第113話 対炎の帝王
そこからおよそ3時間歩いた所に森はあった。
ここには街道も通っておらず人の出入りなんて皆無のようだった。
森を入ってすぐ、二体のトロールと合流 した。
『森の戦士だ。まだ居たのだがな…』
鎧と大剣を装備した大柄な魔物だ。
兜で顔は見えないが、このトロールと同じ面構えだろう。
「この鎧は自分達で作ったのか?大したもんだな」
『人間の見よう見まねだがな』
『我ら一族も見習いたいものだ』
二体を加え、森の奥へと進む。広大な森なのだが、魔物も魔獣の姿もない。
たまに魔蟲の姿を見るくらいだ。
歩いていると辺りが焼け払われ、広場が作り出された所に出た。
相当な面積が焼かれ、端には今も燻っている火がある。
『ここだ。奴等の根城だ』
「竜種なのか?」
『違う。炎の帝王だ』
「帝王か…」
「もしかして」
その時、広場の中心から炎が天高くに上がった。
その炎はうねり、方向を変えて俺達に襲いかかってきた。
トロールは土魔法で壁を作りだし、炎は壁に阻まれ消えていく。
そしてその炎は在るべき姿へと変えていった。
「イフェスティオ」
「やっぱり。ノワもジルもいないのに相手するの?」
「アイは下がってろ」
「私も戦う」
「なら守りを優先してくれ」
「んー、りょーかい」
炎の帝王イフェスティオは人型だがあまりにもデカい。バハムートやバルディエルを超える。
話によると魔法が効かないと聞いている。反則級の召喚獣だ。
「トロール、リザード。俺は召喚獣を喚ぶ。時間稼ぎ頼んだぞ」
『あい分かった』
『出来るだけやろう』
ヤツはあのデカさじゃ喚ぶのは一体しかいない。機械兵バルディエルだ。
喚び出したバルディエルはすぐさま応戦した。
「目標確認。警告。バックウェポンを起動します。パンツァーコアレディ」
背中の箱を前面に出し、数十発の弾を発射した。
イフェスティオは爆風に飲み込まれる。
「敵機生存を確認。損傷率12%。作戦を変更します」
そうしてライフルを構え、ぶっぱなした。しかし、その弾道を避けて距離を詰めてくる。
バルディエルはライフルを捨て、腰部から光る剣を引き抜いた。
「目標接近。白兵モードに移行します。プラズマソードスタンバイ」
バルディエルは接近するイフェスティオに斬り掛かった。
ヤツも何処からか炎を纏った長剣を出し、刃先をぶつけ合う。火の粉が此方にも襲ってくる。
何度かの攻防で降り下ろされた剣によりついにバルディエルは左肩を斬り落とされた。
だがイフェスティオの腹部にも刃を突き刺した。しかしその腕は掴まれてしまう。
逆に腹部目掛けて剣を突かれそうになったとき。
「ライトアームパージ。スラスター始動」
掴まれた右腕を自ら取り外し、後方へと飛んだ。
「バックウェポン装填完了。パンツァーコアレディ」
再び弾を射ち出した。全弾命中するも、爆炎から飛び出してきたイフェスティオはすれ違い様、バルディエルを斬りつけた。
関節以外の装甲は硬く、深くまでは刃が通らなかったようだが。
「敵機損傷率51%。自機損傷率60%を超えました。自己修復機能の発動を許可願います」
「任せる。だがヤツはその間にも」
『我らに任せよ』
トロール達が前に出て、土魔法で壁を作り始めた。その壁に囲まれたバルディエルは修復作業へと移行した。
だが、囲まれはしたが上ががら空きでそこ目掛けて炎が舞い踊っていった。
逆に仇となってしまった。損傷率はどんどん増していく。
「良くやったな。ゆっくり休んでてくれ」
とバルディエルを解除した。
やはりヤツは帝王と呼ばれるだけあって強い。アーティファクトにすら勝ってしまったのだ。
これで決めなければ此方がやられる。
そして俺はトロール達に守られながら再び口上を唱えた。
[イフェスティオ]
炎の帝王と呼ばれており、炎の支配者イフリートの上位種。
人型でありながら18メーターはある巨体は魔法を受け付けず、近付けば焼かれる。攻撃手段が限られてしまい、一方的な虐殺が始まる。




