エピローグ2/2・「悲しい英雄」
『う~ん。 参ったなぁ』
ソレは空から地を見下ろしていた。
しかしそれは鳥ではない。あるいは、生物ですらないだろう。
『人に危害を加えないようにするってだけで、こんなにも行動が制限されるなんて。 面倒』
そう愚痴ってしまうのも無理はないだろう。
”災厄”がありとあらゆるものに有効な力であり、”虚無”・カルマの力が対悪魔に特化したものであるとするなら、ソレ、”混沌”の力は知性ある存在に対し特化した能力、つまりは人に対し最も猛威を振るう力なのだ。
故に”災厄”に釘を刺されている以上、その力を解き放ち、楽をするということができないでいた。
『むう、仕方ない‥‥‥‥」
声音が変わったのはその姿が変貌したからだ。
巨大な黒雲と見まごうような異形の姿から、夢の世界で”災厄”と出会った時の幼女姿へと変わり、身の毛よだつようなおぞましい声から可愛らしい声へと変わる。
「‥‥‥‥うん?」
ふと、なじみ深い感覚を感じ、”混沌”はとある方向へとその紫水の瞳を向けた。
なじみ深い感覚‥‥‥‥それは自分も使い慣れた、”必悪”の異能が解き放たれたときの、何とも言えない感覚だ。
魔法でもない”必悪”の異能は、同じ”必悪”に共鳴にも似た感覚を抱かせる。
故に、”混沌”はもちろん、”災厄”、そしてもう一人‥‥‥‥今はやりすぎて、人間たちに封じられた”暴虐”も仲間を間違えることはない。
「でも随分脆弱な‥‥‥‥ 新入りだから、仕方ないのかな?」
自分らとは少し違うことに疑問を覚えながらも、”混沌”はその感覚を頼りに移動を開始するのだった。
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我らは”間引き手”
例え憎まれ恨まれようと この手は摘み取る為にある
我らは”悪”
例え忌み嫌われようと 己が役目を果たすもの
例え全てが敵になろうと 大義の為に道を進め
骸の並んだ果てなき道を
”必悪” 悲しき英雄よ
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これは、歌。
”必悪”達を憐れみ、そして憂う、誰かが作った悲しい歌。
「悲しい英雄の歌」。