悪魔でもない者、それが大昔の悪魔だったのだろう。
サンダルフォンと呼ばれた悪魔が喚び出した者もそれに当てはまるだろう。
ジルコートは話を続けた。多分の話だが、天界の者に復讐を遂げようと現悪魔と手を組んでる可能性があると。
「少し違うな」
「誰だ!?」
声のした方に灯りを照らすと、物陰から先程の男が現れた。
「ケテルとは別の勢力と考えてほしい」
「ケテル?」
「魔界の王よ」
「そちらのドラゴンさんは物知りだね」
「その王とは別で動いている連中がいると言うのか?」
「そうだね。ケテルは口減らしを行ってるようだし」
「口減らしだって!?」
「さぁ?悪魔がそう言ってたんだ。それと、ここには何もいないよ。退治したからね」
「退治した?」
「昔の同族を手に掛けるのは忍びなかったが」
「マスター!あれは人じゃない!」
ジルコートが俺達の前に出た。




